第46話 収録の打ち合わせ

 真壁が軽い足取りで職員室から戻ってくるなり、親指を立てた。


「八月五日、水曜日。何もありません。大丈夫でした!」


 そう言って、優吾の隣に座る。

 松田が笑顔でうなずいて、手帳にメモをとった。


「ありがとう。じゃあ、夢見丘高等学校放送部の収録は八月五日水曜日の十五時から。ということでお願いします」


「あっ、そうだ!」

 真壁が手を挙げた。


「ん、何か?」

 松田がペンを動かす手を止めて、顔を上げる。


「しゅ、収録って、どこでするんですか?」


「そうだね。君たちにお任せするよ。学校を歩きながらでもいいし、どこか場所を取ってもらって、座りながらでもいいし。ある程度の希望は叶えられると思うよ。……真壁くんは何か希望があるのかな?」


「えっと、公開収録のような形で、僕たちの周りに観客がいるっていうのを考えていたんですが……」

「観客……なるほど。それは初めてのアイディアだな。ちょっと考えてもいいかい?」


「はい」


 松田が口元に手を当てる。ふと、手帳をパラパラとめくって、どこかのページを見つめる。

 ぴりっとした雰囲気に、真壁も背筋が伸びる。


「……そうだな。観客の声がノイズにならなければ可能かもしれない」

「ノイズ?」


 思わずメーガンが聞き返す。松田が続ける。


「うん。収録の邪魔にならないかどうかってこと。たとえばこの部屋を使うなら、観客はガラス越しに廊下側、みたいな形ならできるかもしれないね。ちなみに、何人くらいを考えてるの?」

「いや、まだ……それは呼びかけてもいないので……。ちょっとした、思いつきで言ってみただけです……」


 真壁が恥ずかしそうに顔を赤くして、下を向いた。

 松田は笑顔を崩さない。


「面白い発想だと思うよ。もし、本当に観客を呼んだ収録にしたいのなら、早めに教えてもらえるとうれしいかな」

「はい、わかりました」


 松田が手帳の新しいページをめくって、何かを書き始めた。


「じゃあ、部長の一ノ瀬くん」

「はっ、はい!」


「具体的な打ち合わせに入ろうか。夢見丘高等学校放送部は、ハイド&シークの二人とどんな話がしたいかな?」

「え、えっと」


 優吾はメーガンを見た。メーガンは無言のままうなずいた。


「うちの放送部のエース、メーガンを紹介したいと思っています」

「メーガンさんを?」


「はい。今年四月に新入部員として入ってきたメーガンですが、放送も上手で、英語も堪能なんです」

「へぇ、英語……もしかして、メーガンさんって、ハーフか何か?」


 松田がメーガンの金髪を見る。メーガンは満面の笑みで答えた。


「はい! 父がアメリカ人です! 去年までアメリカに住んでいました!」

「なるほど、それはいい話題になりそうだ。ちょっと今、簡単に英語を喋ってもらうとかできる?」



「I’m really excited to be here, and I hope many students will join our broadcasting club.」



「おお!」


 その場にいた全員が感嘆の声をあげる。メーガンの隣にいた神野がこっそり耳打ちする。


「なんて言ったの?」

「秘密です!」


 神野に相変わらずの笑顔で答えると、メーガンは視線を松田に向ける。


「夏が終わると、私ひとりになっちゃうかもしれないんです。だから、放送で部員募集もしたいです!」


「……なるほど、一ノ瀬くんと真壁くん、神野さんは高校三年生、メーガンさんは高校――」

「二年生です!」


「うん、いいかもしれないね。メーガンさんを紹介しつつ、部員募集の呼びかけもする……と」


 松田が真剣な表情で、再び手帳にメモを走らせる。


「あ、あと!」

 真壁が身を乗り出した。


「?」

 メモの手を止めて、松田が顔を上げた。


「この学校に、マーガレットっていう正体不明の人物がいるんです。それも紹介する時間があれば……なんて」

「マーガレット?」


 松田は首を傾げた。


「ハイド&シークの二人なら、マーガレットって名前だけでわかると思うんです。だから、その話題も入れられたらなって」


「へぇ、あの二人が知ってる内容ってこと。話をする分にはいいんじゃないかな。使うか使わないかは、こちらで決めさせてもらうことになるけどね」


 再び松田がメモを取る。


「あ、ありがとうございます!」

 真壁が頭を下げる。優吾もつられるようにして頭を下げた。

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