第10章 2024/12/24 → 2028/12/25
第37話 「ようやく見つかったんです」
俺はときの駅を目指して全速力で走る。葉が完全に落ちてしまった、あの並木道を駆け抜けて駅へ真っ直ぐ進んでいく。俺は未来の俺に言わなきゃいけないことがある。だから、走る。
ときの駅に着くと車掌が改札前に立っていた。俺は息を切らしながら車掌のそばまで近づいた。
「すみません。お願いします……」
美玲から託された切符を見せた。車掌はそれを見るとこう言った。
「お待ちしておりました。ようやく、未来の自分と向き合えそうになったのですね」
息を整えながら俺は答える。
「その通りです。ようやく見つかったんです。未来の俺に言っておきたい言葉が」
車掌は微笑んだ。
「それは良かった。ところで、未来のあなたの居場所に心当たりはあるんですか?」
「根拠はないですが、多分ここにいるっていう当てはあります」
車掌は再び切符を見つめた。それからその切符を切った。切られた切符が差し出される。
「五分後に二番線に参ります特急列車をお待ちください。これがきっとあなたの最後の時間移動になるのでしょう」
「はい。これで終わらせます。俺の、俺たちの問題を」
俺は切符を受け取った。時刻は午後十七時前だった。
ホームに移動して列車を待つ。車掌も言っていたが、俺にはこれが最後の時間移動になるという予感がある。これで一連の問題に決着がつくはずだ。終わらせるんだ、絶対に。アナウンスが流れる。
「まもなく、二番線に特急二〇二八年十二月二十五日午後十二時行きが参ります。黄色い線の内側までお下がりください」
すぐに特急列車がやってきて停車した。ドアが開く。俺はすぐに乗った。直後、発車メロディーが流れる。
「二番線、ドアが閉まります。ご注意ください」
ドアが閉まった。車両が揺れて走り出した。空いている席に座る。車窓の方を見ると昼と夜が目まぐるしく進んでいく。俺はその景色を眺めた。
しばらくして、車内アナウンスが流れた。
「まもなく、二〇二八年十二月二十五日午後十二時。二〇二八年十二月二十五日午後十二時。お出口は右側です」
俺は立ち上がってドアの方へと向かった。ドアの前で立ち止まって深呼吸をする。大丈夫、きっと大丈夫。列車が停車した。ドアが開く。俺は列車を降りた。
発車メロディーが流れる。
「二番線、ドアが閉まります。ご注意ください」
振り向くと列車のドアが閉まった。列車はどこかの時間へと向けて走り去っていった。
改札に向かうと車掌が待っていた。切符を渡すと車掌はこう言った。
「未来の健太さんの居場所近くまで駅を移動してあります。時間線は前回と同じ時間線で、未来のあなたは今のあなたと接触したことを覚えています。それと、未来のあなたは午後十五時頃にそこのアウトレットモールに現れます」
車掌は遠くの方に手を向けた。その手の先には大きなアウトレットモールが見えている。車掌はいつもは教えてくれないことまで教えてくれた。
「助言、ありがとうございます。それって、車掌が言っていいことなんですか?」
「今回限りの特別サービスです。いつもはしませんよ」
「……本当にありがとうございます」
「では、いってらっしゃいませ」
車掌は一礼した。俺も一礼をしてから、目的地まで歩き出した。駅舎内の時計に目を一瞬だけ向けると、時刻は午後十二時五分くらいだった。
少し歩いたところで目的地のアウトレットモールに到着した。入口近くに有った時計を見ると時刻は午後十二時十五分。二〇二三年十二月二十五日、俺と美玲はこの場所でクリスマスデートをした。楽しいクリスマスデートだった。
館内はクリスマスだからか、かなり賑わっていた。お客さんたちが楽しそうな表情でどこかへ向けて歩いている。
俺は、この日この場所に未来の俺がやってくるのではないかという予感があった。明確な根拠はなかった。でも、もし未来の俺がまだ美玲との思い出を大事にしているとしたら、ここに来るような気がした。
車掌の話によれば、その予想は合っていたようだった。時刻は午後十二時半。俺は館内を回って未来の俺を待つ出すことにした。
待っている俺は以前行った時に有ったお店はどうなっているのかを見たりした。俺と美玲がクリスマスデートに行った大体のお店は二〇二八年でも残っていた。いくらか無くなったお店もあった。
俺は目の前に広がるアウトレットモールの様子に五年という時の流れを感じた。俺たちが生きていくであろう四年後はこんな様子なのかという感慨があった。それと同時に、この時間よりももっと先の未来はどうなっているのだろうかという期待半分不安半分な気持ちになった。
時間は過ぎていってあっという間に二時間近くが経った。俺は未来の俺が来るのを待つ時間の最後にフードコート内のラーメン店が未来でも残っているのかを見た。そこは去年のデートで美玲と昼食を食べたラーメン店だった。そのラーメン店は幸い残っているようだった。メニューはいくらか変わっているようだったが、俺たちが食べた定番のメニューの醤油ラーメンは残っていた。するとお腹が鳴った。そこで俺はここでラーメンを食べることにした。
列に並んで醬油ラーメンを注文する。どれくらいかかるだろうかと心配したが幸い十分程で頼んだ物が出てきた。空いている席に座ってラーメンを置く。それから割り箸を割る。
「いただきます」
ラーメンを食べる。それは俺から見て去年のクリスマスデートで食べた物と同じ思い出の味だった。
ラーメンを食べ終わってフードコート館内の時計を見ると時刻は午後十四時五十五分になっていた。俺はラーメンの杯を店に返してフードコートを出た。未来の俺が現れそうな場所に移動する。ひとまず俺はクリスマスツリーの近くにあるベンチの一つに座った。
少し待っていると十五時になったことを告げる館内アナウンスが流れた。すると、向かい側の方に見覚えのある黒いコートを着た男性が歩いているのが見えた。それは間違いなく未来の俺だった。未来の俺は向かい側に有ったベンチに腰掛けた。それからツリーを眺め始めた。
俺はベンチから立ち上がって未来の俺の目の前まで歩いて近寄った。向こうが気づいて目が合う。未来の俺は俺を見て驚いた。それからすぐに俺は何も言わずに未来の俺の隣に座った。
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