第15話 夏休みの危機

 「さぁ。次はどんな占い結果が待っているかな?」


 ある日の放課後、薄暗い教室に一人の生徒が水晶を眺めていた。

 水晶には何かが映し出されており、その生徒はそれを見て、悪だくみを考えたかのような笑みを浮かべている。きっと、はたからみたらヤバい奴認定を受けるのだが周りには誰もいない。聞こえてくるのは外部活の人達の掛け声だけ。この時だけ普段使っている教室が彼女だけの空間化としていた。


 「へー光圀君達は今から夏の思い出を沢山作るんだね。そして……とうとう二つのカギが開くのか……実に面白い!」


 物語に出てくる悪役的な発言を残して、フーっと一息ついた。

 何かスッキリとした感じだ。

 すると、その生徒はもう用件が済んだのか水晶をどこかに持ち出し、教室を出ていく。


 「今回も楽しめそうですね」


 ここにいた生徒の名前は___星山実。

 未だ謎多き人物であるが、今回は一体何を企んでいるのか……その詳細はまだ誰にも分からない。



 ☆★☆★



 「地獄の幕開けだ!」


 「地獄の幕開けだ!」


 男性の低い声と女性の高い声が見事にハモリ、とても綺麗な幕開け宣告ができた。

 決して合わせたわけではないので、ハモった後、二人は運命的なものを勝手に感じ目を合わせて固く手を握り合った。


 「待っていたぞ。この調子で二人で夏休みも一緒に頑張ろうね光圀!」


 「嫌です!僕は絶対に遊び散らかす未来を手に入れます!」


 言動は一致してないがお互い赤点仲間としての絆は強く、こう言ったものの俺も心の中では同じ事を思っている。

 

 (赤点だ!)


 このことから分かるように、今はテスト週間の真っ只中。前と同じように占い部では勉強会を開催しており、現在はその最中。文化祭が終わってまだ数日しか経ってないのになぜこんな留年増量製造機みたいなスケジュールにしたのか、このスケジュールを組んだ人の胸倉を掴んで抗議してやりたいと思う。しかし、それと同時に言うだけで実際に出会ったら頭を下げて逃げるだろうと容易く想像できてしまう自分が情けないとも感じていた。


 「だべらないで君達二人は早く始めないと、また赤点取っちゃうぞ!」


 「はい!すいません」


 文化祭の準備の時の夜月が頭に残り、少し強い口調で注意されるとすぐさま切り替え勉強に向かう。

 さっき夢奈が言った通り、もしこれで赤点取ることをしてしまうと夏休みが補習で終わりに。それだけは避けたいと思い、俺は全盛期の高校受験期を風物させるように気合いを入れてペンを武器に問題と戦う。こう見えても中3の俺は毎日7時間はノルマのようにこなしていた。だからこの程度と思い取り組むのだが.その集中は束の間、すぐさま分からない問題のオンパレードで意気消沈に……。


 「もう無理!」


 勿論、もう一人のちびっ子もKOで机にべったりと張り付いている。

 このままでは赤点コンビともに血の海へ行くことになってしまう。

 どうにかしてこの状況を打破したいが……肝心な教えてくれる人がいない。


 えっ!おいおい光圀、ここで一緒にやっている天才を忘れているじゃないかと思ったそこの諸君!残念ながら今回はその手が使えない。そもそも使えるなら机と友達になんてなっていない。ならなぜってそれは選択科目の教科だからだ。悲しいことに鈴美と夜月は生物という教科を取っておらず、俺と夢奈だけが取っていた。このことから分かるように勉強ができる組は生物については俺らより素人。かといって友達がほぼいない俺たちに頼れる人がいない、いない、いない友達が……!


ここである存在を思い出した。


(そうだ!俺には頭はいいけどボッチ引きこもりがいたではないか!)


