第39話 「ご乗車ありがとうございました」
ときの駅へと向かう道中で俺は未来の自分たちへ思いを馳せた。この未来の俺たちが、この先どんな人生を歩むのか、今の俺には全くわからない。きっとこの先、良いことも悪いことも沢山あるのだと思う。俺の未来は既に分岐して、きっとこの未来とは全く異なる人生を辿っていくことになるのだと思う。そうだからこそ、俺は、この未来の自分たちの人生がより良い人生になることを願ってやまない。
歩きながら空を見上げる。空には数多の星々が輝いていた。
ゆっくりと時間をかけて俺はときの駅に着いた。券売機の前に立って、切符を発券しようとする。行き先は二〇二四年十二月二十四日午後十七時。発券ボタンを押すと切符が出てきた。それを手に取って改札の方へと向かう。改札には車掌が立っていた。車掌は言う。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
俺は切符を渡した。車掌は切符を切るとそれを差し出した。
「五分後に一番線に参ります特急列車をお待ちください」
「わかりました」
俺は切符を受け取った。
俺はホームの方へと出た。これが最後の乗車になるのだろう。そう思って俺は、目の前に広がる未来の景色を眺めた。未来もこれで見納めである。程なくしてアナウンスが流れ始めた。
「まもなく、一番線に特急二〇二四年十二月二十五日午後十七時行きが参ります。黄色い線の内側までお下がりください」
向こうの方から特急列車が走ってきた。ホームに接近して、所定の位置で停車する。ドアが開いた。俺は列車に乗り込んだ。発車メロディーが流れる。
「一番線、ドアが閉まります。ご注意ください」
空いている窓際の席に座った直後ドアが閉められた。少しだけ車体が揺れて発車する。さよなら未来。列車は速度を上げて俺たちの時間に向けて走る。車窓からは相変わらず昼と夜が目まぐるしく進んでいく奇妙な景色が見えた。俺はその様子を目に焼き付けようと車窓の方をずっと見ていた。
しばらくの間、走り続けているうちに車内アナウンスが流れた。
「ご乗車ありがとうございました。まもなく、終点二〇二四年十二月二十五日午後十七時。二〇二四年十二月二十五日午後十七時。お出口は左側です。この列車は車庫へと入る回送列車となります。引き続きのご乗車はできませんので、ご注意ください」
俺の、俺たちの時を超えた騒動がようやく終わろうとしている。俺は席を立ち上がってドアの方へと向かった。列車は減速を始めていく。やがて駅のホームがドアの窓から見えてきた。列車がゆっくりとホームに入り、最終的に停車した。ドアが開く。俺は列車を降りた。ホームに立って列車の方へと振り返る。発車メロディーが流れる。
「一番線、ドアが閉まります。ご注意ください」
列車のドアが閉められた。列車はゆっくりと発車した。
「ありがとうな」
俺は誰に向けてでもなくこう呟いた。列車が遠くへと走り去っていく。俺はその車体が見えなくなるまで、列車を見送った。
改札に向かうと車掌が立っていた。車掌は俺の目を見てこう言った。
「時を超えた長旅お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
「ようやく全てに決着が着きましたね。私としてもとても嬉しく思います」
「はい。でも、俺はまだ美玲に大事なことが言えていません」
「そうですね。ですが、時間鉄道が手伝える問題は全て解決しました。私たちの出番はここまでです」
「ええ」
「あなた方の時間は既に未知の未来へと向かいはじめました。私もまだ何も知らない未来です。ここから先は、あなた方自身の手で未来を作っていってください」
車掌の表情は明るかった。
「わかりました」
俺は切符を渡そうとした。すると車掌はそれを受け取って返してくれた。
「この切符は記念に持っておいてください。差し上げます」
返してもらった切符を見る。
「ありがとうございます」
俺はそれを大事にポケットに仕舞い込んだ。そうすると車掌はこう言った。
「もし、また時間を巡る何かがあった時は、ぜひこの駅を探してみてください。またのご利用をお待ちしております」
俺は苦笑しながら、こう返した。
「わかりました」
すると車掌は最後の最後でこう言った。
「どうか、あなた方のこれからの未来が良いものでありますように」
車掌の目を見る。俺は頷いてからお礼を言った。
「ありがとうございます」
改札を通って駅舎の外へと出た。駅舎の方を振り返ると車掌が俺の方を見て立っていた。俺は車掌に向かって一礼をした。車掌もそれに応えるように一礼した。俺は体の向きを変えて家の方へと歩き出した。少し歩いたところで、駅の方を振り返る。すると、もうときの駅はそこには無かった。あるのはだだっ広い空き地だけだった。
俺は家までの帰り道であちこちを立ち寄ることにした。
まずは未来の美玲と出会った並木道。夜の並木道は相変わらず暗かった。また今度、明るい時間帯に来ようと思った。
次に大学。キャンパス内は年末休業で入れなかったので正門前を通り過ぎた。来年もきっとこの大学で色々なことがあるのだろう。
最後に、昼間に来た広場へと再び向かった。そこではクリスマスツリーが電飾によって煌びやかに輝いていた。俺はしばらくそれを眺め続けた。
しばらく歩いた後に住宅街へと入った。もうすぐ自宅へと到着しようとしている。一旦立ち止まって星空を眺める。空の様子は未来と大した変わらなかったが、星が綺麗に見えていた。
俺は、この先の人生で迷ったり弱気になったりすることが一体何回あるのだろうか。それでも今は、きっと何とかなると思っている。俺は過去と未来を行き来したことで、堂々と生きていくための勇気を手に入れられたような気がする。まずは、大晦日の夜に美玲に大事なことをちゃんと伝えるところから始めよう。俺はまた歩き出した。
自宅の玄関前までたどり着いた。俺は鍵を取り出して、ドアの鍵を開けた。それからドアを開けて家の中へと入った。
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