第19話 封印解除
橘と呼ばれたホスト風の男が本殿を離席し、戻って来るまでにそう時間は掛からなかった。
「弁財天様、つれてまいりました。」
片膝をつきお目通りの許可がおりるまで待機する。
「通せ。」
短い返事を確認した後、橘が引き戸を開ける。3人の女性の魂が入り込み、歪な形に変化していく。弁財天と呼ばれた女性の顔が徐々に強ばっていく。
「なんと……惨い……。」
1人の女性は両手、両足を切られ丸焦げ状態で、もう1人も同じく両手両足を切られ全身を包帯でぐるぐる巻きにされている。最後の1人は両手と片足を切られ、顔が女性と判別がつかないくらいに殴打された後があった。
どの女達も無念の想いを秘め、心ここに有らず視点の定まっていない状態で呻いている。
「誰がこのような惨いことを!わらわが今すぐ魂を元にもどしてやる。」
「お待ちください、弁財天様。」
平伏していた八尾が左手を広げ、立ち上がった弁財天を制止する。
「なぜじゃ!?」
止める意味がわからないと問いかける弁財天に対し八尾は静かに頭を起こす。
「この者達は魂の修復が望みではございません……少なくとも今は。この女達は拉致され、手篭めにされ、両手両足を切られましてございます。包帯の女は海に投げ捨てられ何分生きるかなどの面白半分の賭けに使われ、そちらの女は肉を焼く墨に使われたあげく小便をかけられ……」
「黙りゃあああああああああぁぁぁ!」
ものすごい地鳴りと共に本殿が揺れた弁財天と呼ばれた女性の黒髪が逆立ちゆらゆらと揺れる。その身体からは白いオーラが立ち上っていた。
「なぜそんな惨い事が出来る?誰がこのような鬼畜にも勝る所業をした!?申してみよ!」
弁財天は鉄扇をバチンバチンと手のひらで叩き、八尾に閉じた鉄扇を向ける。明らかに激怒している。
「恐れながら……片桐誠一という男の仕業にございます……。この者、警視総監の父の威を借り女をこのような目に合わせておるのでございます。そして警視総監もそれを咎めることも致しませぬ。」
「なに!?親子でこのような鬼畜の所業をしておると。」
「はい。今の我々では対処出来ない状態にございます。この者、自らの強力な生霊を使い、人殺しを致します。例え捕まえたとしても証拠がございませぬ。」
「周りくどい!わらわにどうせよと?!」
「この者達の死体はとある海岸で発見されました。私の部下が残滓を辿り霊視致しましたところ……次に狙われる女性が判明しました。そして片桐誠一は京都を目指しております。」
「わらわの管轄でか?良い度胸をしておるな。」
「恐れを知らぬとはまさにこのこと……。そこで我々警察は正式に依頼致します。お願いにございます。片桐誠一を倒し、女性達の無念を晴らしては頂けないでしょうか?」
「……。」
八尾が誠心誠意、頭を下げる。3人の女性達は苦しそうに呟く。
『悔しい……。』
『神様……助けて……。』
『お父さん……お母さん……』
「この者達は片桐誠一がいる限り成仏は致しますまい。そしてこれを放置してしまえば……この哀れな女達が増えてしまいます!私は警察を変えたいのです……!腐り切ったこの警察を!手前勝手なお願いと承知しております!どうか!どうか!お助け下さい!」
八尾は真剣に目を逸らさず弁財天を見据える。
弁財天は勢いよく真っ直ぐに飛翔していく。本殿を突き抜け、空に舞う。雨雲が弁財天を覆いつくし雷が無数に迸る。様子がおかしいと社務所から神主の天川が飛び出してきた。
「いけません!お鎮まり下さい!弁財天様!」
突然、雨雲が本殿の上空に現れ、豪雨が、突風が吹き荒れる。参拝客も巫女もこの異常さに気づき始めた。
雨雲から白い巨大な龍がうねりながら顔を出してきた。ワニのような鋭い目、だが誰がどのように見ても怒りに満ち、この場にいるものは息をすることさえ、許されない圧迫感に包まれた。
「なんという神気……!龍は初めて見た。」
そう言ったのは沈黙を守り、片膝をついたままの橘だった。
龍は低い唸り声をあげた……腹の中まで響く低い唸り声。
『よかろう……。天罰というものが如何なるものか教えよう。九頭龍を呼べ……!妖刀の封印を解く……。刀を九頭龍に返す。』
神主が叫ぶ。
「いけません!あれは呪われた妖刀でございます!初代九頭龍も扱えなかった妖刀にございますぞ!」
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