第18話
『砂時計が落ちきりました、これよりブレイクタイムと致しますので、私共は一旦これにて』
無数の扉と共にシルヴァやカラス頭の執事が姿を消し、真っ白な空間にはすみれと里中の二人だけになった。
(シルヴァさんの居ないこの状況で、木村さんが吹っ飛んでこないと良いけど…)
木村の行動は明らかにルール違反だ、
扉へと駆けて行ったとしても、あのまま無事に戻れることはないだろう。
しかし、今のタイミングで再び里中の目に山田の様な状態の木村が映ってしまったら、今度こそ里中の心は壊れてしまうんじゃないかとすみれは不安で仕方なかった。
里中は今もすみれの膝に縋り、ブツブツと何か呟いている。
すみれは、そんな里中の背をゆっくりと撫で、「里中さん、大丈夫ですよ」と繰り返し声を掛けて過ごした。
『皆様、ごゆるりとお休みになられたでしょうか、これよりゲームを再開させて頂きます』
長いブレイクタイムがやっと終わり、シルヴァの声掛けに、すみれは即座に立ち上がった。
そして再びひたすらに鍵穴へと鍵を差し込むのを繰り返し、とうとう左側の壁に設置してある扉は全て調べ終わってしまった。
「あとは反対側…」
『ほう…』
長時間に渡る単調な作業を黙々とこなすすみれの姿に、シルヴァは感心した様に顎に手を当てた。
扉の数が減らされたとはいえ、気が遠くなる光景なことには変わりない。
しかし、左右両方に存在する扉を百とすると、残り半分までに減らすことが出来たとも言える。
すみれはとにかくあまり深く考えることなく、鍵を差し込むという動作にだけ意識を集中させていた。
そうして砂時計が三分の一ほど落ちた頃、待ち望んだ音が空間に響いた。
「あ…!開いた!」
扉を開き、すみれが砂時計を振り返ると、すみれの体感よりはるかに砂時計は進んでおらず、自分自身にも疲労が蓄積していることを自覚した。
『おめでとうございます』
シルヴァの拍手を受け、すみれは急いで里中へと駆け寄る。
「里中さん!扉が見つかりました!帰れますよ!」
「い…嫌だ…しにたくない…」
「大丈夫です、里中さんは死にません!大丈夫ですから。私の顔を見てください」
すみれは俯く里中の顔を両手で持ち上げ、無理矢理視線を合わせた。
焦点の合っていない里中に、すみれは軽く頬を叩きながら声をかけ続けた。
「里中さん、さぁ行きましょう」
やっと目が合った里中は潤んだ瞳ですみれを見つめ、「でも怖いの…」と声を震わせた。
「分かります、でもこのままここに居ても何も変わりません。ここから出ましょう」
「だけど…もし帰れなかったら?あの人達が嘘をついていないかなんて、私達には確かめられないじゃない…」
「確かにそうですね。でも私達の選択肢は限られているのは事実です。この空間に居続けるか、扉の先へと進むかです。里中さんの扉は見つけました、私も自分の扉から出ようと思います」
「でも…わたし……」
すみれから視線を逸らす里中に、すみれは大袈裟にため息をつき、パッと立ち上がった。
「じゃあ、私は先に行きますね。里中さんの出口はもう確保出来ましたし。はい、里中さんの鍵です。それじゃあ、さよなら」
すみれは敢えてあっさりとした口調で里中から離れると、「ま、まって!お願い!私も行く!お願い!」と里中も慌てて立ち上がった。
里中は最初から"この空間に一人残される"ことを一番恐れていたことをすみれは思い出した為、とった行動だった。
『お二人ともおめでとうございます、双方共正しい扉を見つけることが出来ました。さて、扉の先へとお進みになりますか?』
ニッコリと微笑むシルヴァに、二人は頷く。
『かしこまりました、それではまた"機会"があれば、お会い致しましょう』
そう言って恭しく一礼するシルヴァと、カラス頭の執事達による拍手に見送られ、すみれと里中は最後にお互いに一言二言声を掛け合った後、扉の先へと進んで行った。
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