第13話 デート!?

13.デート!?


「警視庁捜査一課の苽生真偉雅だ」


テープの中に入ろうとして捜査員に止められたので警察手帳を見せた。


それなのに目の前の捜査員はなんとも言えない笑いを堪えたような顔をしている。


そして気づくと周りの人々が自分を見ながらクスクス笑ってる。


スパンッと頭を後ろから叩かれた。


「苽生!!!遊んでんなよこのバカが!!!」


岡崎だった。その手には狼の耳のカチューシャ。


「ああ!」

と慌てるマイカ。


「ああじゃねーよ!猫耳付けやがって」


「狼だよ」とマイカ。


「いいから早く中入るぞ」

と岡崎。


現場は、宝石店、殺されたのは店主の男。鈍器のような物で殴られている。


「外国人ギャングの強盗か?」

とマイカ。


「ああ、そうみたいだ。何人かは捕まえたが、何人かは逃げられた」


「なんかあんまり盗られてないように見えるな」とマイカ。


現場は荒らされており、ディスプレイも割られているのに、宝石や時計が中に残っている。


「そんなに全部取れないだろ、盗品は足がつきやすいからな、現金目当てだろ」

と岡崎。


マイカは店の奥に足を踏み入れる。


「なんで店の奥を荒らしたんだろう」

とマイカ。


「ギャングたちは?」

とマイカが岡崎に聞く。


「通訳通して取り調べしてるから時間がかかるだろうな」


「なに人?」


「なんとかスタン人だよ」

と岡崎。


「リーダーは?」


「一つのグループじゃなくて、寄せ集めで、リーダーらしき奴は捕まってない」


「闇バイトの可能性は?」


「その可能性があるな」


マイカは1人だけ違う動きをした人物の形跡を匂いで追っていた。


店舗の奥の床に不自然な空間があることに気づいた。よく見ると四角い跡がある。


「金庫ごと取られたのか…」

と、マイカが呟いた。


「被害者はどんな人物?」


「店主で名前はウスマ・エルバス、56歳アルバニア人15年前から店を経営している」



アルバニアか…


その後の調べで、やはり反抗グループは闇バイトで集められたことがわかった。


マイカは店主について、気になり、仕入れ先を調べていると、アルバニアンマフィアとの繋がりを突き止めた。


「一体何が盗まれたんだ…」

捕まった者たちの持ち物からは金庫は出て来ていない。


事件から数日後だった。


先日の強盗の残党が捕まったとの報告があった。聞けば、通報が入り、機動捜査員が向かったところ、結束バンドで拘束されて転がっている実行犯がいたという。


実行犯はヘルメットを被った1人の男にやられたと言っていた。

ヴィッキーしかいないとマイカは思った。


マイカはリーダー格の青年の取り調べを担当した。


「前回の強盗事件で、何を取った?」

通訳が訳して青年に伝える。取り調べを見ている岡崎と権田原は何を聞いているのかと訝しんだ。


「宝石と現金」

と、青年が答えた。


「君1人は別の行動をしていただろう?」

青年の顔色が変わった。なぜそんなことがわかったのだろうか、防犯カメラは初めに破壊したはずだ。岡崎も一体どんな推理なのかと思った。


「なんのことだかわからない」

と、青年。嘘の匂いがした。


「金庫…」

彼の言語でその言葉を言うとマイカは反応を見た。


青年の目が泳ぐ。


「金庫は取ってない」

と、青年が言った。


そこでマイカは通訳に確認をした。彼が金庫を取っていないと言ったのか、金庫の中身を取っていないと言ったのか確認するためだった。


店の金庫は全てビルトインであった。運べるような金庫はなかった。青年は逃げ場を無くした。


「金庫の中身はなんだ?」


「知らない」

と、青年は答えた。


「今どこにある?」


マイカが問い詰めると、自分は金をもらって金庫を運んだだけで、中身が何かは知らないという。闇サイトで請け負った仕事らしく、渡した相手の正体もわからないと言った。


「中身を聞かなかったのか?」


「聞いたけど教えてくれなかった」


「中身について全く何も言わなかったのか?何か思い出せることはないか?」


「俺が密輸したダイヤモンドかって聞いたんだ。そしたらそんなかわいいもんじゃないって言われた」

と、青年。


聞きたいことだけ聞くと、岡崎に取り調べは任せた。岡崎の方が取り調べは上手い。人が良さそうなのでつい相手が油断するのだった。


外国人の強制送還はなかなか認められない。特に人権侵害が激しい国への送還は国際問題に発展していた。日本の刑務所は今外国人で一杯だった。


マイカはヴィッキーに連絡した。メッセージアプリでメッセージを送る。


『この前はごめんね、犯人捕まえてくれてありがとう』