 俺の妹__奈古。

 まだ一度しか登場してないので改めて説明すると、奈古は俺と違って頭が桁違いに良く学校などには行かずに、有名大学の教授とずっと研究をしているのだ。

 だから普段は部屋に閉じこもり、トイレやご飯を取りに行く時など人間の最低限度をする時しか部屋から出てこないので存在を忘れていた。すまない妹よ……


 「夢奈!俺達がキラキラした海に入れるかもしれない!」


 「えっ!本当!」


 夢奈の目には輝きが溢れており、俺の目にも浮かんでいた。

 それも無理ない。絶対に追い詰められた状況から脱却できる希望を見つけたのだから。

 まさしく起死回生の考えにバトル漫画の主人公はこんな気持ちだったんだ!と気持ちよくなる。


 「じゃあ行こう!俺の家に!」


 「おう!」


 そうと決まると俺達はすぐさま片付けを開始。その速さはそこら辺の飛ぶ鳥よりもはやく、今ならタカからも逃げれるような勢い。カバンを背負って明日の方角を睨めると、首だけをかしげて言い残す。


 「皆、待たな!」


 「次は海で会おう!綺麗な塩水で!」


 約束を交わし出ていこうとすると……


 「ま、待ってください!」


 さっきまで無言で勉強に取り組んでいた、鈴美が待った!をかけた。俺らからしたらどこに止める要素があったのか疑問は残るが、黙っていると。


 「私も、光圀君の家に、行きたいです」


 唐突の一言に口が空いたまま動かない。

 本当になんでだ?

 俺的には別に断る理由はないのだけど、鈴美にメリットなど全くない。むしろうるさい二人がいなくなる方が集中でき勉強は捗り続けるはずだ。じゃあ何があるのか?


 「いいけど、なんでですか?」


 「え、え、それは、そのー!そう気分転換だよ。こんな何もない景色じゃ物足りないでしょ!」


 「ごめんね。部室しょぼくて……」


 鈴美の放った矢は大きく曲がり夜月にヒット。風評被害を受けたしまった。意外にも夜月はこのことを気にしていたか普段は大きい体も今は萎んで見える。鈴美はそれを見て必死に慰めていたが、蘇る様子がない。何してるんだかと思いため息を吐くと、一声かける。

 

 「分かりました。皆で行きましょう。夜月も来ていいですから」


 「本当に!」


 その言葉、待ってましたと言わんばかりにとびきりの笑顔で答える。

 見る見るうちに萎んだ体に肉がつき、気付いた時にはもういつも通りの姿に。嬉しさもあってか気持ち少し大きい気もするが。


 俺としたら単純に夜月一人を残すわけにはいかないと考えこの決断を下しただけでここまで喜んでもれるとは思わず、照れくさい。念を押してテストが悪くても一切責任は負わないと言いつけ、夜月達は何度も何度も首を縦に振る。


 「じゃ行こっか!」


 さっきまでの落ち込みは本当にどこにいったのやら、すっかりその様子はなく先導しだす。しかし夜月は時々、こっちに光圀君の家の気配がする、とかこっちだと子どもみたいにはしゃぎ家とは逆に突っ走って行くことがあった。着いた頃には俺はすっかりと息が上がっていた。


 (なんで……こんな目に……)


 いつもは10分程度で着くはずの家なのに、今日は30分もかかってしまった。俺は今にもベットに横倒れになりたいが、頭の片隅には生物という2文字が浮かんでしまう。きっとベットに入っても悪夢を見るだけだと思い、踏ん張ることにした。



 ☆★☆★



 「奈古入るぞ」


 そっと妹の部屋を開けると前に入った時と変わらず、空き缶やぐちゃぐちゃのプリントが山のように埋め尽くされており、足場がない。


 これを見た夜月達も引いており、本当に人間が住む所なの、いや違うでしょ、などの会話が繰り広げられていた。


 さぁ!今からが本番だ。


 俺は今から足をかけたアトラクションに挑まなければならない。なぜなら妹は今ここから大声で喋りかけても返事がくるより喉が潰れる方が先だから。研究者だけあって集中力はズバ抜けており、間近で喋りかけないと反応しないのだ。しかし先ほども行った通りまともな足場がないので、行くのにも一苦労かかる。何が埋もれてあるのかも分からず下手したら大怪我の可能性まである。かといってここで何もしなければ俺の夏が終わるので犠牲は払わないといけない。


