水たまり

 どこで気に入られたのか、水たまりがついてくるようになった。

 わたしの少し後ろをするすると音も立てずに追って来る。振り返るとぴたりと止まる。

「どこまでついてくるの?」

 のぞき込んでたずねると、風もないのに水面がふるふると揺れた。答えてくれているようだけど、あいにく水たまりの言葉は分からない。

 雨が降ったのはちょうど一週間前。それ以降はずっと晴天続きで、乾いたアスファルトの上の不自然な水たまりに、きれいな青空が映り込んでいる。

 見た目はただの水たまりだ。なのに、懐かれただけでいつしか妙な愛着がわいてしまった。

 車や自転車に轢かれたら可哀想な気がするから、なるべく道の端っこを歩く。あんまり日差しを浴びると干からびそうで、できるだけ日陰を選ぶ。

「店のなかはダメ。ここで待ってるのよ? 邪魔にならないところでね」

 ふるふると水たまりがうなずくのを確認して、わたしはパン屋に入った。トングを手にして棚にずらりと並んだ大好きなパンと向き合っても、外の水たまりがいい子にしているか気になってしまう。悩んでいる時間がもどかしくて、定番のものを選んで早々に店を出た。

 人通りのない場所でじっとしていた水たまりは、わたしを見つけると嬉しそうに近づいて来た。

「帰ろっか」

 ずっと真後ろをついてきていた水たまりが、遠慮がちに横に並ぶようになった。わたしたちは手をつなぐように、家までの道を一緒に歩く。

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