『なんのことだかわからない』

と、すぐに返信が来た。


『今夜、空いてる?』


『デートのお誘いならまたにしてくれ』


そこでヴィッキーに電話がかかって来た。


結局捜査の情報を小出しにされて興味が湧いてしまい釣られてしまったヴィッキーだった。


呼び出されたヴィッキーは完全に男装だった。


「あれ?今日は1人?」と、マイカ。


「非番だよ」と、ヴィッキー。

その様子に違和感を感じて聞く。


「ふーん、もしかして強盗の件彼女に言ってないの?」


「たまたま通りがかりに見つけただけだから」とヴィッキー。マイカに目を合わせない。


「へー、たまたまね〜」

と、マイカがにやけた。以前オオカミになってしまった時もヴィッキーはあんなところで何をしていたのだろうか。


「なんだよ、文句あんのかよ」

とヴィッキー。


「まるでアメコミのヒーローみたいだね」

と、マイカがからかった。


「うるせーよ」

と、ヴィッキー。恥ずかしがっているのがかわいいとマイカが思う。


2人は、五区のダイニングバーに入った。欧米人も多く、高音質のスピーカーから心地の良いソウルミュージックが流れていた。


「良い店だろ」とマイカ。


「悪くないね」とヴィッキー。


2人はピザなどを頼むとビールで乾杯した。


「君もこの銘柄好きなんだね」とマイカ。

2人が頼んだのはドイツの銘柄だった。


「一番美味しいじゃん」と、ヴィッキー。


「俺もそう思うよ」と、マイカ。


「それで、面白い話は?」

と、ヴィッキー。


「まあまあ、そう焦るなってせっかくのデートを楽しもうじゃないか」

と、マイカ。


「マイカは変な趣味があるんだね」

と、ヴィッキー。ヴィッキーは今日は男モードだ。


「ヴィッキー、君はとっても綺麗だよ」

と、マイカ。目が少し黄味がかった色に光った気がした。


「口説きに来たなら帰るぞ」

と、ヴィッキー。


「ハハ、そんなに怒らないでよ」

とマイカが笑う。全ての顔のパーツが計算されたように美しい形、そして美しい配置だ。一方気取った感じはなく、笑い方は優しげで親しみやすい。


「最近巷で中東の移民が内輪揉めをしているのは知っている?」

と、マイカ。


「内輪揉めって言っても宗教の対立だろ?」

と、ヴィッキー。


「そうだね、一部が武装し始めて騒ぎになっている」


「それと強盗になんの関係があるの?」


「二区の強盗の殺害された被害者がアルバニア系マフィアの繋がりで商品を仕入れていたんだ」


「それで?」


「店主は武装勢力と蜜月だった。実行犯は金で、雇われていて、雇い主と思われる人物に盗んだ金庫を渡したらしい」


「中身は?」


「実行犯の青年は知らないみたいだが、何か物騒な物の可能性がある」


「レッドバルーンとか?」

と、ピザを食べながらヴィッキーが言う。


「なんだそれ」

マイカが眉を顰める。


「傭兵時代に噂を聞いたことがある。アフリカで見つかった鉱物らしいんだけど、見た目は赤くて綺麗な宝石みたいなのに、一定の熱を加えるとびっくりするような規模の爆発を起こすらしい」


「初めて聞いたよ」


「そうだろうね、私も噂でしか聞いたことがなくて真偽も定かじゃない。ただそれを扱ってるのがアルバニアンマフィアらしい」


「そんなもの…武装勢力に渡ったら大変なことになるじゃないか…というかヴィッキー傭兵だったの?」


「そうだよ」


「なんで日本に来たの?」


「百合に惚れられたの」


「ハハっ冗談じゃなさそうだな」


「冗談じゃないからね」

と、笑うヴィッキー。

今日初めて笑ったのを見てマイカは少しドキッとしてしまった。


「君のことを何も知らないんだ、少し教えてよ」


ヴィッキーは、冷えてチーズが少し固まり始めたラザニアに手を延べた。白くて綺麗な指が器に添えられる。

マイカはそれを見ていた。


「え?」

ラザニアから湯気が出て来て、チーズがとろけ、ミートソースから滲み出た油脂がぐつぐつと沸いてきたではないか。


「面白い?」

とヴィッキー。少し不安と緊張の匂いがした。


「どうやったの?」

と、マイカ。


「なんか熱くなる能力だよ」

と、ヒラヒラと手を振る。


「そういう民族とか何か?」


「マイカとは違うって言っただろう。私はヴァンパイアでも狼人間でも魔女でもないよ」


「じゃあなんなの?普通の人間ではないよね?」


「元々サイボーグだったけど、隕石に当たって超能力者になった」


「は?」

マイカの目が点になった。


「元々軍事兵器みたいな扱いで作られて普通の人間の何百倍も感覚が鋭くて、運動能力も高い。ある日弾薬庫で隕石に当たって爆発と共に変な能力と異常な再生能力を持つようになった」


