第13話 武神祭

 今年の武神祭は70人の参加者がいるようで、10日間に渡って開催されるようだ。例年よりも参加者と開催日数ともに、少し多いらしい。


 ルーナは推薦状を持っていたり、前年度で好成績を残したりしたわけでもなかったが、この前の予選で目立ったからなのだろう。シード枠に組み込まれていて、優勝するのに7連勝必要なノーシードでもなく、6連勝必要な第1シードでもなく5連勝必要な第2シードだった。その上には4連勝必要な第3シードもあるが、いきなり出て来た1人の少女に第2シードは破格だろう。

 これは、パぺルが聖王女にあの村の疫病の件を報告したことが一番大きいだろう。


 ルーナとしては、この国にいつまでも縛りつけられるのは望むところではないのだが、素直に聖騎士団に入るつもりはない。もともと、これについては予想していたので、驚きはなかった。



 ルーナは無事に4連勝し、残るは決勝戦だけとなった。少女が筋骨隆々の男や体格のいい女性たちになんなく勝っていくのは大きな話題となり、闘技場は満席状態になり、賭けも賑わっていたようだ。




 そして、ついに最後の決勝戦となった。


「さあ、さあ、皆さん。ついにこの日がやってまいりました。みなさん、盛り上がっていますかー?」


 ノリノリの司会者はマイクを観客たちに向ける。


「ワアアァァ!」


 すると、観客は大声をあげ、歓喜する。


「では、選手の入場です。1人目は────最近注目を集めている、うら若き、少女────ルーナだ! 前髪が長く、分かりにくいが、絶世の美女だと言われている。また、何といっても彼女の特徴はどんな思い一撃でも美しく流す、その柔軟さと、軽やかに舞を舞うような立ち振る舞いだ。」


「2人目は────途中参戦、無双しまくり────蒼の薔薇の魔法詠唱者マジックキャスター、イビルアイだ。みんな知っている王国のアダマンタイト級冒険者だが、何があったのでしょうか⁉ そして、謎の仮面を被る彼女だが、その素顔は誰も見たことがないと言われている。」


 その実況者の言葉を聞いて、盛り上がる一際、目立ったグループがあった。あれが青の薔薇という冒険者たちのようだ。


(なるほど、パーティーの中でこの少女が突出して強いと……。何か、盛り上がっているよだけれど、一応何を言っているか、確認しよう。)


 そう思い、ルーナは魔力を耳に集中させると、4人の声がハッキリと聞こえるようになった。


────おお。やっぱ、あのお嬢ちゃん、強そうだよな。


────無理してまで、来たかいがあったわね。


────そう。ルーナちゃんの姿を生で見るのは至福。


────同意。ルーナちゃんは16歳らしいけど、身長が少し小さくて、少し幼さの残る顔が凄く良き。頑張っても、13歳くらいにしか見えない。


────いや、何なら10歳と言われても納得。それに、あの中性的な声。凄くいい。


────ちょっと、あなたたちね。ここまで来るのにどれだけ、苦労したと思っているの! イビルアイの転移が目的地より少しずれて迷子になったたり、どれだけ大変だったか覚えているの⁉ ラナー王女から依頼もあるみたいだし、帰りも右往左往で戻らなかきゃいけないのよ!


────イビルアイ、羨ましい


────激しく同意


────ちょっと聞いてるの⁉


────仕方ない……。でも、ちょっとくらいは興味を持ってもらえるはず…


────そう、チャンスはある


────まぁまぁラキュー、そんなに怒ってもしょうがないだろ。もう始まるみたいだしな。


────そうすれば、私もルーナちゃんをなでなでできる。ふふっ。


────私はほっぺをぷにぷにした……



(うん? ペペロンチーノさんみたいな人が二人もいる⁉)

(……えっと、もしかして冒険者ってめちゃくちゃ癖強い人しかいないんだろうか?)



