後編 新婚旅行はざまぁと共に

「フィリーナ。良くも私の前にまた現れたな」


「テオフィール様……私、大丈夫です。あなたに愛されているんですもの」


「ああ、優しいな。それにひきかえ、フィリーナは」


 ヒロインと攻略対象者のはずなのに、セリフはまるで悪役のようだ。


 久しぶりに会った彼らを見ても、驚くほど感情が動かないことにほっとした。彼らはまだ私がテオフィールに未練があるように感じているようだけれど。

 

 テオフィールは私のことを憎しみに満ちた顔でにらみつけ、ヒロインは彼に守られるように腕の中に納まった。


 でも、全然もう関係ない。


「フィリーナがなんだって?」


「ママ、これが悪いやつ? ほろぼす?」


「レイナルド! それにリカランド。大丈夫よ。……もう、関係のない人なの」


「フィリーナ、なんという言い方を……」


 私の皮肉が伝わったようで、そろって不快そうな顔になった。


 ……これぐらい言っても、いいじゃない。


 私が彼らを捻くれた気持ちで見ていると、私の後ろから冷えた声が聞こえた。


「なぜヴァライサごときの王族が私の妻に無礼な発言を? 呼び捨てなど当然許していない」


「なっ」


「ヴァライサが私の国の従属国になった事を知らないのか? それとも、宗主国であるグラッサーグの王族の顔もわからないのか?」


 レイナルドが不快そうに問うと、テオフィールははっとして膝をついた。


 もう名前も思い出せないヒロインの彼女は、そんな彼の姿に私をにらみつけた。


「妻の教育が足りないようだな」


「……イリス」


 テオフィールが名前を呼ぶと、ヒロインは悔しそうな顔で膝をついた。


「レイナルド王、……申し訳、ありません」


 じっと跪く二人を見た後、レイナルドは不安そうな顔で私のことを見つめた。


「フィリーナ、大丈夫か?」


「ええ。もう大丈夫です。さっきの言葉は嘘じゃないの。二人が居るから、私はもうこんなことで傷つく事ないわ」


「良かった」


 心底ほっとしたようにレイナルドが微笑むので、私は嬉しくなって彼の手を握った。隣でリカランドも私の手を握ってくれた。両手に花だ。


「ヴァライサ王には強く伝えねば。この国の者たちは、立場の違いが分かっていないようだと」


「申し訳ありません! お許しください!」


 テオフィールが青い顔で頭を下げ、ヒロインは下を向き肩を震わせていた。

 私はレイナルドの裾を引っ張った。


「……レイナルド」


「私の妻に感謝するんだな」


「かんしゃしろー」


「ありがとう、リカランドも。……さぁ、観光に行きましょう!」


「ああ、君のおすすめの場所、育った場所、楽しみだ」


「かぞくりょこうだぞー」


 私が二人に呼びかけると、彼らは嬉しそうに笑った。

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【短編】婚約破棄された悪役令嬢は、隣国でもふもふの息子と旦那様を手に入れる 未知香 @michika_michi

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