「それ本当の話?」

とマイカ。


「別に信じなくても良いけどね」

と、ヴィッキーは無頓着な様子でパスタを巻いている。


「元いた組織はロシアの特殊部隊とか?」


「正解」


「それ言って良いの?」


「爆発で死んだと思われているだろうし、目覚めた時には荒野に1人、部隊とも会えずにサバイバルして結局傭兵団に拾ってもらった。だからもうロシアとは関係ないし、今はただの百合のボディーガードだよ」


「別にスパイだと思った訳じゃないけれど…それに嘘をついていたら俺もわかるから」


「そうだろうね、ワンワンだもんね」

と、ヴィッキーがからかってくる。自分も匂いでわかるし、それ以外にも嘘を見分ける方法は知っている。


「からかうなよ、びっくりするような話だったな…」

と、マイカ。


「狼人間と比べたらそうでもないよ」

とヴィッキーが笑うと、マイカも笑った。


「もしかして、ロシアには君以外にもサイボーグはいるの?」

マイカは深刻な顔をして言った。


「私以外はみんな産まれてすぐ死んだり、子どものうちに死んだり、産まれなかったりしたらしい。だから成功して生きてるのは私だけだと思う」と、ヴィッキー。


もしかして、隕石に当たらなかったらヴィッキーも早く亡くなっていたのかもしれないとマイカは思った。


「そんな深刻な顔すんなよ」

と、ヴィッキーが少し困ったように笑った。


「俺のこと信頼してくれてありがとう」


「別に、今更そんなに隠すこともないと思っただけだよ」

ヴィッキーはまた目を見ないで言った。

マイカは嬉しくて、その赤くて綺麗な目を見つめていた。


ヴィッキーはそれに気付くと本当に犬みたいだなと思った。出ていないが、尻尾を振っているように見えた。





店を出ると、マイカはヴィッキーを送ると言った。


「送り狼かよ」とヴィッキー。


「ハハッ!上手いこと言うね、でも女性が1人で歩いて良い時間帯じゃない」


ヴィッキーはマイカが自分を女性扱いしてくるので調子が狂ってしまう。


「誰も女だなんて思わないよ」

そう言ってヴィッキーは1人で帰ろうとしてしまう。


「それか夜のパトロールにご一緒しても?」

と、マイカがその背中に声をかける。するとヴィッキーがピタリと止まる。


「ただのストロールだよ」

と振り返るヴィッキー。


「じゃあそのストロールにご一緒しても?」


「好きにすれば」

と、ヴィッキー。


2人は並んで歩き始めた。五区はそこまで治安が悪くない。しかしこの時間は1人で電車に乗ろうと考える女性は少ない。大通りにはタクシーがひっきりなしに止まっていた。安いライドシェアを利用する女性もいるが、五区のような場所に来る女性はより安全で割高のタクシーを利用する方が多かった。