「さぁ、果たして、優勝者はどちらになるのか?」




「では始めます。両者、構えて!」


「始め!」



 始めの合図とともに、両者は同じ方向に移動する。イビルアイはルーナと距離をおき、魔法の詠唱に必要な時間を稼ぐため、大きく後ろに飛びのく。そして、ルーナはイビルアイとの距離を縮めるべく、イビルアイとの距離をぐっと詰める。


 イビルアイの方が僅かに速く、イビルアイの魔法が放たれる。


「≪水晶騎士槍(クリスタル・ランス)≫」


 水晶の槍が3本、ルーナの真上に降ってくるが、ルーナは全て華麗に避け、イビルアイに向かって加速する。


「≪砂の領域・対個(サンドフィールド・ワン)≫」


 しかし、ルーナの加速は緩まない。


「くっ、効かないか。」


 そうこうしているうちに、ルーナはイビルアイの目の前だ。しかし、イビルアイは不敵に笑う。


「≪転移(テレポーテーション)≫」


 ルーナは目の前からイビルアイが消え、後ろを振り返る。


「≪龍雷(ドラゴン・ライトニング)≫」


 そう、これこそがイビルアイの本命の攻撃だ。イビルアイは次の攻撃の準備をしながらも、「やったか⁉」とルーナの姿を探す。

 そして、見つけた。


 いや、それを見つけたというのは、表現が間違っている。目の前にいたのだ。


「っっ⁉」


 イビルアイは反射的に自分もダメージ覚悟で、イビルアイの切り札の1つを切ってしまう。


「≪負のエネルギーの暴走≫」


 しかし、それは不発に終わり、ルーナの剣がイビルアイの喉元に突き付けられた。


「えっ、なぜ発動しないんだ?」


(あれは少し、まずそうだったからな~。あの魔法(?)をわざと暴走させてから止めて、インパクトを与えたら、もっとルーナの名前は広まるのだろうけれど、それだと、法国とかプレイヤーとかに目をつけられることになりかねないからね。少し、止めさせてもらったんだけど……)


「最後のは凄そうな感じでしたが、大丈夫ですか?」


「……あ、ああ。大丈夫だ。」


「勝者はルーナだ!」


 観客たちは「おおおおぉぉぉぉ」と声を上げる。



「ルーナだったか? 強いな。」


「そうですか? イビルアイさんもとてもお強かったですよ。」


「ハハ、一撃も当たらなかったけどな。」


「それよりも、お仲間たちが待っているようですが……もしかして授賞式は辞退するのですか?」


「ああ。急遽、聖王国にとても強い少女が現れたと聞いたら、行くと言って聞かないチームメイトが約2名ほどいたんだ。」


 イビルアイはそう言って肩をすくめた。


「まあ、結果的にルーナと戦えたからいいんだが……。少し約束をほっぽりだして来てしまったんだ。だから、早々に帰らないといけない。まぁ、私たちは冒険者だしな。」


「……って、ティアに、ティナ⁉」


「フフフ。イビルアイ、驚いた?」


「これが、私のルーナちゃんへの熱意」


「そう、これが私の必殺技」


「イジャニーア」


「馬鹿野郎! おい! ティアも、ティナもさすがに度が過ぎる。早く、戻るぞ!」


 イビルアイは2人の腕を掴んで残る仲間たちの元に戻る。


「そうですね。では、お気を付けて。」


「ああ。ルーナも元気でな。」


「あ~、ルーナちゃん」


 ルーナは苦笑いしながらも、きちんと2人にも、手を振っておいた。


 その後に、「イビルアイ、見た⁉」、「イビルアイ、こっちで私、暮らす」とか言った声が聞こえ、いろいろあったようだが、まぁ私が平和に暮らせているということは結果的にそれは却下されたのだろう。




 その後の授賞式は大変だった。今回の賞金やトロフィー、村での聖女様の一件も加えて、いろいろ貰い、いろいろ面倒ごとも降って来た。もちろん、断った。

 中でも、レメディオス・カストディオという人は中々手強く、最後まで粘り強く、聖騎士団に勧誘してきた。

 ルーナは悟った。あ、この人、根はいい子なのに、融通が利かない、脳筋で、時と場合によってはかなり邪魔者扱いされる可哀想な人だな、と。



 まあ、それはいいとして、この闘技場の持ち主であるオーナーとのパイプができた。正確にいうと、そのオーナーがよく利用している情報屋を紹介してもらった。その代わりに、舞を見せてほしいと言われ、早速明日、闘技場で舞を舞うことになった。



 そうして、ルーナはその闘技場のオーナーおすすめの情報屋の元に向かうのだった。






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 はい。皆さんがおっしゃりたいことは分かりますとも。ティアとティナはショタが好きで、ロリが好きではありませんよね。しかし、作者は青の薔薇は割と好きなんですよ。という訳で、ティアとティナが新たな扉を開きかけていますが、目をつむってください。

 あっ、ちなみに作者はイビルアイ推しですね。可愛いですよね~。まぁ、エントマちゃんを傷つけたことは許しませんけど。それとこれとは話が別です!



>追記

 誤字を発見したので、修正しました。

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