第45話 怒り

「じゃあー、迎撃はよろしくねー」

「貴女の活躍は、ここから見ているから。彼女と一緒にね」



 魔法少女の一人の視線が、私の背後に向けられる。その行動とこれまでの会話の流れから嫌な予感がし、それが間違いであることを信じて私は自分の後方を確認した。



 そこには一体いつからいたのか。私をここまで連れて来た魔法少女と、彼女の腕の中で厳重に拘束された一人の少女――アリサちゃんの姿があった。



 既に『アクニンダン』の幹部としての力を失ってしまったアリサちゃんは、普通の女の子に過ぎない。そんな彼女に不釣り合いな程の戒めを受けて、言葉を交わせないように布による猿轡が小さな顔半分を覆っている。

 涙目で私に助けを求めて、言葉にならないうめき声を上げていた。



(……始めから選択肢なんて、私にはなかったんだ)



 さっきのやり取りでも出たが、アリサちゃんが人質に取られている時点で私に拒否権は存在していなかった。

 それの悟ると同時に、アリサちゃんに心の中で謝罪を告げる。



(……ごめんね、アリサちゃん。今度こそは守ってみせると約束したのに)



 私は自分の無力感に苛まれながら、その場を後にした。地上で、『魔法庁』の本部を襲撃している『アクニンダン』からの刺客を迎え撃つ為に。



 その人物も助けたいと思いつつも、つい先ほど見せられたばかりのアリサちゃんの姿が想起されて、二度と折れないと誓ったはずの心にヒビが入る音が聞こえた気がした。



 嫌がらせか、私の魔法を警戒しての行動かは不明だが、追加で付けられた魔力制限の首輪を片手で触りながら、変身を済ませ――本来の半分にも満たない力しか発揮できそうにない状態で――地上に到着した。

 そこで、私が見た――見せつけられたのは、いつかの焼き直しのように、辺り一帯に散らばる瓦礫や職員さんと変身が解除された魔法少女達の体。

 そして、それを為したであろう青色に黒が混ざった配色のドレスに身を包んだ少女の姿があった。





 アマテラスを向かい入れる為の最終計画。その第一段階として、僕が考案したのはアマテラスに精神的な揺さぶりを与えることであった。



 先日のウィッチとの戦闘を見た限り、アマテラスは魔法の力だけではなく、彼女に宿る高潔な意志は初めて会った時以上に完成されたものになっている。

 それ自体は嬉しいことではあるのだが、僕の性癖に刺さるのは魔法少女達曇り顔だ。

 それを堪能できないのでは、せっかくの極上な食材も消化不良で終わってしまう。



 そんなもったいないことを僕はするつもりはない。なので、計画の始めはアマテラスを曇らせる為の布石を打つ為に、『改造人間』第六号として作り変えた元魔法少女のダイヤモンド・ダストを『魔法庁』の本部に向かわせた。



 一応『アクニンダン』の首領に就任した僕であっても、あの一件以来トップシークレット扱いになってしまったアマテラスの居場所を掴むことは不可能に近い。

 と言うか、『ボス』や他の幹部を『調整』する為に拘束してしまったせいで、『アクニンダン』で動ける者は実質僕だけ。

 元からなかった情報収集能力は、完全に無くなったと言っても良い。



 それでも、『ボス』の記憶を読み取って得た情報から、『魔法庁』の上層部――を裏から操っていた元『ボス』のお仲間の性格を考えれば、類を見ない魔法の力を覚醒させたアマテラスを自分達の手元に置こうとするはず。

 つまり、現在のアマテラスの居場所は『魔法庁』の本部だと判断して、『改造人間』第六号を送り込んだのだ。



 ――『改造人間』第六号の襲撃が開始されて、三十分が経過。そこで、ようやく待ち望んだアマテラスが姿を現した。



 『改造人間』第六号の視界を通して見れた推しの登場に、僕はテンションが上がりそうになったのだが、アマテラスの態度に違和感を抱く。



(……こういう時だったら、アマテラスは義憤の表情を浮かべながらも、ダイヤモンド・ダストを助けようとするはず……。何かあったのかな?)



 うなぎ登りになっていたテンションの上昇が緩やかになり、心配が顔を覗かせ始めた時。

 アマテラスの右腕と首に付けられた金属の輪。それらの存在を認識した瞬間、僕の推しが他の誰かに唾をつけられたような気がして、僕の思考に怒りが混じった。

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