「ヴィッキーの家はどこ?」


「7区だよ、百合の家だけどね」


「流石だな、西園寺だもんな」

七区は超高級住宅街だ。区が住民の要望により高い住民税で警備会社を入れて、24時間体制のセキュリティーで区内が監視されている、東都で最も安全な地域だった。


「マイカは?」


「十五区だよ」


「遠くない?」


「ちょっとだけ自然が多いから気持ちが良いんだ、夜もちゃんと暗いし」


「なるほどね」


「パトロールは毎日してるの?」


「だからパトロールじゃないって、外に出たついでに気が向いたら散歩してるだけだよ」


「俺と遭遇したのもその時?」

狼になった時のことだ。


「そうだよ」


「ヴィッキーのパトロールのおかげで本当に助かったよ」


「はいはいどういたしまして」


「六区に向かってるの?」

マイカは少し嫌な顔をした。


「嫌なら来なくて良いよ」

と、ヴィッキー。


「ヴィッキーは大丈夫なの?」

六区の繁華街はお姉さんたちが絡んでくるので苦手だった。


「ああ、そういうことね、マイカ顔だけは良いもんな」


「だけは…って」

心外である。


「もっとやばい地区を通るから大丈夫だよ、怖いお兄さんならいっぱいいるけど」

と、ヴィッキー。




ヴィッキーが歩いて行くのは繁華街の裏通り。あえて裏通りを選んでいるように見えた。


道は細く、ゴミが多い。エスニックな調味料の匂いもしており、外国の言葉が聞こえている。


「なんか見られてるけど、ヴィッキー」


暗い色の肌の男たちが、何人も、道端から、ベランダから、見ている。


「部外者だから警戒されているんだ」


ヴィッキーは慣れた様子だ。


調味料の匂いだけではない、マリファナ、シンナーの匂いもする。


「え、ヴィッキー!?」

ヴィッキーが突然早歩きして路地に座り込んでいる少年たちのグループに近付いたかと思うと、突然1人の青年を蹴り飛ばした。


周りの青年たちが一斉に立ち上がってヴィッキー立てつく。


まずい、とマイカは反撃に備えた。


しかし、蹴り飛ばされた青年が他の仲間を宥めている。


「ヴィッキー…いきなり痛いよ…」

と、流暢な日本語で青年が話し出す。


「カリーム、てめぇシンナーやってんじゃねーよ」


「いつもやってる訳じゃないよ、ちゃんとママの店の手伝いもちゃんとしてるよぉ〜」

と、言う青年。インド人のような顔立ちだ。17歳くらいだろうか。

仲間の青年たちが何者だと2人を見ている。


「なんだ友達だったのか」

とマイカ。


「アイシャさんは元気かい?」


「おかげさまで、店閉めて夕飯食ってる頃だから良かったら顔出していきなよ、そっちのセレブリティみたいな人は何?」

と、マイカを指差す。


「こっちは僕の友達のマイカ、マイカ、こっちはカリームだ」


マイカは右手を差し出した。握手のついでに青年を立たせてあげた。


3人はカリームの母親の営む小さなレストランに向かった。


閉店したレストランでは、カリームの母親がスマホを見ながら夜食をつまんでいた。


カリームを見ると何かしかめっ面で、カリームに文句を言っている。


「なんか歓迎されてないよ?」

と、マイカ。


「大丈夫デフォルトだから」

と言うヴィッキーに、ええ…と戸惑うマイカ。


「Vicky, ヒサシブリネ、ゲンキ?お友達?ナイスガイね」

あ、怒ってないみたいだ、とマイカが安心する。


「アイシャさん久しぶり、アイシャさんも元気そうだね、友達のマイカだよ」


カリームが飲み物とスナックを出してくれる。


「ヴィッキー?彼らとの関係は?」


「やらかしてギャングに袋叩きにされてたカリームをたまたま通りかかってちょっと助けたんだよ」


「たまたまね…」とマイカ。


「カリーム、ちょっと聞きたいことあんだけど」と、ヴィッキー。


「なんだい?ヴィッキー、鮭の密猟はもうやってないよ」


今まで何を聞いて来たんだとマイカは思う。


「ちげーよ、レッドバルーンって聞いたことある?」


「なんだいそれ新手のドラッグかい?」


「ないなら良いんだ、アルバニアンマフィアの溜まり場とか知らない?」

マイカは驚いてヴィッキーを見た。


「な、なんでまた…危なすぎるよ、あんなのに関わったら命がないよ」

と、ブルブル震えるカリーム。


「別に巻き込みやしないよ、拠点がどこにあるか知りたいだけだよ」


「そんなにいっぱいいるとも思えないよ、ただ非アジア圏のマフィアなら、三区のラストデンっていうストリップクラブとかに出入りしてるよ」


「なるほどね」


「ヴィッキーなんでそんなこと聞くの?」

と、不思議そうにカリームが言う。


「最近、武装した勢力が九区のムスリム街を攻撃しただろう?その武器の供給源にアルバニアンマフィアが関わってるかもしれないんだ」

とマイカ。


「ああ、それね…」

と嫌な顔をするカリーム。


「何か知ってるの?」

とマイカ。


「運び屋をやってる知り合いが、アルバニア人から宝石を運んだらしいんだけど、その時に武器が運ばれてたのを見たって言ってた」


ヴィッキーとマイカは目を見合わせた。


「どこへ運んだかわかる?」

と、マイカ。


「それは流石にわからないし聞けないよ」


「わかったありがとう」

とマイカ。


「マイカって何してる人?」

と、カリーム。


「え、えっと…」

「警備員だよ」と、ヴィッキー。


「そ、そう!」とマイカ。

白けた目でマイカを見るヴィッキー。


「警備員か、強そうだもんね」

と、まじまじとマイカを見るカリーム。


「さあ、帰るぞマイカ」


「ヴィッキー!また遊びに来てよね」

とカリーム。人懐っこい子だ。


「ああ、ママの手伝いしっかりするんだぞ、あと学校ちゃんと行けよ、アイシャさん!ありがとね!」

と、奥に入っていたアイシャにヴィッキーが呼びかけた。


「ハーイ、マタキテネ!Good night!」

と、アイシャさん。


「ありがとうございました!」

とマイカも声をかけた。


「どうやら、本当みたいだな…」

店を出るとマイカが言う。


「行ってみようかラストデン」


「いや、だめだここからは警察の仕事だ」

ヴィッキーはいくら強くても一般市民だ。下手に巻き込むわけにはいかない。


「1人で行くの?」


「他の捜査員も連れて行く」


「マイカって何カ国語できる?」


「英語とフランス語、あとはドイツ語が少し」


「私はフランス語とドイツ語はもちろんできるし、他にもイタリア語、中国語、スペイン語、ポルトガル語、アラビア語、あとスラヴ語系はなんとなくわかる」


「すごいな…」


「盗聴には耳が良い私たち2人は適任じゃない?」


マイカは渋い顔をする。


「それに、若造1人、いやおっさんが付いてったとしても門前払いに決まってる」


「何か案はあるのか?」


ヴィッキーはニヤリと笑った。

13.デート!?


