第8話
「よく覚えてんなぁ。今の今まで忘れてたよ。」
翔太があの一件をそんなに感謝していたとは思わなかった。受かった時のLINEは「無事受かりました。」の一文だけだったのに。鼻をかみ涙をごしごしぬぐいながら、凛は続きを読んだ。
幼稚園の時は俺が泣くたびに飛んできてくれた。小学校で少年団に入った時は、口下手で人付き合いも苦手な俺と他の子との間に入ってくれてた。その時出来た友達とは今でもずっと仲良くしている。凛がいなかったら、俺の小学校生活はもっと辛いものになってたし、それが今まで続いたと思う。でも、俺は凛に助けてもらってばかりだ。凛みたいに、相手が何に困ってて、どう助けたらいいかすぐに判断出来るほど器用じゃない。けど、俺も力になりたい。俺は凛が■■だから。
「……。」
この文章も、きっと何度も推敲したのだろう。所々文字が黒っぽくて読みにくいし、最後の文は完全に文字がつぶれている。
「一番肝心なとこ読めないじゃん。」
と独り言を言いながら、そこに当てはまる文字を考える。おそらく二文字だろう。
「『先輩』、だとちょっと文が変だよね。『先生』?いや、確かに世話は焼いたけど、多分先生って思ってないよな私の事。そこまでリスペクト感じない。んー。」
「好き?」
自分で言って、自分でパニックになった。
「……ない!ないないない!」
笑いながら突っ込んだはずなのに、耳の先までかーっと熱くなるのを抑えきれない。私、一体何を想像しているんだ。翔太とは幼稚園からの付き合い、弟みたいと思う事はあっても、そんな、恋愛感情とか……
ピコン
「え?」
葉が一枚、舞い落ちる。拾い上げると、三木からだった。と、また
ピコン!ピコンピコン!
「わ!」
ピコンピコンピコンピコピピピ……
「えええええ!?」
通知音が立て続けに鳴り、葉が続々と舞い落ち、机の上はあっという間に葉っぱだらけになった。
「こんなに……。」
「看板完成したら見に来て下さい!」「次はチョコ焼きそばご馳走します!」
二年生たちのLINEには、凛に気を遣っていない言葉が並んでいるのが見えた。一方的に連絡を絶った自分の事を、まだ慕ってくれていた。
「今日は貴重な意見ありがとうございました!もっとお話したかったです。」
「部長も副部長も頼りないので、引き続き来て下さると僕らが助かります。」
一年生のLINEは、車いすの人としてでなく、部活の先輩への言葉が並んでいた。緊張はしているが、拒絶はされていない。
凛の視界が滲んだ。遠慮しなくていい相手が、ちゃんといたのだ。
「ありがとう。」
涙を拭き、一つずつじっくり読んだ。その上で、返事を書くことにした。まずは、一番メッセージが読みにくかったあいつに。
LINEありがとう。とても嬉しかった。でも、最後の文章は文字が潰れて読めませんでした。だから明日、直接教えて下さい。
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