5話 個人の力

 朝方、まだ人もまばらの通りを歩くレイにメアリーは疑問を投げ掛けた


「レイさん、現場に行くのでは?」

「あぁ、現場に行くぞ。どうした? 不安か?」

「でしたら何で逆の方向に?」

「服を選びにだよ」

「服、ですか? 別に後でも...」

「あのな~ 自分服装見たか?」


 言われてメアリーは自分の格好を見る。

 来ている服は煤や焦げ目があり、所々ほつれたり損傷していた。

 言われてはじめて気がついたメアリーはふと我に返り、顔を赤くする。


「犯人を見つけたい気持ちはわかるが、こんな格好で出歩かせてたらあいつに殺される」

「あいつというのは、父のことですか? あなたと父はどんな関係で」

「それはまた今度な...」


 肝心のとこをはぐらかされたがこれ以上は聞けないと思い、メアリーは口を閉じた。

 すると突然路地の方向に歩きだし。


「着いたぞ」


 ある店の前で立ち止まった。


「こんなところに洋服店があったなんて」


 そこは少し路地を入った所にこじんまりとした洋服店が建っており、看板にはアズイラ洋服と書いている。


「いらっしゃいませ〜」


 店内に入ると気怠げな痩男が店番をしていた、店員がレイの顔を見るなり気さくに話し出した。


「おっ、唯一の常連さんじゃ〜ん。ま、こんなとこに来る人なんてあんたくらいしか居ないけどね〜」

「今日は俺だけじゃないよ、連れも一緒だ」

「お~、あんたが女連れとはね~、レイにもついに春が」

「バカ言ってんじゃねぇよ、依頼人だ依頼人」

「そんなこと言ってまたまた~」


 突然の問答についていけないメアリーは店のなかを見回した


「アイツ……ん? メアリー、どうした何かあったか?」

「あっレイさん。いえ何も。ただ、かなり珍しい服を扱っているのですね。初めて見るような服が多く迷ってしまいます……」


 メアリーが昔から利用するような服屋では見ないような服がずらりと並び、所狭しと陳列されている。


「確かに、ここの服は他では見れないな。何せ全部こいつ、店主の手作りだからな」

「ハンドメイド〜」

「しっかし、相変わらず変な服ばっかりだな」

「変なとはなんだい、変なとは」

「これ全部手作りなんですね。」

「そう〜。基本レイ以外来ないから暇で〜ずっと服作ってる〜」

「俺が着てる服もこいつの手作りだ」


 そう言って、レイは身につけているカーゴパンツと黒のTシャツ、デニムジャケットをメアリーに見せる。


「道理であまり見ない格好だった訳ですね」


 そんな雑談をしつつ、メアリーの服を選ぶ2人、しかしなかなか決めきれずにいると


「こんなのはどうだい?」


 突然に適当な服を見繕い、メアリーに差し出す店主。


「これですか?」

「あぁ、かなりの自信作でね、試着室はそっちだよ」

「わ、分かりました」


 試着室に入り、店主から渡された服を見るメアリーは...


 絶句した。


 渡された服は、ポケットが謎に7つもあるGパンにデカデカとガキ大将とプリントされたTシャツだった。


「こんなの着られるわけ無いじゃないですか!!」

「そうか...ならこれなんてどうだい?」


 次に渡されたのは膝の関節部分のみが破れているダメージジーンズと俺たちは資本主義の奴隷とプリントされているパーカーだった。


「だから!!何ですかこの変な服は!!」

「ひとついい忘れてたが、こいつに服のセンスはないぞ」

「や、やっぱり自分で探します」


 メアリーは自分で服を手に取り、試着室へと入って行く。

 服を着替えている間、レイに向かい店長が聞く。


「それにしても復帰したんだね〜。前は生きてるというより死んでないだけみたいな雰囲気だったから心配だったよ〜。」

「......いや、今回だけだ。」

「へえ〜。何かあったの〜?」

「弔い合戦だよ、相棒のな」

「......そっかぁ〜。僕はてっきり3年前みたいにあっちも再開したのかと思ってよ......まあ、応援してるよ〜」


 そんな事を話しているうちに、メアリーは試着室から出てくる。


「どうですか?これ!」


 そう言ってメアリーは自信満々に披露するが。


「あれってお前が趣味で作ったお嬢様学校制服風のやつだよな(ゴニョゴニョ)」

「唯一売れてるんだよね〜あれ(ゴニョゴニョ)」

「ちょっと、何か文句ありますか?」

「ああいや、うん、似合ってるぞ?かなり」


 実際お嬢様風に作られた服は彼女の気品も合わさり、見事に魅力を引き立たせていた


「それにこの服軽いし肌触りもいい、何の生地なんですか?」

「それか? その生地はこいつの自作だよ」

「イエーイ」


 ダブルピースをして自慢をする店主に、メアリーは質問する。


「へえ……何か特別な素材を使っているのですか?」

「いやぁ?私のユニールで作ってるだけで素材はその辺に売ってるのだよ〜」

「ユニール……?」


 耳馴染みの無い言葉が聞こえ、メアリーは困惑する。


「レイ、ユニールの事言って無かったの〜?」

「いや、必要ないかと思ってな……」

「はあ〜、ユニールっていうのはねぇ、自分の魔力を消費する事で人によって様々な現象を引き起こす能力の事だよ〜。私は生地生成のユニールだからねぇ、構成さへわかっていれば色んな生地を作れるんだ〜」

「そうだったのですね……こんなに素敵な服を作れるなんて、凄い能力だと思います!」

「そ、そう〜?」


 メアリーに褒められ、店主は明らかにデレデレしだした。


「そういえば、レイさんにもユニールはあるのですか?」

「俺?俺はまあ、そんな使いもんになるようなユニールは持ってねぇよ。」


 レイはメアリーの質問をはぐらかし、自分の服の替えを手に取る。


「そうだ〜!せっかくだからメアリーちゃんのお代は無しで良いよ〜!」

「良いのですか?こんなに素敵な服には対価を払わねばと思うのですが……」

「別に大丈夫だよ〜。この店も趣味でやってるようなもんだし〜」

「せっかくだから貰っとけ。人の好意は無下にするもんじゃねぇしな」

「レイは早くツケ払ってね〜」

「何で俺だけ!」


 服の会計を済ませ店を後にする2人、するとレイが話しかけてきた。


「どうだ?少しは気が晴れたか?」

「え……?」

「いや、ずっと暗そうな雰囲気してたから少しは気晴らしになればと思ってな」

「レイさん……」


 その時、レイは何故か雑談をしながら少しずつ歩く速さを上げていく。


「どうしたんですか?」

「さっきから誰かにつけられてる」

「えっ……?」

「撒くぞ、付いてこい」

 

  追手からバレないよう少しずつ、だが着実に歩く速度を上げ、路地裏の曲がり角を曲がる2人。

 それを追って謎の影も曲がるも、既に標的だった男女は何処にもいなかった。

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