「警視庁捜査一課の苽生真偉雅だ」


テープの中に入ろうとして捜査員に止められたので警察手帳を見せた。


それなのに目の前の捜査員はなんとも言えない笑いを堪えたような顔をしている。


そして気づくと周りの人々が自分を見ながらクスクス笑ってる。


スパンッと頭を後ろから叩かれた。


「苽生!!!遊んでんなよこのバカが!!!」


岡崎だった。その手には狼の耳のカチューシャ。


「ああ!」

と慌てるマイカ。


「ああじゃねーよ!猫耳付けやがって」


「狼だよ」とマイカ。


「いいから早く中入るぞ」

と岡崎。


現場は、宝石店、殺されたのは店主の男。鈍器のような物で殴られている。


「外国人ギャングの強盗か?」

とマイカ。


「ああ、そうみたいだ。何人かは捕まえたが、何人かは逃げられた」


「なんかあんまり盗られてないように見えるな」とマイカ。


現場は荒らされており、ディスプレイも割られているのに、宝石や時計が中に残っている。


「そんなに全部取れないだろ、盗品は足がつきやすいからな、現金目当てだろ」

と岡崎。


マイカは店の奥に足を踏み入れる。


「なんで店の奥を荒らしたんだろう」

とマイカ。


「ギャングたちは?」

とマイカが岡崎に聞く。


「通訳通して取り調べしてるから時間がかかるだろうな」


「なに人?」


「なんとかスタン人だよ」

と岡崎。


「リーダーは?」


「一つのグループじゃなくて、寄せ集めで、リーダーらしき奴は捕まってない」


「闇バイトの可能性は?」


「その可能性があるな」


マイカは1人だけ違う動きをした人物の形跡を匂いで追っていた。


店舗の奥の床に不自然な空間があることに気づいた。よく見ると四角い跡がある。


「金庫ごと取られたのか…」

と、マイカが呟いた。


「被害者はどんな人物?」


「店主で名前はウスマ・エルバス、56歳アルバニア人15年前から店を経営している」



アルバニアか…


その後の調べで、やはり反抗グループは闇バイトで集められたことがわかった。


マイカは店主について、気になり、仕入れ先を調べていると、アルバニアンマフィアとの繋がりを突き止めた。


「一体何が盗まれたんだ…」

捕まった者たちの持ち物からは金庫は出て来ていない。


事件から数日後だった。


先日の強盗の残党が捕まったとの報告があった。聞けば、通報が入り、機動捜査員が向かったところ、結束バンドで拘束されて転がっている実行犯がいたという。


実行犯はヘルメットを被った1人の男にやられたと言っていた。

ヴィッキーしかいないとマイカは思った。


マイカはリーダー格の青年の取り調べを担当した。


「前回の強盗事件で、何を取った?」

通訳が訳して青年に伝える。取り調べを見ている岡崎と権田原は何を聞いているのかと訝しんだ。


「宝石と現金」

と、青年が答えた。


「君1人は別の行動をしていただろう?」

青年の顔色が変わった。なぜそんなことがわかったのだろうか、防犯カメラは初めに破壊したはずだ。岡崎も一体どんな推理なのかと思った。


「なんのことだかわからない」

と、青年。嘘の匂いがした。


「金庫…」

彼の言語でその言葉を言うとマイカは反応を見た。


青年の目が泳ぐ。


「金庫は取ってない」

と、青年が言った。


そこでマイカは通訳に確認をした。彼が金庫を取っていないと言ったのか、金庫の中身を取っていないと言ったのか確認するためだった。


店の金庫は全てビルトインであった。運べるような金庫はなかった。青年は逃げ場を無くした。


「金庫の中身はなんだ?」


「知らない」

と、青年は答えた。


「今どこにある?」


マイカが問い詰めると、自分は金をもらって金庫を運んだだけで、中身が何かは知らないという。闇サイトで請け負った仕事らしく、渡した相手の正体もわからないと言った。


「中身を聞かなかったのか?」


「聞いたけど教えてくれなかった」


「中身について全く何も言わなかったのか?何か思い出せることはないか?」


「俺が密輸したダイヤモンドかって聞いたんだ。そしたらそんなかわいいもんじゃないって言われた」

と、青年。


聞きたいことだけ聞くと、岡崎に取り調べは任せた。岡崎の方が取り調べは上手い。人が良さそうなのでつい相手が油断するのだった。


外国人の強制送還はなかなか認められない。特に人権侵害が激しい国への送還は国際問題に発展していた。日本の刑務所は今外国人で一杯だった。


マイカはヴィッキーに連絡した。メッセージアプリでメッセージを送る。


『この前はごめんね、犯人捕まえてくれてありがとう』


『なんのことだかわからない』

