第2話 実技試験①
「あ、兄さん。お帰りなさい」
筆記試験が終わり馬車に戻ると、フィオナが馬車の椅子に座っていた。すぐにフィオナはグレイに聞いてきた。受験中は受験生全員の家がこの馬車となる。
「試験どうでしたか?」
「多分、大丈夫だと思う」
一日目の試験はおそらく全教科で満点に近い点数を取ることが出来ているだろう。だが問題は二日目からだ。二日目からは実技試験となっている。状況に応じて臨機応変な対応が求められるとナックルが言っていた。
「そう聞いてきたフィオナはどうだったんだ?」
「初めてにしては上出来だとは思います」
フィオナは少しその場で考え込んでからそう言った。グレイとは違い人生初の受験だったフィオナからしてみれば受験というのは未知の世界だ。そう考えればあの答えが出てくるのはかなり自信があるのだろう。それが何かのフラグにならなければいいのだが。
「明日の実技試験のために今日はよく体を休ませよう」
「そうですね」
セツシート大学の受験は何日もかけて行われるため食事の提供が行われる。二日目以降、食事は馬車ではなく食堂に食べにいかなければならない。朝早くから地図を片手に学校内で迷いながら食堂をやっとの思いで見つけ出す。グレイたちが指定された時間に食堂に到着した時にはもうすでに人でいっぱいになっていた。机は四列になっていてハリー⚪︎ッターを彷彿とさせるものだった。おそらく、魔法部門と剣技部門の二部門が合わさっての人数なのだろう。魔法部門だけで数を数えたら人数は半分くらいには減るとは思うが人数が多い、すなわち倍率が高いことには変わりない。
食堂で朝食を食べていると前にあるステージに年配の教員が登ってきた。
「お食事中失礼します。ただいまより、実技試験魔法部門の内容を発表します。魔法部門受験者は紙を後ろの人は流していってください」
食堂にいる受験生はその言葉を聞いた瞬間、食堂は一気に静かになった。前に出た人はその列の分だけ紙をもらい後ろの人は回している。グレイも前の人から紙を受け取り後ろへと流していく。もらった紙を広げて大体の内容を読み取る。
試験内容は具体的に言うと、倒した魔物の数によって点数がつけられるようだ。特筆すべき点は二人一組だということだろう。フィオナと一緒に試験を受けることができるかもしれないが、どうなるのか楽しみになる。兄妹で協力することができれば心強いところでもある。
「二〇体の魔物を倒せばエクストラステージに挑戦できます。エクストラステージにいる魔物を倒せば特待生に進級です。試験の日程は今日より二日間ですので頑張って下さい」
前に立っている教員は喋り終わると深々とお辞儀をして、壇上から退場する。
「特待生か……」
「どうせなら特待生にはなりたいですよね」
フィオナの言うとおりグレイも特待生にはなりたいが、特待生はかなり狭い門なのだろう。
「出来る限り頑張ってみようか」
「そうですね、兄さん」
朝食を食べ終えたグレイたちは集合場所である講堂に向かった。講堂には先ほどの食堂までとはいかないが、それでも多くの人が集まってるようだ。少しの間、講堂で待機していると前に再び食堂の時と同じ教員がステージ上に上がってきた。
「負傷者などが出た場合は我々がすぐに処置しますので安心して下さい。では皆さんの健闘を祈ります」
その教員は辺りにいた教員に合図を出すように右手を大きく振り上げる仕草をした。次の瞬間、講堂の床は白く光りその明るさのあまり目を閉じてしまった。
体に暖かい風が当たったのに気がついたグレイは再び目を開ける。目を開けた先は先ほどまでいた講堂ではなく、どこか森の中だった。
「転移か……」
「綺麗な場所ですね」
聞き覚えのある声を聞き、横を見てみるとそこにはフィオナが立っていた。どうやら二人一組のペアはフィオナになったようだ。ホッとする気持ちと共に急がなければいけないという気持ちが芽生えた。
「じゃあ早速魔物を倒しに行こうか」
この広い森の中で魔物をしらみ潰しに探すのはナンセンスだ。だから、グレイは魔力を薄くして超音波のようにして辺りに広げていった。魔物や何かが遮蔽物に当たるとグレイの出した魔力は跳ね返ってきて何がいるか分かるという仕組みだ。現世でいう超音波計といったところだろうか。この世界風にいうと魔力探知と名付けたいところだな。これもまたグレイが創り出した魔法の一つである。
「フィオナは東の方向に、俺は南側に行くから後でここで合流しよう」
「分かりました」
グレイは短く会話を交わすとフィオナと別れて南側に走った。森自体はかなり広く感じられたが魔物の数は思っているよりも少ない。おそらくこの試験の魔物を倒す、というのは最初のうちはどこを歩いていても会うことはできるだろう。でも結局は早い者勝ちという事になるはずだ。
「見つけたっ!」
そこにいたのは魔力探知で見た通りの少し大きめな狼のような魔物だった。すかさずグレイは魔物に対して魔法を撃ち込んだ。
