第2話

 迎えた二回目の委員会。澄華は文芸部に残っていた、去年の修学旅行のデータを全て持ってきた。

「わあ、こんなに!?すごいね!」

 高畠は驚きながら澄華に笑いかける。顔が真っ赤になるのが分かった。

「じゃ、説明よろしく!」

「は、はい!」

 声が裏返った。

「リラックスだよ。」

「!」

 高畠が小声で澄華に言う。澄華は顔から火が出そうだった―体感的には出ていた。頭が真っ白になりそうなのを踏みとどまりながら、話し始める。


「こ、こちらは行先を決める際に、参考にした観光地のパンフや旅行雑誌。こっちは、それを元に先輩が組んだ旅程です。史跡多めのコース、マリンスポーツ多めコース、リゾート多め……」

 説明しながら見せた資料を、委員全員がまじまじと眺めていた。毎年、先輩達は後輩の為に自分達の作ったしおりを残すという事をしてくれない。だから毎年、しおり作りは手探り。「これ真似して作ったら、時短にもなるよね!」「先輩凄いな。」「このコース行ってみたい!」委員達のテンションが上がったのが分かる。

 

「よーし!じゃ、大島ちゃんは、こっちの資料を基にリゾート多めのコース組んでみて!広岡っちは史跡多めのを。あとは―」

 高畠の指示の元、委員達が分担して仕事を進め始めた。

「ありがとね、助かった!」

 高畠がやって来た。「じゃあ、しおりの方任せていい?」

「は、はぃぃ。」

「これはちょっとしたお礼ね。」

 澄華がまずい、と思った時には、既に高畠は澄華の手を取っていた。


 手のひらべたべたでさ、カエルみたいなの。


「ほい!」

 高畠が澄華の手に飴を置いた。

「根詰めすぎないでね、じゃ!」

 そう言って、会議の方に戻って行った。澄華は、しばらくそれを呆然と眺める。


 そして委員会終了間際、ざっくりとだが、皆の希望が反映された観光コースが組み上がった。去年同様、史跡多めのコースやマリンスポーツ中心のコースなど、内容の異なるコースが四つで来た。

「はい!じゃあ明日、この四つのうちどれに行きたいか、みんなの希望を採って来て!で、それを委員会に持ってきて、グループを作ります!人数が多すぎたら調節できるように、第二希望ぐらいまで採っておこう!じゃあ、今日はお開き!」

 高畠がまとめた。


 澄華は委員会を出た後、玄関でぼんやりとしていた。手にはまだ、高畠にもらった飴がある。

「気持ち悪くなかったのだろうか。」

 澄華は手汗が多いのがコンプレックスだ。小学校の時にからかわれて以来、誰かに手を触られるのも、自分が何かを手渡すのも怖い。高畠が自分に飴を渡す時も、手に汗をぐっしょりかいていた。

「……期待していいのかな。」

「―さん、川越さん。よろしいですか。」

「えっ!?」

 びっくりして振り返ると、広岡だった。

「やっと気づきましたか。どこか具合でも悪いのですか。」

「い、いえ。何でもないです!あの―」

「これ、お忘れですよ。」

 広岡が持ってきたのは、今日持ってきた資料の一部だった。

「あ、ありがとう、ございます。」

「いえ。ところで、少々右にずれて頂けますか。」

「え。あ、」

 どうやら、自分が下駄箱の側に座っていたせいで、広岡は靴が取れなかったらしい。不機嫌そうな声に、澄華は内心むっとするが、まだましかもしれないと思い直す。人によっては、もっと乱暴に「どけ」と言うし、直接言わずに陰で、しかし聞こえよがしに「邪魔だよね。」と言う人もいるし。


「ごめんなさい。」

「いえ。では、また明日お願いします。」

 広岡の機械的な挨拶を背に、澄華は学校を出た。汗ばむ手の中の飴を見る。いつもならすぐ口に放り込むところだが、その日はもったいなくて出来なかった。

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