第29話 調査
「調査依頼?」
マロンとノアの二人に自分たちが異世界人という事を伝えて数日後。グレイ、目白さん、マロン、ノア、ジェイミー、ローズの六人に理事長から声がかかった。全員が空いている時間に理事長室へ行って用件を聞いた。
「はい。グレイさん達が以前、禁忌魔法陣によって飛ばされた海底都市なんですが、実は結界の修復や水抜きが終わりまして。是非とも調査に参加してもらいたくお呼びいたしました。ただし、調査期間が一日のみと非常に短のですが」
理事長にはフィオナがもういないという事は伝えてある。無論、ローズやジェイミーにもだ。公への発表は控えてもらい、ナックルとアーシャには手紙と没者カードのみを送った。しかし古代の先人については全員に話していない。色々と話が面倒くさくなるのが目に見えていたため、彼らのことは目白さんとの秘密になっている。
「分かりました。俺は調査に行きます」
海底都市にはまだ色々と分からないことが大量に残っている。分からない事だけでなく、因縁もまだ残っているのだ。
「なら私たちも行きます」
次に申し出たのはマロンとノアだ。その後、ジェイミーとローズの二人が申し出てきて最後に目白さんが希望を出し全員が調査に行く運びとなった。
「全員参加という事でよろしいですか?」
理事長が聞くと全員がほぼ同じタイミングで頷いた。
「出発なのですが、少しスケジュールが立て込んでまして。明後日の午前中には出発する方針なのでよろしくお願いいたします」
理事長からその言葉を聞いてから、全員は理事長室を後にした。
家に着き、一段落したグレイは目白さんの部屋へと入る。グレイには海底都市に再び向かうに当たってやらなければいけない事があったからだ。
「こんな時間に来るなんて珍しいわね」
部屋のドアが開く音を聞いた目白さんはこちらを振り向いた。真っ直ぐに目白さんの目の前へと歩いていき。
「俺に剣を教えてください」
ダメ元でグレイは頼み込んだ。断られると思っていたが、目白さんはすぐには答えを出さずしばらく考える素振りを見せていた。
「海斗がいつも使ってる瞬間移動を教えてくれるなら剣技を教えてあげる」
回答はまさかのものでグレイは大きく目を見開く。目白さんは昔から勉強を教えてとお願いしたら、自分で考えてと返されていた。そして本当に分からなくて悩んでいる時には常に支えになっていた。目白さんから許可が降りるなんて未だに信じられない。
「分かりました。海底都市の再調査までには剣技をある程度マスターしておきたいんですけど……」
「なら、明日の午前中に闘技場に来て。そこで剣技を教えてあげる」
上手いこと交渉が進んだことに胸を躍らせたグレイは自室へと戻った。
次の日、グレイは学校へ行き朝礼後に闘技場へと向かった。セツシート大学正面にある時計台から少し南側にある円形の建物。それが闘技場である。
「目白さん。じゃあ今日はよろしくお願いします」
「うん。まずこれからね」
そう言って目白さんがグレイに渡してきたのは、どこにでも落ちてそうな木の枝だった。長さは五十センチほど、太さは直径一センチもないほどの小さな枝。グレイはその木の枝を受け取った。
「なんで木の枝なんです?」
「木の枝を操れない人が剣を操れるわけないのよ」
と、目白さんは自分の手に持っている木の枝をくるりと空中で一回転させる。右手で受け取った枝をしっかりと持ち思い切り目白さんは振り下ろした。バビュン、とその場に旋風が巻き起こり目の前にあった弓道の的のようなものが粉砕した。
「へ?」
木の枝ってそんな力出るのか。というか木の枝じゃなくてあれ、空気の斬撃で的を壊したのか、と目の前で起きたあまりに衝撃的なことに自分の頭の処理が追いつかなかった。自分の中で常に疑問が生まれ続ける。
「これが出来たら剣に行くからまずは練習ね」
「あの、コツとか方法っていうのは……?」
「自分で見つけて」
そ、そうですよねー。分かってはいたことだが、まさかここまで教えてくれないとは。
そんなこんなで木の枝を振り続けること三〇分。グレイはようやく木の枝を使って空気を斬るということを実感できた。
「目白さん! 今のって……」
「ええ、成功ね。次はこれでお願い」
目白さんから次に渡されたのは木刀だった。木の枝は、小回りが利いて力も乗せやすかったからマスターするのはそう時間が掛からなかった。だが、目白さんから貰った木刀はとにかく重い。手に馴染むといえば馴染むのだが、なんせ重いため慣れるまで時間がかかるだろう。
「じゃあ、私はあっちで瞬間移動の練習をしてくるわね」
木刀だけを残した目白さんは闘技場の反対側へと歩いて行った。試しに一回、木刀を振ってみようと思い切り振り下げてみると。
「うおっ⁉︎」
何かに思い切り力を掛けられているかのように真っ直ぐに地面に突き刺さった。両手で柄の先を持ち、思い切り地面から引き抜いてもう一度木刀を眺める。
「確かに使い勝手はいいんだどな」
くよくよしていても仕方がないと感じたグレイは木の枝の時と同じくまずは両手で振ることから始めた。
「グレイ様にメジロ様、お帰りなさいって、どうされたんですか!」
「いや、ちょっとめちゃくちゃ疲れて」
「私も同様」
グレイは腰を曲げて今にも倒れそうな勢いで近くの壁に寄りかかった。目白さんはというと全身泥まみれにしていた。そんな二人の様子を見たマロンはすぐに二階にあるリネン室へと走っていった。
「すぐに着替えをお持ちいたします!!」
「今日中に大体のことが終わったのは良かったですけど、ここまで疲れるとは……」
「私もよ。魔力を操れるようになってもコツを掴むまで何回壁にぶつかったことか……」
服についた泥を払い落としながら目白さんは言う。
「そう言えば、目白さんって元々魔力を操るの得意でしたっけ? 剣技からの入学なので、てっきり魔法とは疎遠なのかと思ったんですが」
「私、入学した時魔法使えなかったわよ」
「入学してから魔法を学んだんですね」
「いいえ、違うわよ」
予想外の回答に思わずグレイの口はポカンと半開きの状態になってしまった。すると目白さんは背中を見せて後ろの長い髪をがっとたくし上げた。頸には海底都市でマヨルダに精神を操られていた時につけられた何かの跡が見える。
「これで操られてから急に魔力を操れるようになったのよ。他にも色々あるけど、これはこんなふうに」
「うおっ……」
目の前に何十本もの魔力で完成させたような見えない剣が生成される。反射的に体が勝手に後ろに引き下がった。
「って、海斗くんは見えるの?」
「なんか、魔力を見れるんですよね。目白さんと似たような感じですよ」
グレイはそう説明をして、再度魔力で出来た剣の方へ近づき人差し指を伸ばしてみる。剣先に人差し指が触れた瞬間、指の腹からぷくっと鮮血が浮かび上がってきた。
「すごい切れ味ですね」
布ですぐに指を押さえて切れ味の凄さを説明する。
「メランダに勝てたのもこれのおかげね」
魔力で作った剣を消滅させた後に、何か思い出すかのように言った。
「明日ですか……」
「そうね。まあ、そこまで意識はしなくていいんじゃない?」
目白さんはグレイの肩を叩きながら言ってきた。まるで安心しろ、と暗示しているかのような優しい叩き方だった。
「それもそうですね」
それに応えるかのようにグレイは何ともいえない表情で返した。
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