「
ドンと鋭い音がして魔物は地面に倒れる。数秒後、魔物の死体は地面に液体となって沈んでいった。その場に残ったのは青く光り輝く石だった。
「これは……魔封石か?」
魔封石とは魔力を封印した石でこれを使えば魔法を撃つことは勿論、色々な範囲で使うことが出来る。
「何でこんなものがここにあるんだ?」
グレイは魔封石と睨めっこをしていたら後ろからフィオナが声をかけて来た。
「どうしたんです?」
「いや、魔物を倒したらこれが出たんだよ」
「こんなものが? 私は出ませんでしたね」
「じゃあどう言うことなんだ……?」
「私はもう行きますね。次々倒していかないといけないので」
フィオナは再び森の中へと走っていってしまった。グレイも魔封石をポケットにしまい森の中へと入っていった。
「これでようやく十体目か」
試験が開始してからもう六時間は経っただろう。グレイは森の中を魔力探知で魔物を探して、見つけては倒しを繰り返していた。そろそろ陽も落ちる頃で辺りは夕暮れに照らされてオレンジ色に光っていた。グレイはフィオナと合流すべく最初の位置に戻り始めた。
「あっ、兄さん! どうでした?」
「こっちは十体だけだったよ。フィオナは?」
「私は九体ですね」
あと一体見つかればエクストラステージには行けるのにな、と思う。でもその一体がいくら探しても見つからない。不意にポケットから取り出した魔封石を空にかざしてみた。すると半透明な魔封石の中に何かの模様が埋め込まれていたのに気づく。
「セツシート大学の校章ですかね?」
「そうだな……」
「魔物は大学側が操っているということでしょうか?」
フィオナは不意にそう喋った。彼女の言葉にグレイは顔をしかめて言う。
「どういうことなんだ?」
「魔封石は何かを操る事にも使われるんですよ」
それはグレイの知らない情報だ。勉強不足というやつなのだろう。この実技試験で、フィオナがいなかったらグレイは手に持っている魔封石の意味が一生分からなかっただろう。
「でもその場合、術者はかなり近くにいないと発動できないんです」
「術者なんていなかったけどな」
「それが問題なんです」
魔力探知をずっと使っていたが近くにそんな術者はいない。じゃあ、どこから操っているというのだろうか。
「もしかして……」
「どうしたんですか、兄さん」
欠けていたパズルのピースがかっちりとはまったかのように全てが解けた気がした。すぐにグレイの思ったことを事実に変えるべく魔法を撃つ。ただし、空にだ。
「
「兄さん、何してるんですっ⁉︎」
急に空に向かって魔法を撃ったグレイを見てフィオナは叫んだ。だがグレイはフィオナのそんな叫びを無視して、空に真っ直ぐ伸びる火炎球をじっと見ていた。
「やっぱり……」
「さっきので何かわかったんですか?」
「俺たちが馬車の時のように小さくなっていたらどうだ?」
セツシート大学の近くにはこんなにも広大な森はなかった。魔獣は魔封石のない野生のものもいたから怪我をした場合はすぐに助けに行ける必要がある。ならば常に何処かで監視をしておかなければいけない。そうするとグレイたちが馬車の時のように小さくなっていると言う理論も通るはずだ。
「なるほど、確かにそうですね。馬車の男の人が門外不出と言っていたのもそう言う事ですか」
「じゃあエクストラステージに進むには外部で俺たちを監視している人たちに勝つのが条件か」
「今日はもう暗いし続きは明日にしましょうか」
グレイはそう提案して来たフィオナの言葉に頷いく。寝床は自分たちで作れと言う指示だったためいい感じの場所をグレイたちは探した。
「ここの洞穴でいいんじゃないですか?」
森を歩いていると崖の中にある洞穴を発見したフィオナが指差して言った。
「確かにな」
グレイもその洞穴を見て一日暮らせそうな大きさだったため快く許可した。洞穴の中に入ると大学側から支給された結界札を壁に貼る。結界札を張った瞬間、洞穴の入り口が完全に遮断された。それを見て新鮮そうな表情を浮かべてフィオナがこう言った。
「これはすごい」
一度外に出た外観を確認してみる。外から見るてみれば岩と同化していて洞穴があるとは分からないだろう。
「こんな技術をたくさんの人に見せてもいいのか?」
自然と頭の中に浮かんだ疑問が口から出てしまった。まあ受験生に使わすということはそれほど問題ないということだろう。
「これを今夜の夕食にしようか」
「そうですね」
グレイは大学側からの提供物である夕食を魔力空間から取り出した。大学から支給された夕食というのは弁当箱のようなもので魔力を少し流すと内容物が暖かくなるというものだ。電車などで食べる駅弁と類似している。
「「いただきます」」
二人で手を合わせて弁当を口にほうばる。これでようやく長かった怒涛の一日目は終わりを告げた。
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