第5話 新居
「ここでお願いします」
グレイたちは希望する家を書いた紙を理事長に渡した。
「はい、分かりました。夕食ごろには手配を済ませますのでご夕食はここで」
「これは?」
「私の行きつけのレストランです。かなり人気なのでこの券を持って行ってください」
「ありがとうございます」
理事長からグレイは予約券を受け取る。フィオナが興味津々にグレイの持つ券を見ていたので渡してみた。
「これって本に載ってたレストランじゃないですかっ!」
「そうですね、ゆっくりと堪能して来てください」
そんなに人気なレストランだったのか。どんな料理を出してくるのだろう。そこから先はお楽しみということにしておこう。
「こんなに混んでるのか」
グレイは理事長から紹介してもらったレストランの前までやって来た。かなり大きなレストランのように見えたが街道の外にまで並んでいる。レストラン自体は大きく、外から内装を見る限りはかなり豪華に見える。ガラスでできたシャンデリアが部屋を明るく照らしていて、客は美味しそうな料理を食べていた。
「あの、これなんですけど」
「分かりました。少々お待ちください」
店の外に出て来た店員はグレイへ話しかけると理事長から貰った券を見せる。すると店員はなぜか小走りで店内へと入っていった。
「どうぞお入りください」
少し待っていると中から同じ店員がやって来て店内に入れてくれた。席に着くとすぐに料理が運ばれてきた。
「わぁ、すごい!」
運ばれて来た料理を見てフィオナは手を合わせて興奮している。一方、グレイはと言えばその場で固まっていた。
「これは……」
寿司だ。この世界に来て初めて和食というものを見た。
「どうしました兄さん。苦手なものでしたか?」
パクパクと寿司をテンポよく食べていたフィオナが聞いて来た。
「いや、すごいなって思っただけだよ」
この店が人気になる理由というのはこういうことなのだろうか。寿司を箸で掴んで口の中に持っていく。
「んん……」
日本にいた時に食べた時とほとんど同じような味がする。本当に美味しいな。無我夢中に食べていると寿司は気付けばなくなってしまっていた。
「これだけなのが惜しいくらいだな」
そう思っていると次の料理が運ばれて来た。
「ふー、もう食べられないです」
「俺もだな」
結果として寿司の後には天ぷらやとんかつなど大変なことになっていた。それでもなぜか胃もたれせずに食べれたのは店主の腕前なのだろう。この世界に寿司などの日本食が存在するということは転生者がグレイより前にいたのだろうか。
「じゃあ、もう家には入れるよな」
グレイとフィオナの二人選んだ屋敷の方へと二人は歩いて行った。門を開けて屋敷の敷地内に入る。
「改めて見るとすごく大きな屋敷ですよね」
「そうだな」
門から三十メートルほどの所に屋敷の扉があった。俺たちが歩いている門からの道の脇には綺麗な庭が広がっている。
「じゃあ開けるぞ」
「はい」
グレイは屋敷の扉を開けた。ガチャという音と共に屋敷の中の内装があらわになった。
「綺麗ですね」
「そうだな」
扉を開けた先、玄関の真ん中には二階へと登る階段があり途中で二つに分かれている。一階の右側と左側に一つずつ扉があった。光源は蝋燭の火でそこが屋敷の美しさをさらに増している。
「お帰りなさいませ。グレイ様、フィオナ様」
屋敷に入って少しした時、二階からそんな声が聞こえて来た。階段から二人の女性、というより女の子が降りてきた。
一人は背は小さく薄い茶色の髪で頭の上から耳を生やしている。おそらく獣人と呼ばれるものであっているだろう。もう一人は先ほどの人よりは背が高いが、フィオナよりは若干低い。白い髪をしており髪の横からは長い耳が見えている。こっちはおそらくエルフだろう。
どちらもこの世界ではもうほとんどいない種族の一つだ。双方、短いひらひらスカートのメイド服を着ている。年齢はグレイたちと同じか少し下のように見えた。
「君たちは?」
グレイは階段から降りて近づいてくる二人に疑問を覚え、聞いてみる。
「私はノアです。エルフ族で理事長様よりお二方の生活を補助するというお役目を頂きました」
「私はマロンですっ! こっ、これからどうぞよろしくお願いしまひゅ!」
マロンは舌を噛んだのか顔を赤くして痛そうに下を向いている。そんなマロンの肩にノアは手を置き声をかけた。
「そんなに緊張しなくてもいいの。 すみません。マロンはまだちょっとこういうのは初めてなので緊張しているようで」
「初めてというのは?」
フィオナが疑問に思ったのかマロンに寄り添うノアに向けて聞く。
「このように様々な欲を処理することです」
「欲?」
「はい。食欲や性欲など様々な欲を処理できるように私たちは育てられて来ました。当然このことなのですがこの子はまだ経験が足りなく……」
ノアがマロンの頭を撫でながらそう言う。
「ノアはそう言う経験はあるのか?」
「いえ、私も実際にはありません。ですが誰よりも練習はしてきた自信はあるので、ある程度までは出来るという自信はあります」
「全然、俺たちはそう言うことは気にしないから大丈夫だよ」
「性処理もって事ですか?」
グレイは後ろから感じ取った恐ろしい殺気を感じ取った。
「いやいや、性処理なんて今は使わないよ」
「今は?」
「いえ、一生マロンやノアにはさせません!」
グレイはフィオナに向かって己の決意を述べたのだった。
あの後、グレイたちはマロンとノアの寝室などを決めた。マロンとノアは二階に、グレイたちは最上階である四階に住むことに決める。
「では最後に決めていただきたい事がありまして」
「なんだ?」
最上階の自室でノアがグレイたちに向かって聞いて来た。ノアは手招きで近くを掃除にしていたマロンを呼び寄せている。
「専属を決めてもらいたいんです」
専属ということはマロンとノアで俺とフィオナが一人ずつ選ぶということだろう。グレイは正直、マロンでもノアでもどちらでもいい。
「フィオナはどうなんだ?」
「私ですか?そうですね、私は……」
しばらく顎に手を当てて色々と考えていたようだったが、フィオナはようやく答えが出たようだった。
「私はノアがいいです」
「じゃあ、俺はマロンで」
フィオナと意見が被らないようにグレイはマロンを選んだ。それぞれが専属の前に移動して、手を腹に当ててお辞儀をした。
「承知しました」
「よろしくお願いします。グレイ様」
「明日から学校だから俺たちはもう寝るよ。今日は色々と大変だっただろうしマロンたちも寝たらどうだ?」
前世ではあまり女性付き合いは得意では無く、目白さんがかろうじて支えてくれていた。だが、今はフィオナのおかげである程度は女性付き合いも出来るようになった。そんなグレイは自分の専属になったマロンに笑顔で語りかける。
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
「おやすみなさい」
マロンはグレイに笑顔を返して、部屋を出て行った。彼女のあとへ続くようにしてノアもお辞儀をしてゆっくりと部屋を出て行った。
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