第6話「綺麗な横顔」
「――それで、こうなるから、ここがこうなって――」
先生の声が教室に響く。
授業中、くるくるとペンを回す柚葉がいた。
集中していないわけではない。ペンを回すのは柚葉の癖だった。今日も朝からみっちりと授業が行われている。学生というのは大変だなと思わなくもない。
「――ここはテストに出やすいからなー、書いておけよー」
先生が言った。そういえばテストもあるから、しっかりと復習もしないといけないなぁ……と思った柚葉は、ふと隣を横目で見た。
視線の先にあったのは、柚真の綺麗な横顔だった。
(……はぁ、いいなぁ柚真は。綺麗な横顔しちゃって……私にその綺麗さを分けてほしいくらいだよ……)
横目で見ていたつもりが、けっこうしっかりと柚真を見る柚葉。柚真は視線には気がついていない。
(……まぁ、柚真に惚れる女の子がいるのも分かる気がするなぁ。これだけイケメンなんだもん、あの三人組みたいな人が他にもいるかもね)
「――下、坂下ー?」
そのとき、柚葉はハッとした。前を見ると先生がこちらを見ている。あ、い、今呼ばれたのかな、柚葉は慌てて「は、はい!」と言った。
「どうした? なんかぼーっとしてたみたいだが。今言ったところを答えてくれ」
あ、あれ? 今言ったところってどこだ……? 慌てて教科書とノートを見るがよく分からない……と思っていたら、隣から手がスッと伸びてきて、教科書のあるところを指さした。柚真だった。
「……あ、は、はい。えっと……」
その場で考えて、解答を言う。先生は「OK、分かってたみたいだな。これはこうなって――」と、解説を始めた。
柚葉は柚真の方を見て、小さな声で「……ありがと」と言った。柚真は何も言わず、コクリとうなずいただけだった。
* * *
「あ、危なかった……」
授業が終わり、休み時間。柚葉はふーっとため息をついた後、ぽつりと独り言を言ってしまった。まさか柚真のことを考えていると当てられるなんて。
「……さっきはどうした、なんかぼーっとしてなかったか?」
柚葉の隣から声が聞こえた。柚真がじっとこちらを見ている。柚葉は慌てて、
「……あ、な、なんでもない、ちょっと考え事していて……」
と、答えた。まぁ嘘はついてないから、これでいいかなと思った柚葉だった。
「考え事? なんか柚葉らしくないな」
「う、うん、私だって考えてることがあるからねー」
「まぁそれもそうか。どんなこと考えてたんだ?」
「……え!? そ、それは……秘密!」
「……なんだよ、秘密なのか。せっかく問題の場所教えてあげたのになぁ」
そう言って少しにやっとした柚真。く、くそぅ、さっきの恩を忘れたのかと言わんばかりのこの顔。柚葉はちょっとだけ悔しくなった。
「お、女の子には秘密の一つや二つあるのよ! 仕方ないの」
「そっか、まぁいいや。いつかは柚葉の秘密の話、聞いてみたいものだな」
また柚真がにやっとした。その顔もカッコいいんだから……と心の中で思った柚葉だった。
「――ねえねえ、河村くん、ちょっといいかな?」
そのとき、クラスメイトの女の子が柚真に話しかけていた。よかった、これで解放される……と思っていたら、
「――さっきはなんか慌ててたけど、どうかした?」
と、柚葉に話しかける人がいた。亜紀だった。
「あ、う、うん、それが……」
柚真に聞かれないようにちょっと移動した柚葉は、小さな声でこう言った。
「……ちょっと柚真の横顔に見惚れてたというか、なんというか……惚れる女の子がいるのも分かるなぁと」
「……え、そうなんだね、なんだ、柚葉は河村くんのことが好きなんじゃん」
「……え!? い、いや、違う、そういう意味じゃなくて……」
「……隠さなくていいよ。でも、河村くんは横顔も綺麗だもんねぇ。私にその綺麗さを分けてほしいよ」
亜紀も柚葉と同じようなことを考えているようだった。
う、うーん、好きとはちょっと違うんだけどな……と、柚葉は複雑な気持ちになっていた。
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