5.チート能力? 改稿

 物騒な会話が続く中、初音は身の危険を感じながらもひとまず3人組を観察した。


 タレ目に右目の下のホクロが色っぽさを醸し出している女の獣人は、ニヤニヤと意地悪そうにその黒い瞳を細めて赤い唇を歪める。


 豊満な身体付きを際どい衣服に包んで、身体をくねらせた。その薄い茶色のクセのある長い髪からは、犬のような尖った大きめの耳が突き出て、短めの尻尾を時たま揺らす。


 鼻は人間と同様の鼻だったが、その顔にはヒゲ、手足は獣であるのがわかる。


 うふふとブチのある茶色の毛に包まれた腕を魅惑的に動かして、女の獣人は笑う。


 そんな女の獣人を中心に、脇を固める若い男の獣人2人は、チンピラみたいな外見でニヤニヤと舌なめずりをする。その顔には獣の鼻とヒゲがあり、手足も獣の風体だった。


 そんな騒がしい3人組を眺めて初音が思うのは、どう控えめに見てもーー。


「ガラが悪過ぎる……」


 言い方は悪いが時代遅れのヤンキーみたいだった。


「何か言ったかしらぁ? 人間」


「あ、いえ何でもないですっ!!」


 女の獣人にギロリと睨まれて、初音はバッと自身の口を塞ぐ。全ての感覚が人間より上である気がする獣人を相手にしている以上、ボソッとした呟きですら命取りになりそうだった。


「……あれってハイエナ……ブチハイエナ……だよね?」


「えっ! お姉よくわかったね! どうして!?」


「え? いや、何となく特徴的に……」


 思いの外驚くアイラに逆に驚きつつ、初音はじっと目前の3人組を見つめる。


 ブチハイエナの一般的なイメージは、餌を横取りして死肉を貪る卑怯者だけれど、実は動物界の上位種。


 ライオンを超えて骨まで砕くその強靭なアゴと歯。メスを筆頭とした集団で行動し、狩りの成功率は6割を超える賢い動物。


 横取りするのではなく、本当は体格差のあるライオンに餌を取られることが多い。体格差があるためタイマンでは勝てないが、ライオンと渡り合える可能性がある数少ない種。


 対するクロヒョウは単独行動を好み、木登りが得意で身体能力はずば抜けて高い一方で、抜き出るもののない完璧なバランスタイプ。


 ネコ科でもトップの柔軟性思考で、多岐に渡る餌や暮らしができることからその頒布が広いのが特徴。


 通常の自然界では単独行動の命取りになる怪我を避けるため、基本的にライバルとは戦わずに避ける。もちろん、ハイエナ1匹ともまず戦わないし、多数戦は言わずもがなーー。


「お姉……?」


「あっ」


 アイラの心配そうな声に、初音はハッとしてその顔を見る。


「ごめん、私何か言ってた……?」


 アセアセと体裁を繕おうとした初音に、アイラは驚いた顔を隠せないままに口を開く。


「お姉、何でアイラたちのことに詳しいの……?」


「え……っ」


 今のはそう、転生前に見ていた図鑑や各種コンテンツから仕入れた動物の一般的な知識。けれど不思議なのは、一度くらい読んだとは言え、既に忘れていたはずの遥か昔の知識であることだった。


 まるで今図鑑を前にしているかのように、頭に流れ込んでくるその知識。


「え、な、何でだろ……っ」


 その場の視線を集約させて、初音は言い淀む。もしや、これがよく言う異世界転生のチート能力と言うやつなのであろうか。


 役に立つのか立たぬのかと考えて、いや、情報は大切だと思い直す。


 普通の動物の知識に多少の色が付いた獣人だとしても、普通の動物の能力をベースにしているのなら、それはすなわち生きるか死ぬかの自然界で弱点を露呈させることと同義だった。


 口走ってから、その場のヤバい空気に初音は顔を引き攣らせる。


「ーーへぇぇぇ? 憂さ晴らしのただの遊び道具と思ってたんだけど、これは良い意味で当てが外れたわねぇ。クロヒョウが殺しもせずに連れ歩く訳だわ」


 あっはっはっはっと不気味に高笑いした女ハイエナは俯くと、その目を光らせる。


「死なない程度に骨をしゃぶりながら、知ってることぜぇんぶ吐かしてやるわ」


 その冷酷な笑みに、初音はゾッと身体を震わせた次の瞬間ーー。


「アイラ!!!」


 青年の声と同時に体が強く後ろへ引かれる。


「アイラちゃんっ!?」


 見るみる遠くなる青年の背中を見ることしかできず、初音はアイラに運ばれるままに洞窟の奥へと吸い込まれたーー。






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