と、すぐに返信が来た。


『今夜、空いてる?』


『デートのお誘いならまたにしてくれ』


そこでヴィッキーに電話がかかって来た。


結局捜査の情報を小出しにされて興味が湧いてしまい釣られてしまったヴィッキーだった。


呼び出されたヴィッキーは完全に男装だった。


「あれ?今日は1人?」と、マイカ。


「非番だよ」と、ヴィッキー。

その様子に違和感を感じて聞く。


「ふーん、もしかして強盗の件彼女に言ってないの?」


「たまたま通りがかりに見つけただけだから」とヴィッキー。マイカに目を合わせない。


「へー、たまたまね〜」

と、マイカがにやけた。以前オオカミになってしまった時もヴィッキーはあんなところで何をしていたのだろうか。


「なんだよ、文句あんのかよ」

とヴィッキー。


「まるでアメコミのヒーローみたいだね」

と、マイカがからかった。


「うるせーよ」

と、ヴィッキー。恥ずかしがっているのがかわいいとマイカが思う。


2人は、五区のダイニングバーに入った。欧米人も多く、高音質のスピーカーから心地の良いソウルミュージックが流れていた。


「良い店だろ」とマイカ。


「悪くないね」とヴィッキー。


2人はピザなどを頼むとビールで乾杯した。


「君もこの銘柄好きなんだね」とマイカ。

2人が頼んだのはドイツの銘柄だった。


「一番美味しいじゃん」と、ヴィッキー。


「俺もそう思うよ」と、マイカ。


「それで、面白い話は?」

と、ヴィッキー。


「まあまあ、そう焦るなってせっかくのデートを楽しもうじゃないか」

と、マイカ。


「マイカは変な趣味があるんだね」

と、ヴィッキー。ヴィッキーは今日は男モードだ。


「ヴィッキー、君はとっても綺麗だよ」

と、マイカ。目が少し黄味がかった色に光った気がした。


「口説きに来たなら帰るぞ」

と、ヴィッキー。


「ハハ、そんなに怒らないでよ」

とマイカが笑う。全ての顔のパーツが計算されたように美しい形、そして美しい配置だ。一方気取った感じはなく、笑い方は優しげで親しみやすい。


「最近巷で中東の移民が内輪揉めをしているのは知っている?」

と、マイカ。


「内輪揉めって言っても宗教の対立だろ?」

と、ヴィッキー。


「そうだね、一部が武装し始めて騒ぎになっている」


「それと強盗になんの関係があるの?」


「二区の強盗の殺害された被害者がアルバニア系マフィアの繋がりで商品を仕入れていたんだ」


「それで?」


「店主は武装勢力と蜜月だった。実行犯は金で、雇われていて、雇い主と思われる人物に盗んだ金庫を渡したらしい」


「中身は?」


「実行犯の青年は知らないみたいだが、何か物騒な物の可能性がある」


「レッドバルーンとか?」

と、ピザを食べながらヴィッキーが言う。


「なんだそれ」

マイカが眉を顰める。


「傭兵時代に噂を聞いたことがある。アフリカで見つかった鉱物らしいんだけど、見た目は赤くて綺麗な宝石みたいなのに、一定の熱を加えるとびっくりするような規模の爆発を起こすらしい」


「初めて聞いたよ」


「そうだろうね、私も噂でしか聞いたことがなくて真偽も定かじゃない。ただそれを扱ってるのがアルバニアンマフィアらしい」


「そんなもの…武装勢力に渡ったら大変なことになるじゃないか…というかヴィッキー傭兵だったの?」


「そうだよ」


「なんで日本に来たの?」


「百合に惚れられたの」


「ハハっ冗談じゃなさそうだな」


「冗談じゃないからね」

と、笑うヴィッキー。

今日初めて笑ったのを見てマイカは少しドキッとしてしまった。


「君のことを何も知らないんだ、少し教えてよ」


ヴィッキーは、冷えてチーズが少し固まり始めたラザニアに手を延べた。白くて綺麗な指が器に添えられる。

マイカはそれを見ていた。


「え?」

ラザニアから湯気が出て来て、チーズがとろけ、ミートソースから滲み出た油脂がぐつぐつと沸いてきたではないか。


「面白い?」

とヴィッキー。少し不安と緊張の匂いがした。


「どうやったの?」

と、マイカ。


「なんか熱くなる能力だよ」

と、ヒラヒラと手を振る。


「そういう民族とか何か?」


「マイカとは違うって言っただろう。私はヴァンパイアでも狼人間でも魔女でもないよ」


「じゃあなんなの?普通の人間ではないよね?」


「元々サイボーグだったけど、隕石に当たって超能力者になった」


「は?」

マイカの目が点になった。


「元々軍事兵器みたいな扱いで作られて普通の人間の何百倍も感覚が鋭くて、運動能力も高い。ある日弾薬庫で隕石に当たって爆発と共に変な能力と異常な再生能力を持つようになった」


