#01-5 貴女は罪人としてここに認定されます
☆
「……なせッ! ……離せよッ!」
どこからか聞こえてくるのは、女の声。
キョロキョロと周りを見渡せば、部屋の片隅に扉を見つけました。
ああ、あんなところにあったですね、と思い当たった直後には、コンコンコン、というノック音が、そこから鳴り響いて。
……こんな
「どうぞ」
すました声で、わたしは返答します。
何者か、なんて
果たして、ぎぃぃ、と木材が
「はぁい、お待たせ♪」
場違いな程に明るい声で、右手をヒラヒラと振りながら、やはりこの場にふさわしくない笑顔の彼女の名は。
「お疲れ様です、マリー」
応え。そしてもう一人。
縛られ、マリーに引き
「アニタも、お疲れ様」
「あ、あんた、シレネ! なんでッ?!」
そう、縄で拘束され連れてこられていたのは、アニタ。
そのまん丸と見開かれた瞳に真っ直ぐ向き合いながら、わたしはにこりと笑いかけました。
「お陰様で」
「ッ! どういうことなのよッ?! なんであんたここに……! つか、早く
「あら、好きで縛られてるんじゃ、なかったんですか?」
「なわけ無いでしょうが! ふざけんなよ!!」
んー……、と。人差し指を頬にあてながら。
「
「……ッ!」そんなわたしに、アニタは戸惑ったように顔をひきつらせてから。「し、知らないわよッ!!」
言い放って、
「そうですか」
なので、わざと聞こえるような音量で溜息を
「残念です」
もう一回、笑って見せました。
ぐぬぬ、と言い淀むような仕草をしながら、またこちらを振り返り。その内、アニタの表情は少しずつ変化していきます。
なんと言うのでしょう。
薄暗くなってきた
「そんな、薄気味の悪いものを見るような目で見つめられると、哀しいです」
くすん、と目頭に指を当てる真似をしてみたり。
でもアニタは何の反応も見せてくれなくて。逆にぎゅっと手を握りしめながら、なんだか震えた声で。
「……あんた、シレネ……よね?」
そんな質問を返してきました。
……むっ。
「他の誰に見えるんです?」そう、質問で返してから「ていうか」じっと、目を合わせて。「自分で売り飛ばした
「………ッ! そ、そういうんじゃないわよッ」
目を見開いて、否定の言葉を口にするアニタ。
「そういうんじゃ、ないけど……。な、なんかあんた、口調とか、雰囲気とかが、違くない……?」
ふむ。
「髪型のせいじゃないですか?」
「ち、違う、そういうんじゃなくて! ……あんたのそんな表情、見たことないわよ……」
あら。
「マリー、わたし今、どんな表情してます?」
自分じゃ分からなかったから、思わず壁の花に化けていたマリーに問いかけます。
そうしましたら。突然話題を振られたことに一瞬驚きつつも、「そうねぇ」すぐにいつもの(意地悪な)笑顔に戻りまして、返してくれます。
「寝所で男を手玉に取る
「すみません、わたしにわからない
相変わらずの西王国トークに、つい顔をむくれさせてしまったわたしですが。
けれどマリーは、くすくすと笑って。
「要は、
「そ、そう! それよ!」
どういう事でしょう、とかわたしが思うより早く、アニタの方が反応してきました。
「アタシの知ってるシレネは、そんな悪い顔しなかったわ!」
えぇ……?
思わず自分の頬に手を当ててしまうじゃないですか。
「ま、そりゃ仕方ないわ」
悩んでいるわたしを尻目に、壁から抜け出してきた
その手には、(いつの間にか準備されていた)ひと揃いの衣服たち。
「だってそこにいるのは、貴女の言う『シレネ』であって、『そう』ではない娘だもの」
「……どういう、意味よ……?」
アニタの疑問に、マリーはくすくすと笑って。
わたしに視線を走らせると、持っていた服を渡してきます。
「別に特別な意味じゃありません」
わたしは先程破られた服を脱ぎ、受け取った
「わたしはシレネですが、それはわたしの本当の名前じゃない。そういうことですよ」
その上に、白と黒を基調とした糸で織られ、赤で装飾された
「……ッ! その服……ッ?!」
ふぅ、と。
ひとつ息を吐いたら。わたしはアニタを見詰めて、名乗りを上げるのです。
「わたしの本当の名前は、ミレン。
「『赤い……噂』の、修道女……!」
アニタはかっとなって叫びます。
「アタシを
「それは否定しませんけれど……。そもそも最初にわたしを騙したのは、アニタの方じゃないですか?」
「う……ッ!」
「まぁ、それはいいんです。この世界は、騙される方が悪いんです。少なくとも、わたしはそう思ってますから」
でもね。そう、続けて。
「騙されてた、今までの女の子の親御さん達は、そういう訳にはいかなかったみたいですよ?」
娘が街に出て、音信が取れなくなった。
曰く。
行方の知れなかった娘によく似た人相の娘が、奴隷として売られていたと聞いた。
曰く。
怪しげな廃墟で、
……そんないくつもの嘆きの声が。
「修道院に寄せられていたんです。調査が必要な程に、ね」
「だからわたしが派遣されたんです。これを『依頼』として受ける為に。そしてそれは、証明されました」
わたしは持っていた
「だからアニタ。貴女は
切っ先を、真っ直ぐ前に向けます。
「
じっと。その先を見据えて。
「
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