二章

第3話

『皆さん、ようこそいらっしゃいました。久しぶりのご来客に旦那様もお喜びでございます』


「旦那様…?」


すみれの聞き返す小さな声に、執事服の男はにっこりと微笑む。



『ええ。しかし残念なことに、旦那様が正式にご招待したのはこの中の"お一人様"だけです。残りのお客様のお部屋は本日ご用意しておりませんので、どうかお引き取り頂きたいのです』



「正式にご招待?お引き取り?いきなり現れて何言ってんだよアンタ!」


執事服の男に怒鳴り声を上げたのは木村だった。



『これは失礼いたしました、私はこの屋敷の執事を務めております。シルヴァと申します』



木村の乱暴な物言いに、シルヴァは特に気分を害した様子もなく、穏やかに微笑み一礼した。



『さて、お客様方におかれましては先程申し上げました通り、ある"お一人"を除いてはお帰り頂くことになりますが…。せっかくこちらへ来て頂いたのですから、簡単なゲームに参加して頂こうと思います』




「ゲーム…」


「おい、勝手なこと言うな!訳わかんないこと言ってねーで早く俺達をここから出せよ誘拐犯!!」


「というかここ…実は天国とかで、私達はもう死んでる…とかってパターンじゃないよね!?」



木村と里中が悲鳴に近い声を上げた為、田村もだんだんと顔を青くしていく。



「そこの2人、少しは落ち着いてください。冷静に話が出来ないなら、そこで耳を塞いで黙っていてください。鬱陶しい…」



シルヴァが現れてから終始沈黙していた山田が眉をひそめ、ため息をついた。



「なんだとてめぇー!!すかしやがって、お前もこの訳分かんねーヤツの仲間だな!?」



「ちょっと木村さん落ち着いて…まずはこの執事さんの話を聞いてからにしましょう…」



大声を上げ、山田に反論する木村に対し、少し離れた位置から田村が落ち着いた声で宥める。



「ちっ!くそっ!!」



田村の言葉に、一先ず木村が口を閉じたタイミングでシルヴァが再び口を開いた。



『ゲームに参加して頂くに当たって、皆様に認識を合わせて頂きたい点がいくつかございます。先程、木村様が私のことを"誘拐犯"と表現なさいましたが、それは間違いでございます。私はこの屋敷に仕える執事であり、ここは"旦那様の御屋敷"でございます』



(御屋敷…でもその旦那様ってどこにいるんだろ…この中に招待された人が紛れているなら、その人はなんで名乗りでないのかな)



すみれはシルヴァのよく通る声を聞きながら心で小首を傾げた。



『本来ここにご招待したお客様はただ一人。他の4名様は"招かれざる客"と言うわけです』



「招かれざる客って…私達、好きでこんな所に来たんじゃない!」



シルヴァを見上げて叫ぶ里中に、シルヴァはその穏やかな琥珀色の瞳を一瞬見開いた。



『おや、そうでしたか。それは失礼いたしました、ですがこれだけは頭に入れて頂きたいのです。"貴方がたは貴方がたの意思には関係なくとも、自らこの屋敷へとやって来た"のです。ですのでここで私からのお願いなのですが、くれぐれも旦那様の機嫌を損ねぬ様、ご協力頂きたいのです』


「機嫌て…さっきからその旦那様は出てこないじゃないか、会いもしない相手の機嫌をどう取ってどう損ねるんだ?」



木村の小馬鹿にした様な態度に、他の3人は眉を寄せた。


(……空気悪いなぁ…)



『旦那様は貴方がたがここへ到着したその瞬間から貴方がたを見てらっしゃいます。正にこの瞬間も旦那様はこの様子をご覧になっておられます』



シルヴァの言葉に全員が騒然とした。



真っ白な空間には向かい合うように大きな白い柱が立ち、この屋敷を支えている。



シルヴァが宙に浮いて、こちらを見下ろしている以外、この空間にはなにもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る