第19話 新入生歓迎会
翌日、午後五時前。
屋内武道場はかなり広く、総生徒数7438人総職員数250人を収容してもまだまだ余裕がある。
仮設されたテーブルの上には料理人が腕によりをかけた美味しそうな料理が次々と並べられ、新入生達は緊張した面持ちでそわそわし、在校生や教員は穏やかに雑談している。
「さて、皆さん集まったでしょうか。ただいまより、新入生歓迎会を始めます」
ジゼル校長が壇上から呼びかけた。隣には学園長であるブランシュと、無人島で出会ったアゴヒゲを蓄えた老齢の教員…もとい、ジミー教頭の姿もある。
「…あの人、教頭先生だったんだ」
オルフェンがぼそっとそう言うと、アルベルトは「知らなかったの?」とオルフェンの方を見た。
「入学試験の時、面接で会わなかった?」
「俺の面接は校長だったからなぁ…」
小声で話していると、レベッカが横から補足する。
「面接は人数が多いから、学園長、校長、教頭の三チームに分けられて行うのよ。この中だと校長相手が一番受かる確率が高いらしいわ。あんた、運が良かったわね」
「……では、ここで先日のオリエンテーションで好成績を修めた主席のヴァレリー・マードック君に、新入生を代表して挨拶をしていただきます。マードック君、壇上へ」
「はい」
かなり緊張した表情で、ヴァレリーは舞台上に上がり、渡された紙を広げ読み始めた。
彼の胸にはクラス・リュンヌ所属を示す三日月型のバッジが輝いている。
ヴァレリーはところどころ噛んだり読み間違えたりしつつも何とか挨拶を終え、拍手の響く中壇上から去る。
「マードック君。素晴らしい挨拶、ありがとうございました。この学園で、君たちが学び、遊び、大きく育ち、この国を支えていく人材になることを大いに期待しています。では、堅苦しい話はここで終わりにして。今夜は無礼講ということで、皆様存分にお楽しみください。舞台上ではクラブや同好会の出し物もありますので、新入生の皆さんはぜひ参考にしてくださいね」
校長が話を終え、一礼し、舞台から降りていく。
そうして、新入生歓迎会が始まった。
「おーい、ヴァレリー」
生徒たちの集まる中、オルフェンがヴァレリーに向かって声をかけると、彼はこちらをつまらなそうな顔で睨む。
その理由は主に、アルベルトの横でにやにやと笑うレベッカだろう。
「おい、何笑ってんだ高飛車女」
「いいえ~?素晴らしい挨拶だったわね、主席君?」
「てめぇ…!!」
笑いを堪え切れず噴き出すレベッカに隠れつつ、マヤはおどおどと「ひ、ひひひ、ひとが、人が、多すぎる…!!」と目を回し、レインはオルフェンの横で「料理いっぱい。ピザあるかな」ときょろきょろと会場を見回している。
「オルフェーン!レイーン!!」
聞き覚えのある声にオルフェンが振り返る、と同時に顔面に柔らかい物が押し当てられた。
「うおっぶっ!!」
「リュンヌだぜリュンヌ!やったじゃんお前ら~!!このこの~!!」
声の主、ジェーンは赤面しつつも苦しそうなオルフェンに構わず、ぎゅうぎゅうと彼の顔をその豊満な胸に押し当て、一緒に抱きしめられたレインも少し煩わしそうに「くるしい」と呟く。
何とか脱出して、オルフェンは不愉快そうに眉を寄せジェーンを見上げる。
「酒くさっ、飲んでんな、ジェーン…」
「うへっへへ。あったりまえよ~!ま、生徒用の酒だからあんま飲みすぎると学園長に怒られるんだけどな~。お前らも飲もうぜ~」
「カシュリアでは酒もタバコも16歳からだろ」
空のワイングラス片手に上機嫌なジェーンに、オルフェンは冷静に突っ込む。
その様子をヴァレリー達四人は困惑しつつ見つめていたが、意を決し、アルベルトが酔っ払いに声をかける。
「あの、オルフェン。その人は?」
「んあ、…お~!お前らもリュンヌか!アタシはジェーン・ダイアー!こいつらの保護者で、戦闘術の教科の先生で、リュンヌ一年生の副担任だ!つまりお前らの副担任だな!あははっ、よろしく~!」
「…情報量がすごいんだけれど」
唖然とするレベッカの横でマヤも頷く。
「ジェーン、副担任なの?」
レインはジェーンのバストに押しつぶされつつ聞いた。