 (よし!行くぞ)


 腹を括り、歩き出すと一歩めから何かの角とぶつかりめちゃくちゃ痛い。

 これを何回繰り返せば良いのか、先が思いやられ今にも戻りたいが着実に一歩ずつ進める。まさしく一進一退の攻防がなされている。


 「おい!」


 ようやく奈古のそばまで近寄り喋りかける。足の感覚はもうなく、明日から歩けるかなと心配もよぎるが今はテストことに全てを捧げた。


 「うわ!」


 なこは突然のことで驚き、椅子ごと後ろに倒れる。

 

 「イタた、兄さん、また突然驚かせたな」


 「こうでもしないと反応しないからな」


 ボサボサ髪で丸眼鏡、上下ピンクのジャージに白衣を着ただけの姿。

 これこそが俺の妹__奈古だ。

 

 「今度は何ですか」


 「勉強教えて欲しい!」


 真剣な眼差しを奈古に向ける。

 

 「何かと思えばそんなことですか。いいでしょうどこですか?」


 「いや実は俺だけじゃなくて………ほら」


 奈古はようやくにして目線を彼女達がいるドア付近に合わせる。

 最初はピントが合わずに眼鏡をかけては外して繰り返しやがて沈黙。

 どうしたものか、と思っていると何やら顔を真っ赤にして下を向いていた。


 「あの………始めまして………光圀の妹の奈古です……」


 さっきまでの威勢の良い声から一変して人見知り特有の小さく籠った声でモゾモゾと話す。夜月達は聞こえてないと思うが、きてきてと誘う。

 

 「ほら、行けよ」


 俺の一言で安心し、恐れながらゆっくりと扉に向かう。

 なんにせよ、俺や大学の教授以外の人と話すのは何年ぶりかの出来事。

 しかも相手が3人となると、このようになっても仕方がない。

 最後まで歩き、夜月の前で止まると………


 「会いたかったよ!」


 夜月は強烈なハグをした。

 奈古は大きなメロンに挟まれ、何がどうなっているかも分からない状態。

  

 「あっ!ごめんね。私は橋川夜月。よろしくね!」


 「私は斉木夢奈。年下だけど夢奈でいいわ」


 「私は………星山鈴美………」


 奈古は色々と情報量が多くタジタジとしていると、皆優しく丁寧に接していた。

 俺の時とは全く違うかったけどな!

 数十分もすると、奈古も心を開き女同士の会話が弾むようになっていた。

 俺以外の人と笑顔で話しているのを久しぶりに見たので安心し、このままハッピーエンドかと思ったが肝心なこと思い出してしまった。出来れば触れたくもなく期末テストでなければ絶対に逃げていた……生物を。


 「テストだ!」


 俺は急いで会話を遮断して、テストの存在を伝える。

 すると皆、青ざめた顔になりワークを取り出してくる。


 「兄さん、夢奈さん、どこが分からないのですか?」


 「……全部です」


 奈古は呆れたように重いため息をして、解説しだす。

 結局終わった頃には、夜の9時過ぎ。俺達は出前を取って、夕食を囲んで解散。その後も俺は奈古に少しだけ教えてもらった。


 「兄さん!良い人達でしたね!」


 「あぁ!」


 奈古はそう言い残し、自室へ戻る。

 


 ☆★☆★


 テスト返し当日。


 「皆、俺赤点なかった!」


 「へっ!光圀!私もだ!」


 「みんなおめでとう!」


 「よく頑張った……二人とも」


 見事皆、青い海に迎えることが決定!

 果たして俺達の夏休みはどうなるのかワクワクが収まらかった。


 


 


 

 

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