第8話「訊いてみたかったこと」

「そしたらさぁ、長谷部はせべさんが『なにそれ面白ーい!』って言っててさー」

「あはは、たしかに面白いかもしれないな」


 あれからしばらく柚葉の部屋で、二人は話していた。学校での出来事を話すから、柚真も緊張することはない。

 柚真は、柚葉のこの『色目を使わない』接し方が好きだった。友達として、対等な立場で話してくれる。他の女の子とだと、すぐに恋愛系の話になってしまうため、柚真も少し辟易へきえきしていた。


「長谷部さんといえば、中学校一緒だったよねぇ。懐かしいなあの頃が」

「ああ、懐かしいな。数年前なんだけど、もっと前のような気がして」

「うんうん、中学一年生のとき、柚真は転校してきたんだよねぇ」

「そうだったな。右も左も分からなくて、どうしようと思ってた」


 柚葉が話した通り、柚真は中学一年生のとき、この街に引っ越してきた。その頃から柚真は中性的で綺麗な顔立ちをしていて、背もまだあまり大きくなかったため、柚葉は一瞬女の子なのかなと思っていたくらいだ。

 それから柚真は男の子らしく、どんどん身長が伸びていった。しかし綺麗な顔立ちは変わらなかったため、女の子に注目されることが多くなった。まぁ仕方ないかなと、柚葉も思っていた。


「ふっふっふー、そんなときに現れたのが私ってわけね!」

「ま、まぁ、柚葉は名前を聞いてすぐに覚えたから、あの頃なんでも訊いてたな」

「そうそう、最初は『なんだこいつ、名前似てるじゃん!』って思ったけど、話してみたらいい人でしたなぁ柚真さんは」

「か、からかうなよ。まぁ、柚葉のおかげでなんとかなったのは間違いないけど……」


 それから今まで、柚葉と柚真は、いい友達関係でいることができた。男女ということで恋愛関係になりそうなところだが、この二人にはそれがなかった。ちょうどいい距離感で、いい友達でいることが、二人にとっての安心でもあった。


「そういえば中学のとき、柚真は嫌がらせ受けてたねぇ、名前忘れちゃったけど、目立つ男の子から」

「ああ、そんなこともあったな。あのときも柚葉が怒ってくれたっけ」

「そうそう、正義の味方である私がちゃんとお守りしましたよぉ。あ、護衛っていうのかな」

「そ、それはどうなんだ……まぁいいか。柚葉だって、僕をかばったことでなんか言われたのに」

「そんなの私は気にしないよー。この前向きな私が、そんな陰口には負けませんよぉ」

「柚葉のそういうところ、なんか安心できる」


 そう言って柚真はニコッと笑った。また綺麗な顔をして……と柚葉は思った。


「そっか、それならよかった。ねぇ、一つ訊いてみたかったんだけど……」

「ん?」

「私が、『柚真のことが好きです。お付き合いしてください』って言ったら、柚真はどうする?」


 その言葉を聞いた柚真は、びっくりしたような顔をした。あ、あれ? さらっと流してくれていいところなんだけどな……と、柚葉は逆に恥ずかしくなってしまった。


「……まぁ、そのときはそのときで、考える」


 柚真は柚葉の目を見て、小さな声で言った。

 その柚真の目を見て、柚葉はドキッとしてしまった。


「……そ、そっか。まぁそうだよね、訊いてみたかっただけだからね、なんでもないから、安心して!」

「なんか慌ててるのは気のせいか……?」

「そ、そんなことないですよぉ。あ、そういえば球技大会がもうすぐあるね」

「ああ、今年は全員バレーボールなんだっけ」

「そうそう。柚真はほら、背が高いから活躍できそうな気がするな」

「バレーは嫌いじゃないけど、どうかな。それなりに頑張ってみる」

「うんうん、応援してるからね」

「ありがとう……って、柚葉も頑張れよ。応援してる」

「う、うん、私もそれなりに頑張ってみようかなー……あはは」


 柚葉はそう言って、オレンジジュースをくいっと飲んだ。


(……なんか、さっきの柚真の目……いつも通りなんだけど、吸い込まれそうな気持ちになったというか……なんだろう)


 それからもしばらく二人で話したり本を読んだりしていて、夕方になって柚真は帰っていった。

 ただ、柚葉の心の方は、どうやら穏やかではなさそうだった。

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