終章 2025/1/1 →

最終話 「だから、今ここで俺はあなたに言うよ」

 二〇二四年十二月三十一日午後二十三時五十分頃。俺はお寺の近くで美玲を待っている。前に彼女から黒ずくめの格好を何とかしろと言われていたので、俺は白いコートをこの数日間で買い、それを着ていた。待ち合わせの時間にはなっている。だが、この辺りは人で賑わっていて美玲がどこにいるのかを見つけるのが難しい。俺はできる限り探した。


 探した末にようやく見覚えのある長い黒髪が見えた。間違いない、美玲である。彼女は振袖姿だった。俺は彼女のその姿を見てとても綺麗だと思った。彼女の方も俺に気がついたようでこちら側に近づいてきた。


「お待たせ」

 彼女が言う。

「じゃあ、鐘が鳴るのを待つか」

 俺たちは除夜の鐘が鳴るのを待つことにしていた。それともう一つ、俺は美玲にあの言葉を言わなきゃならない。二人で鐘が鳴るのを待っていると美玲の方が話しかけてきた。


「その白いコート、良いね」

 俺は美玲の方を見た。彼女は鐘の方を向いている。

「ああ、良いだろう。この前、黒ずくめの格好を何とかしろってあなたに言われたからさ。たまにはこういうのも良いかと思って」

 美玲は俺の方を向いた。


「その白いコート、いつも黒いから見慣れないけど、良い感じよ。黒いのも似合ってるけど、白いのも似合ってる」

「ありがとう。美玲のその振袖も似合ってる」

「ありがとう。着てきた甲斐があったわ」


 俺たちはまた鐘の方を向いた。俺はようやく、あの言葉を言う決心をする。

「美玲」

 俺は美玲の方に再び向いた。彼女も俺の方へと振り向く

「何?」


「あのさ、俺は今まで、あなたに対して大事なことを自分の方から一度も言っていなかった。それはなぜかというと、俺は大事だと思うものとちゃんと向き合うのが怖かった。失ってしまうんじゃないかと思って怯えていた。でも、この一か月半で考えが変わった。気づいてんだ、大事な人に大事だってちゃんと言わなきゃいけないって。だから、今ここで俺はあなたに言うよ」

「……」

 美玲は、待ってくれた。俺は一回深呼吸をして思い切って声に出した。


「美玲、あなたのことが大好きです。だから、もう一度付き合ってください」

 俺と美玲は目を合わせていた。やや間があって美玲はこう答えた。

「はい。ぜひ、よろしくお願いします」


 俺は美玲のことを抱きしめた。その直後、除夜の鐘が鳴り始めた。二〇二四年が終わり、二〇二五年が始まった。俺たちの未来がこの先どうなるのか、俺たちにはわからない。わからないなりに俺たちは前を向いて進んでいく、時間を、人生を、未来を。


 俺たちの全く新しい時間線が幕を開けた。



(終)

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タイムラインに乗って 〜だから、今ここで俺はあなたに好きと言う〜 石嶋一文 @Yu_Ishizima

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