#04 《帝国よりの》編
#04-1 今回のお仕事、ボクと、だから
☆
視線を
その家屋は建っていました。
「ふぅ、ん」
わたしの横に立っていた、赤い
「成程。これだと、あちらも、身は隠せない、けど。……見てるこちらも、身を、隠せない。考えられてる」
淡々と。感想を口にします。
遠目に見えるその建物は、
悪魔とは人の心に潜むもの。
それを体現しているように。
如何にもな
「どうする、ミレン?」
尋ねられたので。
「うーん」
少し、考えて。
「もう、突撃で良くないですか?」
わたしは考え無しの作戦を提案しました。
「無茶。でも、それでこそ、ミレン」
無茶、と言う割には、自身の武器を準備して。その作戦をそのまま受け入れる体勢に入っていたので。
「アレックスに言われたくは無いです」
わたしは、ぷぅ、と唇を
「それは、仕方、ない」
彼女……アレックスは笑みを濃くするばかり。
「だって、ボクと、ミレンが組んだら。こんなやり方、しか、して来てない、もの」
そしてアレックスが続けた答えは、正にその通りで。
「……幼い頃は、無茶ばっかりしてましたもんね」
「今も、の、間違いじゃ、ない?」
わたしは苦笑いしか出来ないのですが。
「……アレックスといるから、でしょうか」
「……まるで、ボクのせい、見たいな、言い方。今回は、ミレンの、せい、なのに。ボクは、巻き込まれた、側」
「そ、そんなこと言わないでくださいよ」
ジト目で見られて、ちょっぴりドギマギ。
少しの時間見つめあって。
そしたら二人で、吹き出して笑う。
「……いっつもの、こと、か」
「ですね」
これがわたし達のいつも通り。
「じゃ、ま」
「はい、今日も」
わたしは
アレックスは、
「お仕事に、励みましょう」
目的地に向け、ゆっくりと。歩を進めるのでした。
――。
――――。
自給自足を旨とする修道院では、当然の事ながら、食料の生産および加工というのは最重要課題といえます。
当院はそれほど大きな規模の院では無いとはいえ、それでも二十名近い修道女が在籍しております。加えて、
特に農作物の生産が、非常に大きいところですね。
実は当院が所有する土地の多くは、この地を治める貴族家……分かりやすく言い換えれば、この地の領主様より、寄進を受けたものです。我々はその土地を活用し、農地などに
そしてそれは同時に、当修道院が、領主一族の
勿論、土地の領主様の後ろ盾というのはとても有難いものですが、同時に
今は遠く、港湾都市まで『出稼ぎ』しているマリー辺りに言わせれば、「政治ってのは、
さて、午前早くから続いていた農作業は、太陽が天高く昇る頃に、一旦休憩となります。
通常はこの後、正午の祈りを捧げるために聖堂へ向かうのですが。
今日は少し様子が違うようで……。
ガタガタガタガタ……ッ!
遠くから響いてきたその騒音の原因は、農作業の一旦の片付けをしていたわたしたちの側まで来て、馬の
何事かしらと見ていれば。馬に引かれていた馬車から顔を覗かせたのは、妙齢の女性。
「やぁミレン嬢、ご無沙汰しているよ」
「か、カルラ様?!」
艶やかな赤髪を手ではらいながら、彼女……カルラ様は、わたしに向かってそんな風に挨拶をしてきたのです。
「すまない、急用でね。ヒルベルタはご在席かな?」
「は、はい。おそらく執務室におられるかと……」
「
ぱっと手を軽く振ったかと思えば、カルラ様は御者に指示を出し、馬車はそのまま発進していきます。
後に残された私はといえば、片付け損なった
「ミレンさん、今のは……?」
おずおずと、エミィが尋ねてきたので、はっと立ち返ります。
「カルラ・ファン・ローセリア様……と申しまして」
「ローセリア……?」
エミィの顔にはハテナマークが浮かんでいます。
まぁ、当然の反応でしょうか。
「はい。……この辺り一帯を治める、ローセリア家当主のご息女様であらせられますね」
にこりと微笑んで答えますと、エミィは「へぇ」と
本当に、覚えの良い娘です。
「そうですね、つまりは――」
だから答えはすぐに導かれます。
「――未来の、領主様ですよ」
――。
――――。
「ミレン」
正午の祈りを終えた直後、呼ばれた声に振り向けば。
「お仕事、だってさ」
赤色の
なんとなく、呼ばれるのかなぁとか、予感というか覚悟をしていたわたしは、素直に頷きます。
「ごめんなさい、エミィ。やっぱり、お昼からはお手伝い出来ないみたいです。行ってきますね」
「はい。……お気を付けて!」
笑顔で見送ってくれるのは嬉しいのですが。
心配なんていらないんでしょうけど、ことエミィに関しては、後ろ髪を引かれてしまうのは何故なのでしょうか。
笑顔のままやり過ごそうとしても、ついつい離れ難く感じると言いますか。
「は〜い、じゃあエミィは昼からは、あーしと一緒に作業しよっか〜」
「は、はい! よろしくお願いします、イマさん!」
そんなわたしを見てとったのか。
ぽんっとわたしの背中を叩きつつ、イマがエミィに声をかけて行きました。去り際にこちらをちらりと、背中越しにウインクをひとつ残して。
……わたしはいつも、周りに助けられてばかりですね。
その背にぺこりと一礼して。
「すみませんアレックス。すぐに準備しますので」
振り返り、後ろに立っていたアレックスに声をかけます。
「ん。
「わかりました」
わたしの返事を聞いて後ろを向いたアレックスでしたが。
「あ。そう、そう」
そのまま横顔で目だけこちらを向けて。
「今回のお仕事、ボクと、だから。……よろしく、ね」
それだけ言い残して、再び歩き出されます。
彼女自身が
十中八九、カルラ様案件でしょうけれど。
マリーが不在だから、というのもあるのでしょうが、正直、最近あまりなかっただけに。
ふる……っ、と。身体が震えたのは。
武者震いか、あるいは単に
「あはっ――」
高鳴る胸の鼓動を感じつつ。
わたしは準備に向かうのでした。
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