五章

第10話

バンッという大きな音で目を覚ましたすみれがゆっくりと目を開けると、誰かの膝に縋るようにして眠っている自分に気が付いた。



「すみれさん、ゲーム再開するみたい」



上から聞こえてきた声を見上げると、そこには里中の顔があった。



「えっ、私!」


勢いよく起き上がったすみれに里中は明るい笑い声を上げる。



「すいません、私の頭重かったですよね!いつの間に寝て…!」


「そんな良いんだよ、私も膝枕して貰ってたし。それにそこまで長い時間してないから」



そう言ってすみれに微笑みかけてくる里中の表情を見て、すみれは少し安堵する。


(良かった、少しは気持ちも落ち着いたみたいで)



『皆様、おはようございます。ゆっくりお休み頂けたでしょうか』



真っ白な空間にシルヴァの声が響き、再び執事服を纏ったシルヴァが浮き上がる様にして現れた。



『それでは早速ゲームを再開させて頂きますが、開始前に一つ、確認事項がございます』



「確認?」


あくびをしながら伸びをする木村が怠そうな声を出した。



『はい。皆様、この御屋敷内での私からの"お願い"を覚えてらっしゃいますでしょうか』



シルヴァの問いかけに、参加者全員が暫く沈黙した後、一番最初に思い出した様子で声を上げたのは田村だった。



「ああ!"旦那様のご機嫌を損ねないように"でしたね?」



田村の回答にシルヴァは『素晴らしい!』とよく通る声を張り上げ、パチパチと手を打った。



『その通りでございます。では田村様、引き続きお伺いしますが、旦那様は一体何が一番お嫌いだと私はお話しましたか?』


「それは…えっと"嘘"だったと思います」


『正解です!旦那様は嘘が何よりもお嫌いな方です。皆様もくれぐれもお気を付けください。皆様の住むあちらの世界では"嘘も突き通せば誠となる"とも言うようですが、それはこちらでは通用しない理論でございますゆえ』



最後にシルヴァはそう締めくくり、参加者全員の顔を確かめる様に見渡すと、柔らかい笑顔を浮かべたまま二度手を打ち、その白い空間の壁に再び無数の扉を浮き上がらせた。



そして次に指を鳴らすと大きな砂時計を呼び出し、そっと手を添えた。



『お待たせ致しました、それではゲームを再開させて頂きます。皆様くれぐれもルールをお忘れないようお願い致します』



参加者に恭しく一礼したシルヴァは、顔を上げると再び砂時計へと手を伸ばし、カラス頭の執事達の鳴らすシンバルと同時に片手で砂時計をひっくり返した。

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