「それ本当の話?」

とマイカ。


「別に信じなくても良いけどね」

と、ヴィッキーは無頓着な様子でパスタを巻いている。


「元いた組織はロシアの特殊部隊とか?」


「正解」


「それ言って良いの?」


「爆発で死んだと思われているだろうし、目覚めた時には荒野に1人、部隊とも会えずにサバイバルして結局傭兵団に拾ってもらった。だからもうロシアとは関係ないし、今はただの百合のボディーガードだよ」


「別にスパイだと思った訳じゃないけれど…それに嘘をついていたら俺もわかるから」


「そうだろうね、ワンワンだもんね」

と、ヴィッキーがからかってくる。自分も匂いでわかるし、それ以外にも嘘を見分ける方法は知っている。


「からかうなよ、びっくりするような話だったな…」

と、マイカ。


「狼人間と比べたらそうでもないよ」

とヴィッキーが笑うと、マイカも笑った。


「もしかして、ロシアには君以外にもサイボーグはいるの?」

マイカは深刻な顔をして言った。


「私以外はみんな産まれてすぐ死んだり、子どものうちに死んだり、産まれなかったりしたらしい。だから成功して生きてるのは私だけだと思う」と、ヴィッキー。


もしかして、隕石に当たらなかったらヴィッキーも早く亡くなっていたのかもしれないとマイカは思った。


「そんな深刻な顔すんなよ」

と、ヴィッキーが少し困ったように笑った。


「俺のこと信頼してくれてありがとう」


「別に、今更そんなに隠すこともないと思っただけだよ」

ヴィッキーはまた目を見ないで言った。

マイカは嬉しくて、その赤くて綺麗な目を見つめていた。


ヴィッキーはそれに気付くと本当に犬みたいだなと思った。出ていないが、尻尾を振っているように見えた。





店を出ると、マイカはヴィッキーを送ると言った。


「送り狼かよ」とヴィッキー。


「ハハッ!上手いこと言うね、でも女性が1人で歩いて良い時間帯じゃない」


ヴィッキーはマイカが自分を女性扱いしてくるので調子が狂ってしまう。


「誰も女だなんて思わないよ」

そう言ってヴィッキーは1人で帰ろうとしてしまう。


「それか夜のパトロールにご一緒しても?」

と、マイカがその背中に声をかける。するとヴィッキーがピタリと止まる。


「ただのストロールだよ」

と振り返るヴィッキー。


「じゃあそのストロールにご一緒しても?」


「好きにすれば」

と、ヴィッキー。


2人は並んで歩き始めた。五区はそこまで治安が悪くない。しかしこの時間は1人で電車に乗ろうと考える女性は少ない。大通りにはタクシーがひっきりなしに止まっていた。安いライドシェアを利用する女性もいるが、五区のような場所に来る女性はより安全で割高のタクシーを利用する方が多かった。


