選び取るから、掴める未来。バディストーリーの傑作!
- ★★★ Excellent!!!
浮遊する大地に築かれた天空都市『彩雲』。華やかなリゾート地だったその楽園は突如、空に現れた異形の鬼たちによって地上との交わりを絶たれてしまう。航空機を喰らう鬼たちに人類が対抗する術はなく、多くの人を取り残したまま楽園は今も密かに空の彼方を彷徨っている。
たとえ命をかけた片道切符であっても、懐かしい地上へ帰りたい。
たくさんの想いを抱え覚悟を決めた人は皆、いずれ不思議な噂を耳にする――人やモノを地上へ送り届けてくれるという、「運び屋」がいるのだと。
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おっとりとした優しい青年タイクウと、ガラが悪いながら世話焼きな武闘派のヒダカ。正反対のメンズたち二人による、スカイダイビング×アクション×人間ドラマが熱い物語です。
荒廃した浮遊都市という、ロマンありながらも難しい舞台。そこに残された人々と、華やかな地上との格差。天空都市を諦めない人々の想いや、帰還をあきらめて都市で生活する人、そして鬼たちの謎――。たった13万字なのに、隅々まで練られしっかりとしたそのリアルな世界観には脱帽でした。作者様は他の作品でも情景描写や世界観設定がお上手ですが、SF要素もあるこちらはある意味ファンタジーより難易度が高いのではないかと思います。とくに『彩雲』のレトロ切ない描写は秀逸で、行ったこともないのにノスタルジーを感じてしまうので一見の価値あり。
舞台設定も見事ですが、やはり物語の核はバディによるアツい絆!どこがアツいのかをレビューで語るべきなのでしょうが……すみません、これがなかなか言えないんです読んでください(笑)言えない理由はすぐにわかりますし、わかった時にはもうこの物語の結末を見届けたくて我慢できなくなっているはずです。
ただめっぽう戦闘が強い二人の若者が、かっこいいセリフを吐きながら華麗に仕事をこなしていく……そんなお話ではないということは言えるでしょうか。強い想いを背負った依頼人との交渉(一度降りると戻ってはこられないので、二人も簡単には請け負えないのです)からはじまり、何度戦っても強敵であることにはかわりない「鬼」との空での死闘。運び屋の二人もいつだってギリギリで、自分たちですら無事に地上へ降り立つ保証もない。だからこそ毎度の依頼への彼らの本気度や真摯さが窺えます。かっこいい!
以前の「short.ver」では見られなかった世界の秘密なども垣間見え、タイクウくんの「あの秘密」に関する進展――そして運び屋『藍銅鉱(アズライト)』に訪れる、最大の危機。後半は胸を裂くような衝撃展開がてんこ盛りです。
そして物語のキーとなる『選択』という言葉。どの章でも形を変え、常に二人と読者を試してくる言葉です。
どうしても一方を選ばなければならない時、自分ならどうしただろうかと考えずにはいられません。
日頃なんでもスパっと決めちゃう方も、なかなか決められないという方にもおすすめのお話です。
あなたには、絶対に間違えたくない『選択』はありますか?
それでも選ばなければならないその瞬間が訪れたら、どうしますか?
どうか、後悔なき『選択』を!