#03-4 この世界はどっちも腐っているな
★
「悪魔との、契約?」
デルクから飛び出した随分と突飛な情報に、あたしは首を
「ええ。全力で我々に喧嘩を売ってますよね」
喧嘩を売られたと語る割には、何故か嬉しそうな修道士である。
「悪魔と契約を交わすことで、その者の願いを叶える悪魔の薬を手にすることが出来る……という触れ込みで、契約者を増やしている『魔女』がいるそうです」
「ああ、そういうこと」
「まとめると、そういうことです」
『確認できているだけで、六人、こいつに殺された。それも厄介なことに直接的な外傷によるものでは無く、毒によるものと判断される』
毒の売人というキーワードと、過日ラウレンスが語った情報がリンクする。
「その魔女とやらが何者なのかはまだ不明なのですが……。近年の傾向から、西王国の出では無いかと疑っています。
「西王国の者が、悪魔と契約を交わしてしまった、と?」
あたしの問いに、彼は頷きを持って返す。
毒の使い方を教わって、それで殺人を犯し。
その快楽に酔ったのか、連続的に罪を重ね続けた、か。
ああ、
これはたしかに。
「やる気、出ました?」
苦笑いしながら疑問符を投げかけるデルクに。
「えぇ、とっても」
返したあたしの笑顔は、多分、酷く冷たいものだったのだと思う。
「嬉しそうで、何よりです」
含みのある言い方だ。
デルクの
「そういう貴方も、随分と嬉しそうだけれど?」
話の矛先を変えつつ、あたしはいつもの通り、本当の笑顔の上から、笑顔の仮面をかぶり直した。
さてあたしの小賢しい話題のすり替えに、気付いているのかいないのか。
こちらの問いかけに、びっくりするくらいにいい笑顔を浮かべて。
「いやぁ、悪魔を
……そうか、デルクってば、こういうトコあったわね……。
真面目で正義感が強く、裁くべき悪に対して容赦がない。それは修道士としては有能な人材である証明なのだろうが、一歩間違えると過激派に分類されてしまう考えと言えるわけで。
そして多分に彼は、半歩くらいは間違えている。
一歩では無い。ギリギリで。
……ま、人のこと言える立場でもないんだけど。
「そんなわけで、背後の闇を手早く調べあげ、叩くことが最優先なのですが、今回はその末端のひとつ、と判断されましたので……」
「
「そういうことですね。あはは」
爽やかに笑う修道士の姿に。
「……まったく。ウチの修道会には、ロクな奴が在籍してないわね」
「いえいえ、まったく。同感です、
どいつもこいつも。被った仮面の精巧さだけは立派なくせに、中身はどこまでも真っ黒で。なのに同じ色した真っ黒な世界を憎んで、白に染めようとしているなんて。
世俗も宗教も、この世界はどっちも腐っているなと痛感させられて、あたしは大きなため息をついた。
「そういうわけですので、今回の僕の役割としては、男手が必要なことのフォロー、くらいなもので、基本的にクローヴィスのほうはマリーさんにお任せする形になると思います」
「ふぅん。つまり貴方は、背後の魔女を洗い出す方に専念する、ということね」
「ですね」
まぁ、
それでも、何も問題は、無い。
あたしは、あたしのやるべき事をやる、それだけの話。むしろ一人で実行する、そのための手筈を整えてくれるのだと思えば、最高の助力ね。
かたん、かたん。
いくつもの思惑を乗せた馬車は、軽快な音を立てながら走り続ける。
「到着する頃には、日も落ちているでしょうから。良ければ今の内に眠っておかれると宜しいかと」
「あら。デルクったら、美女を寝かしつけて、一体何をする気なのかしら」
「いやぁ残念ながら、無事に港湾都市にお連れするくらいしか、出来ることがないんですよ」
「ふふ。よく出来た相棒ね」
馬車というものはもう少し揺れるものなのだけれど。
この相棒にかかれば、そんな振動さえ心地よいものに変わる。
思わず込み上げてきた
「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただくわ、デルク」
「えぇ、ごゆっくり」
笑いあって。
その後は沈黙がおりて。
気付けばあたしの意識は、眠りの泥に沈んでいた。
〇
モクモクと
決して上品とは言い兼ねるこの空間が、しかし彼の
「聞いたか? エルヴィンの野郎、くたばったんだとよ」
「ああ? バカ言うなよ、つい最近、一緒に酒呑んで騒いだばっかだぜ俺は」
「おおそれよ。なんか割と最近、あいつ飲み歩いてたみたいなんだよ。んで昨日だな、道端で冷たくなって転がってたんだとよ。どうも呑み過ぎですっ転んで、頭ぶつけちまったって話だ」
「マジかよ……。馬鹿な奴だぜ」
周囲から聞こえてくる噂話。
その内容を耳にして、男は己が行いの成功を確信した。
ぐっ……。
カップに残っていた珈琲の残りを一気に
「けどそういやエルヴィンの奴、変な酔い方してたな。……こんなに酒に弱かったかって、思ったわ」
「なんか変な病気でも
耳に届く雑多な情報を遠くに聞き流しながら、男は店を出る。
冷静に、
店を出てすぐの角を曲がる。曲がりきり、周囲に人影がないことを見てとると、男は口元を押えて口角を吊り上げた。
「くくっ……」
今回も上手くいった。
これであいつから巻き上げた
「大した額でもねぇのによ……。こんなんで殺されるなんて、ざまぁねぇな、おい」
自身が手に掛けたことなどすっかり忘れたように、他人事で死者を
初めて殺しを実践した時、周囲の噂話にさえしばらく怯えていた男はもういない。ここにいるのは、わずかな酒代程度の金で
殺しの快楽に心を奪われた
クローヴィスは気付かない。
繁華街の裏路地。たしかにここは普段から人影は少ない。
だが、こんなにも静まり返っていることなど、かつて無かったであろうことに。
虚空に向けて
「見ぃつけたっ♪」
「……あぁ?」
そこには、
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