#04-3 一発、派手に行こうか!
☆
「ミレンは、さ。何が、得意なの?」
修道院に来たばかりの頃。
生活の面倒なんかは、ヒルベルタ様が見てくれていたのですが。
わたしは、修道院のみんなとなかなか
そんなわたしに、そうやって声を掛けてくれたのが、アレックスだったのです。
「得意な、こと……?」
当時のわたしは、まだ
人と話すのが、怖かったんだと思います。
特にそれが、同い年くらいの子となれば。うまく話せなかったら、いじめられたりしないか、仲間はずれにされたりしないか、そんな不安ばかり考えて。
「……なに、も」
話しかける事も出来ず、話しかけられても生返事しか出来ず。
「……なにも、できない」
わたしは、物陰に隠れるようにひっそりと、息を潜めて生活していました。
「何も、出来ない、の?」
オウム返しに問い返されて。
ただそれだけの事なのに。
「ええ?! なんで、泣くの?」
今振り返れば。言葉も上手く話せない、人とうまく付き合えない。今までと違う場所で、今までやってきた事と違うことばかり、出来ないことばかりで。
出来ないことが、悔しくて。
出来ない自分が、嫌で。
この時のわたしには、それがわからなくって。
それでも心の中から溢れてくる嫌な気持ちに
声を
「じゃあ」
そっとアレックスは近付いて、手を握ってくれて。こう言ったんです。
「ミレンは、これから。出来ることが、どんどん、増えていくだけって、ことだ」
がばっと顔を上げたのは、アレックスの手が温かかったからか。
かけられた言葉が、暖かかったからなのか。
とまれ、上向いたわたしの目の前には、アレックスの
泣いていた、わたしの瞳には。
「えええ?! なんで、まだ、泣く、の??」
……またぞろ、涙が
それは、悲しみの涙ではなく。目からウロコ、というものだったのでしょう。
要は、驚いたんです。
そんな考え方があったことに。
そしてそんな考えを、わたしとそう歳の変わらない
それ以来、でしょうか。
わたしがアレックスを、
――ちらり、横に立つアレックスの顔を覗きこめば、獲物を見つけた狩人のようなクールな笑みが浮かんでいて。すでにやる気スイッチがばっちり入って、臨戦態勢の様相でした。
「ん? ボクの顔に、何か、付いてる?」
わたしに見られていることに気が付いたのか、
「いいえ、少し昔を思い出していたのです」
あの頃から考えれば、身体の方は随分成長したのだと思いますけれど。たぶん中身はあまり変わっていないのでしょう。
……ま、それは多分にわたしも、同じなのですが。
「ふぅん」
だから、鼻で笑うような(彼女をあまり知らない人が見れば、悪い印象を抱きかねない)、唇の右側だけを持ち上げるシニカルな笑顔でも。わたしにとっては見慣れた……照れ笑いなのだと伝わるわけでして。
「今から、お仕事だって、言うのに。……いったい、何を思い出して、いるの、やら」
「ふふ」
だからわたしもまた、笑いを返すだけで、思いが伝わっていると思えるのです。
まったく……。そんな溜息混じりに聞こえた声を、どこか心地よく聞き流しながら。
「全体的に警戒が緩いですね。わざとなのか。……それとも、見張りの経験が、浅いのでしょうか」
そのままお仕事モードに戻って、わたしは話を続けます。
遠目に見えるのは、一見、ただの民家。
けれどその実態は、帝国から身を隠すように活動する、奴隷商人の調達部隊たちの拠点というお話で。
恐らくは、
「いや、あれは、……経験が浅いって、言うより、は」
だからこそ、わたし達もまた、
のんびりと会話をしながら、なんでもない事のように。ごく当たり前のように、目的地に向かって伸びる道を、歩いて進むのです。
けれどその先、少し遠目に見える家屋に居る『対象』達から飛んでくるのは。
奇妙なものを見るような、
それも、折角民家に偽装しているのに、警戒心を隠そうともしていない
「……単純に、素人……のようですね、あの人たち」
「うん。そもそも、
別に抑止力を気取るつもりはありませんが。このローセリアの地の犯罪率が低いのは、たぶん
この辺りでは、子供でも知ってるくらい有名なんですよね、『赤い噂』って。
別に知らないなら知らないでいいんです。
一応、よその国の方ですしね、お相手は。
でもエミィの村のことを思い返せば、多分にウチのことご存知の様子でしたし。国が違おうがなんだろうが、近隣に住んでいれば、当たり前に聴こえてくるお話のはずで。それでも知らないのなら仕方ありませんけれど。
「ええ、仕方ないとは思うんですけど」
歩いて。歩いて。
遂には目的地たる家屋を横目に通り過ぎますが、彼らは
ああ、これはもう茶番ですね。
「始めましょうか」
「ん。じゃあ……」
そう言うと。
アレックスは内緒話をするように、右手の人差し指を口元でぴんと立て。軽くその指にキスをすると、すぅと天に向かって腕を伸ばします。
そうして彼女が確認したのは、風向き。
望む方角に向かって風が吹いているのを読み取る動作。
「おい、お前ら! 何を……ッ」
わたし達の動きを見て、やっと行動を見せる見張り達。
警戒心が強いのは、大変結構ですけれど。
……その反応速度では、無警戒と変わりませんよ?
一歩前に進み出たアレックスが、やおら左手で抱えていた金属の箱を開きますと。開かれた箱から、
「一発。……派手に、行こう、か……!」
対象的に、わたしは
そしてアレックスが、
瞬間的に距離をとったわたし達の目の前で。
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