「公開収録」編

第16話 公開収録、始まる

 1月25日土曜日、14時を少し回った頃。


 空は雲ひとつない青空で、太陽の光が街を明るく照らしている。空気は冷たいが、日差しの暖かさがそれを和らげてくれているようだった。


 夢見丘市の中心部から少し離れた場所に位置する、夢見丘市総合文化ホールの第2ホールには大勢の人がつめかけていた。

 もちろん、ハイド&シークの大人気ラジオ番組「学校さぁ行こう!」の公開収録へと参加するためだ。

 


***** *****

 ――公開収録の話題なんだけど、いよいよ来週に迫ってきました! 当日参加する学生のみんなは、繰り返し言ってるけど、できるだけ学校の制服で来てくれるとうれしいです! その方が青春全力応援ラジオ! って感じもするし、最後みんなで写真撮影とかもしたいんだよね。


 ――でも、強制じゃないから。難しい人は全然私服で来てもらって構いませんからね!


 ――優子ちゃん、セーラー服の話、どうなった?

 ――先日、試しに着てみました。そしたら……


 ――そしたら?

 ――着れました! しかもいい感じに。当日私もセーラー服で参加します!


 ――マジで? え、マジで? ちょっとリスナーのみんな! 超貴重映像見れっから! 絶対風邪とかひくなよ! 絶対来てくれよな。俺も学ラン来て……

 ***** *****



 先週の放送でこんなやりとりがあったからか、観客のほとんどが制服を着た中高生であり、私服で訪れている人は数えるほどだった。もちろん、一ノ瀬優吾もその制服を着た者の中の一人だ。


(いよいよだ……本物のハイド&シークに会えるんだ!)


 完全に諦めていたはずの公開収録に、まさかの吉報。各学校に配布された特別招待券を手に入れた優吾は滑り込みで参加する形になったのだ。


 特別招待券ということで座席位置はだいぶ後方に指定されていたが、それでも優吾にとっては十分満足できるものだった。


 普段は主に演劇や小規模のコンサート等が行われる第2ホールは五百人ほどが収容できる広さになっている。観客席も後方に行くにつれてだんだんと高くなっていくため、舞台が見えなくなるという心配はない。

 決められた座席に座り、入り口で配られたパンフレットやチラシを眺めながら、優吾は公開収録が始まるのを待っていた。


 ふと観客席に目を映すと、ほぼ全ての席が埋まっていた。やはり制服を着た中高生の姿が目立つ。さらには夢見丘高等学校の制服を着ている生徒も何人か見かけたが、当然後ろからは誰が誰だかわからない。


(この会場にマーガレットもいるはずなんだが……)


 そう思ったが、どの学校の生徒なのか、男子か女子なのか。手がかりが何もない以上、優吾には探すすべがなかった。


(そういえば、僕のハガキ……ハイド&シークの二人に読んでもらえただろうか……)


 優吾は、職員室で公開収録のチケットをもらったその日に、興奮のあまりその思いの丈をハガキに書き、番組宛に投稿していたのだ。それが本日読まれるかどうかはわからないが、送ったことで若干満足していた感はあった。



 ブーーーーーーー。



 ホール内に長めのブザーが鳴り響く。それと同時に、それまで騒がしかった会場が一瞬にして静かになる。


 いよいよ始まるのだ。

 優吾の心臓がドクンドクンと高鳴る。


 そして、ゆっくりと緞帳どんちょうが上がっていく。

 だんだんと舞台中央に椅子と机、マイクにパソコンといった、ラジオに必要な機材の姿が見えてくるにつれて、会場から「おぉ〜」と歓声が上がる。


 しかしまだ、肝心のハイド&シークの二人は姿を見せない。

 

 5秒ぐらい間を置いて。



「どーーーーもーーーー!」



 ホールの左右の壁に設置されたスピーカーから突然聞こえる、おなじみの坂田ケインの声。と同時に舞台の左袖から彼が姿を現した。

 茶髪のウルフカットが特徴的で、ラジオで話していた通り黒の学生服を着用しての登場だった。


「わぁっ!」という声と同時に、パチパチパチパチ! と会場から一斉に拍手がわきおこる。「ケイーン!」と名前を呼ぶものもいた。それに対して坂田ケインも手を振って答える。そのまま彼は舞台中央まで歩き、正面を向いた。


 優吾からも坂田ケインの姿がはっきりと見えた。といっても、後ろの席なので小さくではあったが。


(本物だ! 本物の坂田ケインがそこにいるんだ!)


 それでもやはり、いつもラジオで聴いている有名人が目の前にいるという事実は優吾にとってとてつもない喜びだった。夢じゃないよな、と膝やほっぺをつまんでみる。そして、夢じゃないことを実感するのだった。


「ハイド&シークの坂田ケインです! こんにちは!」

「こんにちは!」


「いいね、いいねぇ! でももうちょっと声の大きさが欲しいかなぁ。え、何? もしかしてスーパースターを目の前にして緊張してる?(笑)」

「あはははは!」


「でも、適度な緊張って大事っていうからね。最初からリラックスされてても、こっちが困っちゃう(笑) ちょっとくらい緊張してても大丈夫だから、心配しないで。だって……絶対、俺の方が緊張してるから(笑)」

 どっと会場が沸く。


 坂田ケインのテンポよく、そしてノリのいい挨拶で、会場の緊張が一瞬にしてほぐれる。が、優吾には一つ気になることがあった。


 あれ、ハイド&シークのもう一人、平木優子がまだ出てきていないぞ、と。

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