「ヴィッキーの家はどこ?」


「7区だよ、百合の家だけどね」


「流石だな、西園寺だもんな」

七区は超高級住宅街だ。区が住民の要望により高い住民税で警備会社を入れて、24時間体制のセキュリティーで区内が監視されている、東都で最も安全な地域だった。


「マイカは?」


「十五区だよ」


「遠くない?」


「ちょっとだけ自然が多いから気持ちが良いんだ、夜もちゃんと暗いし」


「なるほどね」


「パトロールは毎日してるの?」


「だからパトロールじゃないって、外に出たついでに気が向いたら散歩してるだけだよ」


「俺と遭遇したのもその時?」

狼になった時のことだ。


「そうだよ」


「ヴィッキーのパトロールのおかげで本当に助かったよ」


「はいはいどういたしまして」


「六区に向かってるの?」

マイカは少し嫌な顔をした。


「嫌なら来なくて良いよ」

と、ヴィッキー。


「ヴィッキーは大丈夫なの?」

六区の繁華街はお姉さんたちが絡んでくるので苦手だった。


「ああ、そういうことね、マイカ顔だけは良いもんな」


「だけは…って」

心外である。


「もっとやばい地区を通るから大丈夫だよ、怖いお兄さんならいっぱいいるけど」

と、ヴィッキー。




ヴィッキーが歩いて行くのは繁華街の裏通り。あえて裏通りを選んでいるように見えた。


道は細く、ゴミが多い。エスニックな調味料の匂いもしており、外国の言葉が聞こえている。


「なんか見られてるけど、ヴィッキー」


暗い色の肌の男たちが、何人も、道端から、ベランダから、見ている。


「部外者だから警戒されているんだ」


ヴィッキーは慣れた様子だ。


調味料の匂いだけではない、マリファナ、シンナーの匂いもする。


「え、ヴィッキー!?」

ヴィッキーが突然早歩きして路地に座り込んでいる少年たちのグループに近付いたかと思うと、突然1人の青年を蹴り飛ばした。


周りの青年たちが一斉に立ち上がってヴィッキー立てつく。


まずい、とマイカは反撃に備えた。


しかし、蹴り飛ばされた青年が他の仲間を宥めている。


「ヴィッキー…いきなり痛いよ…」

と、流暢な日本語で青年が話し出す。


「カリーム、てめぇシンナーやってんじゃねーよ」


「いつもやってる訳じゃないよ、ちゃんとママの店の手伝いもちゃんとしてるよぉ〜」

と、言う青年。インド人のような顔立ちだ。17歳くらいだろうか。

仲間の青年たちが何者だと2人を見ている。


「なんだ友達だったのか」

とマイカ。


「アイシャさんは元気かい?」


「おかげさまで、店閉めて夕飯食ってる頃だから良かったら顔出していきなよ、そっちのセレブリティみたいな人は何?」

と、マイカを指差す。


「こっちは僕の友達のマイカ、マイカ、こっちはカリームだ」


マイカは右手を差し出した。握手のついでに青年を立たせてあげた。


3人はカリームの母親の営む小さなレストランに向かった。


閉店したレストランでは、カリームの母親がスマホを見ながら夜食をつまんでいた。


カリームを見ると何かしかめっ面で、カリームに文句を言っている。


「なんか歓迎されてないよ?」

と、マイカ。


「大丈夫デフォルトだから」

と言うヴィッキーに、ええ…と戸惑うマイカ。


「Vicky, ヒサシブリネ、ゲンキ?お友達?ナイスガイね」

あ、怒ってないみたいだ、とマイカが安心する。


「アイシャさん久しぶり、アイシャさんも元気そうだね、友達のマイカだよ」


カリームが飲み物とスナックを出してくれる。


「ヴィッキー?彼らとの関係は?」


「やらかしてギャングに袋叩きにされてたカリームをたまたま通りかかってちょっと助けたんだよ」


「たまたまね…」とマイカ。


「カリーム、ちょっと聞きたいことあんだけど」と、ヴィッキー。


「なんだい?ヴィッキー、鮭の密猟はもうやってないよ」


今まで何を聞いて来たんだとマイカは思う。


「ちげーよ、レッドバルーンって聞いたことある?」


「なんだいそれ新手のドラッグかい?」


「ないなら良いんだ、アルバニアンマフィアの溜まり場とか知らない?」

マイカは驚いてヴィッキーを見た。


「な、なんでまた…危なすぎるよ、あんなのに関わったら命がないよ」

と、ブルブル震えるカリーム。


「別に巻き込みやしないよ、拠点がどこにあるか知りたいだけだよ」


「そんなにいっぱいいるとも思えないよ、ただ非アジア圏のマフィアなら、三区のラストデンっていうストリップクラブとかに出入りしてるよ」


「なるほどね」


「ヴィッキーなんでそんなこと聞くの?」

と、不思議そうにカリームが言う。


「最近、武装した勢力が九区のムスリム街を攻撃しただろう?その武器の供給源にアルバニアンマフィアが関わってるかもしれないんだ」

とマイカ。


「ああ、それね…」

と嫌な顔をするカリーム。


「何か知ってるの?」

とマイカ。


「運び屋をやってる知り合いが、アルバニア人から宝石を運んだらしいんだけど、その時に武器が運ばれてたのを見たって言ってた」


ヴィッキーとマイカは目を見合わせた。


「どこへ運んだかわかる?」

と、マイカ。


「それは流石にわからないし聞けないよ」


「わかったありがとう」

とマイカ。


「マイカって何してる人?」

と、カリーム。


「え、えっと…」

「警備員だよ」と、ヴィッキー。


「そ、そう!」とマイカ。

白けた目でマイカを見るヴィッキー。


「警備員か、強そうだもんね」

と、まじまじとマイカを見るカリーム。


「さあ、帰るぞマイカ」


「ヴィッキー!また遊びに来てよね」

とカリーム。人懐っこい子だ。


「ああ、ママの手伝いしっかりするんだぞ、あと学校ちゃんと行けよ、アイシャさん!ありがとね!」

と、奥に入っていたアイシャにヴィッキーが呼びかけた。


「ハーイ、マタキテネ!Good night!」

と、アイシャさん。


「ありがとうございました!」

とマイカも声をかけた。


「どうやら、本当みたいだな…」

店を出るとマイカが言う。


「行ってみようかラストデン」


「いや、だめだここからは警察の仕事だ」

ヴィッキーはいくら強くても一般市民だ。下手に巻き込むわけにはいかない。


「1人で行くの?」


「他の捜査員も連れて行く」


「マイカって何カ国語できる?」


「英語とフランス語、あとはドイツ語が少し」


「私はフランス語とドイツ語はもちろんできるし、他にもイタリア語、中国語、スペイン語、ポルトガル語、アラビア語、あとスラヴ語系はなんとなくわかる」


「すごいな…」


「盗聴には耳が良い私たち2人は適任じゃない?」


マイカは渋い顔をする。


「それに、若造1人、いやおっさんが付いてったとしても門前払いに決まってる」


「何か案はあるのか?」


ヴィッキーはニヤリと笑った。

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