「おう!担任はもう会ったよな?ロジェ・ヴァニーユ。あの人、アタシがこの学園の生徒だった時からの付き合いなんだ。厳しいけどいい人だから安心していーよ!」
「え?ジェーン、この学校の卒業生だったのか?」
オルフェンが尋ねると、彼女はあまり回らない呂律で「ん~、言ってなかったけ?」と首をかしげる。
「アタシ、色々あって15歳まで冒険者してて、途中でこの学園に入学したんだ。んで、そん時二年上の学年だったロジェ先輩が色々面倒見てくれてたってわけ」
「…あ、ジェーン先生!こんなところに…」
その時、ちょうどタイミングよく一同の前にロジェが姿を現す。
彼は微笑みを浮かべていたが、オルフェンがジェーンに抱きしめられてるのを見て一瞬で顔を強張らせ「……ジェーン先生…彼とは…どういう関係で…?」と尋ねた。
「ロジェせんぱ~い!こいつとこいつ!アタシが知り合いから預かってる子!」
一方のジェーンは相変わらずご機嫌で腕の中のオルフェンとレインをロジェに見せる。
「あ、ああ…、あ~、そう、そうだったんですね。なるほどなるほど…ちょっと、距離が近くありませんか?」
冷静を装いつつも、ロジェは冷や汗をかきつつ、それから全員に「…改めまして、君たちクラス・リュンヌの担任になったロジェ・ヴァニーユです。担当教科は歴史。よろしくお願いしますね」と挨拶をし、オルフェンに視線をやる。
「…そうか。ジェーン君のもとで育ったならあの強さも納得です」と呟くと、ジェーンの方を見る。
「ジェーン先生、あっちにブランデーがありましたよ」
「え!マジで!?やった~!!ロジェ先輩も飲もうぜ~!」
「いえ、私は下戸なので…」
「んじゃ、お前らまたな~!歓迎会、思う存分楽しむんだぜ~!」
ふらふらしながら、ジェーンはオルフェン達を解放すると、今度はロジェと肩を組み「ブランデーちゃ~ん!待ってろよ~!」と浮ついた調子で歩き出し、ロジェは「ちょ、当たっ…ち、ちちちち近くありませんかジェーン君!?」と真っ赤な顔で彼女とともに去っていった。
レベッカはこそこそとレインに近寄ると、「あの人たち、付き合ってるの?」と聞き、レインは首を横に振りつつ「しらない」と返した。
「やあやあ新入生諸君!ネージュソリドールへようこそ!」
吹奏楽クラブの演奏が響く中、六人が料理をつまみつつ談笑していると、二人組の生徒が話しかけてきた。
利発そうなボブヘアーの背の高い女子生徒と、ウエーブがかったロングヘアーの丸メガネの女子生徒のコンビで、二人とも胸元に三日月型のバッジをつけている。
芝居がかった口調のボブヘアーの生徒は「うむ?そこの君は主席君ではないか!」とヴァレリーを見、ウエーブヘアの生徒も「騎士団長の息子さんって聞いたなの。すごいなの~」とおっとりした口調で彼を褒める。
「あ、えっと。ありがとうございます…」
ヴァレリーは照れつつもぶっきらぼうに頭を下げ、それを見てレベッカがまた面白そうににやにやと笑う。
「ああ、自己紹介が遅れたね。私は三年生のアマリア・ジョクス。演劇クラブに所属しているよ。彼女は私の親友で、同じく三年生のダリア・クローディアスだ」
「よろしくなの~」
「よ、よろしくお願いします…!」
オルフェン達は緊張しながら頭を下げ、アマリア達に各々自己紹介をする。
二人は新入生の自己紹介を笑顔を浮かべつつ、時折「おお、ベルナール子爵の!」「わあ、ご両親がお医者さんなの?すごいなの~」と相槌を打ってくれた。
「見たところ皆クラス・リュンヌのようだね。ということは私たちの後輩だ!分からないことがあれば何でも聞いておくれ!」
アマリアが言うと、「そういえば…」とダリアがヴァレリーの方を見る。
「すっかり忘れてたけれど、さっき騎士団長さんを見たの。きっとまだ近くにおられるはずなの~」
「えっ?何でここに?」
驚くヴァレリーに説明しようとダリアが口を開きかけるが、その前に彼の背後を見て、指を指した。
「ほら、あそこ。きっと護衛なの」
一同がダリアの指さす方を見る。
そこには、王国騎士団現騎士団長ジャン・マードックと、女生徒たちと談笑するフェルディナント王子の姿があった。
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