第51話 一時休憩と作戦会議
――というわけで、夢見丘高等学校放送部では新入部員を募集しています!
メーガンとハイド&シークのトークが軽快に続いていく。
優吾の耳にも届いているはずなのに、理解が追いつかなかった。
(次は何を話せばいいんだ)
頭の中からこれまでの出来事を掘り起こす。
ノートに何を書いたんだっけ、何か面白いエピソードはなかったっけ。
冷房の効いている放送室のはずなのに、背中に張り付くシャツが気持ち悪い。相変わらず心臓の鼓動も早く鳴り続けている。
目の前で憧れの二人がせっかく話をしているのに、自分だけ蚊帳の外にいるような気がして、焦る。
「よし。ここで一旦休憩しようか」
坂田ケインがそう言うと、「ふう」と肩を落とした。平木優子も同様だった。
それにつられて、高校生三人もほっと胸を撫で下ろす。
スタッフが機材を操作した後、ペットボトルの飲み物を全員に配り回った。
各々がキャップを開けてお茶を飲む。
優吾は口をつけてから自分の喉が相当乾いていたことに気づいた。思わず一気に飲み干してしまった。
「ちょっとさぁ、一之瀬くん! 緊張しすぎだって。このあいだみたいにさ、いろいろ話そうよ。失敗しても編集できるんだから!」
「そうそう、せっかくだから楽しんだもん勝ち。いい思い出にしようよ」
坂田ケインに続いて、平木優子も優吾に優しく微笑みかける。
「はい」
優吾は深くうなずいた。
「じゃあさぁ、後半の収録に向けてちょっと打ち合わせしよう」
坂田ケインが「少し待ってて」とスタッフに手で合図をしてから、優吾の方へ体を向けた。
「時間的にあと一ネタ……話ができると思うんだけど、どんな話題にしようか? 一ノ瀬君は何か準備してたんじゃないのかい?」
坂田ケインにそう言われて、優吾は机の引き出しにしまっていたノートを取り出す。
いち早く反応したのはメーガンだった。
「あ、先輩! それラジオのステッカーですか? いいなぁ。サインも書いてある……ってこれお二人のじゃないですか?」
坂田ケインと平木優子が優吾のノートを覗き込むと、「あぁ」と頷いた。
「そうそう。公開収録のときに会ったからね。その時に書いたやつだ。そのノート覚えてるよ」
「ちゃんと使ってるんだね。えらいえらい」
「え、私も欲しいんですけど、サインいただけたりしますか?」
メーガンがうらやましそうに言うと、隣の神野恵もうんうんと首を縦にふる。
「もちろんだとも。色紙でも何でも書いてあげるよ。収録が終わった後でね」
やったぁ! とメーガンがぱっと顔を輝かせた。
「で、何かネタ……いいのが書いてある?」
優吾がパラパラとノートをめくる。
「学校の歴史とか、全校生徒数とか部活データ……そんなのだったらありますけど」
坂田ケインが即座に首を振った。
「いや、弱いな。もうストロベリーとメーガンちゃんの話題がインパクトがあるから、もっとすごいネタない?」
「先輩」
突然、メーガンが横から口を出した。
「マーガレットの話すればいいじゃないですか? マーガレット」
「ちょっと」
優吾がメーガンに黙っててと合図を送る。
神野恵は何も言わず、持っていたペットボトルをぎゅっと握りしめた。
平木優子はマーガレットという言葉に、パチンと手を打った。
「それ……本当は話題にしようかどうか迷ってたんだけど、一ノ瀬君。結局、マーガレットの正体ってわかったの?」
「え、いいえ。わかってません」
「俺もさぁ、楽屋で話したとき、メール見れば本名がわかるとか言っちゃったけどさぁ、結局見てないんだわ。だから正直、俺らもわかんないの」
坂田ケインが両手を合わせて「ごめん」とポーズをとる。
「その話題……やっちゃう?」
「ストロベリーのライバルである正体不明の女子高生マーガレット。どう、この話題。後半これで行く?」
優吾は公開収録の休憩時間にマーガレットと実際に会話を交わしたことを思い出した。
金色の髪と、青い瞳だけは今でもはっきり覚えている。
その話を持ち出して良いものか。
優吾が悩んで返事に困っていると、メーガンが言った。
「マーガレットって金髪の女の子だったんですよね。そしたら私ってことにしちゃいます?」
全員が驚いてメーガンを見る。
「もちろん私は本物のマーガレットじゃないですよ。でも正体がわかんないから、ここで私がマーガレットでした! って言っちゃうのはネタ的に面白くないですか? だってメーガンっていう名前は、もともとマーガレットの愛称でもあるので辻褄は合いますよ」
何を言ってるんだと優吾が眉間に皺を寄せた。
坂田ケインが腕組みをして、しばらく考えてから言った。
「いやぁ、そうねぇ。ネタ的には面白いけど、嘘は良くないからなあ。もしメーガンちゃんが、本当にマーガレットだったのなら話は別なんだけどね」
「そうですか」
メーガンが唇を尖らせる。
「だから、この夢見丘高校には謎のリスナーがいるっていう話だけでも充分盛り上がれると思うんだよ」
メーガンも平木優子も、顔を見合わせて同時に頷いた。
優吾はすぐには答えられなかった。
ノートの角を親指でなぞりながら、黙り込む。しかし、他にいいネタがあるかと言われると、ない。
「じゃあそういうことで後半戦、あとひと踏ん張りだ! 一之瀬くん、今度は緊張しないでたくさんしゃべってくれよ」
「はい!」
優吾の表情は晴れやかだった。
「もちろんメーガンちゃんも神野さんもどんどん話に入ってきていいからよろしくね」
「はーい!」「……はい」
メーガンも神野もしっかりと返事をする。
「じゃあ残り最後の10分ぐらい……かな。がんばろう!」
坂田ケインが元気よく拳を握って、気合いを入れた。
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