第27話 「もう少し勇気を出しなさいね」

「それで、俺に過去の自分を止めさせるために美玲から聞いていた二〇二四年に向かったと」

 俺がこう聞くと未来の美玲は頷いた。


「そうよ。車掌に私が立てた計画を話すとそれを受け入れてくれたわ。車掌は車掌の方で準備を始めた。その足で私は二〇二四年に時間移動した。着いた先で私は三、四時間くらい待った。すると待っている間に当時の紗奈さんが現れてね。声をかけられてしまった……」


「それで、彼女に話してしまったんですか? 未来で起きたことを」

 美玲は未来の自分に恐る恐る聞いた。未来の彼女は申し訳なさそうにこう答えた。


「……そうよ。当時の紗奈さんから、過去の私が健太を振ったと聞いたわ。彼女、最初は当時の私と勘違いしていたみたいで、色々なことを聞かれたわ。その勢いで、打ち明けてしまった。未来で起きたことと過去の私から聞いていた現状を」


「そうだったんですね……」

「紗奈さん、未来の話を聞いてかなり驚いていたわ。それに加えて当時の樹くんが未来を覗いてきたことにショックを受けたみたい。そんなに自分との関係に自信が無かったのかって。その後、当時の紗奈さんはどうしているの?」


「……紗奈さんはその後で急に実家に帰ってしまって。二日後に俺と美玲と樹の三人で会いに行って話を聞いたら、あなたに話したことと同じようなことを言っていました。それから樹とは二人で話をして、どうやら少しの間距離を置くことにしたみたいです……」


「そう。それはとても申し訳ないことをしてしまったわね……」


 未来の美玲は悲しそうだった。俺は何も言えなかった。美玲もその様だった。それから未来の美玲は話を再開した。


「当時の紗奈さんと別れてから、ようやく歩いている君を見つけた。かなり落ち込んでいるみたいだった。私も過去の私が健太を振ったと聞いてかなり弱っていた。今ここでどうにかして過去の健太に時間鉄道に乗ってもらわないといけないと思って私は走り出してわざと君にぶつかった。それからそのタイミングで過去の私が行きそうな日への切符を一枚落とした。健太にときの駅に向かってもらうためにすぐに走り出した。それからは君たちの方がよくわかっている通りよ。健太がたまたま着ていたコートのことに気づいて追いかけてくれて助かったわ。あれでそのまま放っておかれてしまったらどうしようって思ってた」


「そういうことだったんですね」

 俺は相槌を打った。するとそこで美玲から質問が上がった。

「大体のことはわかりました。それで一つ聞いてもいいですか? どうして、私が健太と出会った日に向かうってわかったんですか? 私が行きそうな日は他にも思いついたはずなのに」


「それはね、まず私は、過去の私が目的のために向かいそうな日時への切符は全て事前に発券していたの。それに加えてもし健太に渡した切符が過去の私が行った日付と違かった場合は、車掌の判断で過去の私が向かった方に向かわせるように事前に頼んでいたわ。まさか、見事に渡した切符の日付と過去の私が向かった日付が一致するとは思わなかったわ。それに健太に切符を渡した後は二〇二四年のときの駅の中に隠れながら車掌から君たちの状況を逐一聞いていたわ」


「なるほど……」

 美玲は納得自体はしたようだった。俺は話の続きを切り出す。

「その後、ひとまず大丈夫だろうとなったタイミングであなたはこの時間に戻ってきたと」


「そうなるわね。ちょうど入れ違いになったみたいだったけど、そのタイミングで私はこの時間に戻ってきたわ。それからは歩いてここまで戻ってきて、そうしたら君たちが目の前に居た」


 未来の美玲はコップの中の飲み物を一口飲んだ。

「多分、これが私が知っている限りの全てよ」

「ありがとうございます」


 俺は少しの間頭を下げて礼を言った。頭を上げると未来の美玲は優しげな表情を浮かべていた。それと同時に悲しそうでもあった。


 程なくして未来の美玲が話しかけてきた。

「ねえ、二人に聞きたいことがあるのだけど、良いかな?」

 俺と美玲は目を合わせる。それから二人同時に頷いた。

「どうぞ」


「じゃあ、遠慮なく。結局二人は別れたままなの?」

 俺は返答に困った。その通りと言えばそうだが、俺から言う気にはなれなかった。横にいる美玲の方を見ると悩ましげにしていた。先に答えたのは美玲だった。


「そうです。私が振った後はそのままです。でも、友達としては仲直りしようということになりました」

「それは、どうして?」


「どうして良いかわからないんです。このままで私たち本当に良いのかなって思って……」

 美玲は言い切るとかなり悩んでいる表情をしている。一方で未来の美玲は過去の自分を見守る様な目をしていた。


「そう。じゃあ、あなたもちゃんと自分と向き合ってみなさい。そうしたら自ずと答えは出るだろうから」


 美玲は未来の自分を見た。

「……はい」


 美玲の返事を聞いて未来の彼女は話を続けた。


「私の良いところは一度やると決めた事は全力でやり切ろうとするところだけど。たまに迷うと何にも決断できなくなるところは自分でもダメだなって思う。だから、ちゃんと向き合って、悩んで、他の人に頼っても良いから、最後は決断してね。それと健太」


 名前を呼ばれて俺は返事をした。

「はい」


「君の肝心なことが言えない臆病さはもう少しなんとかして欲しいけど、でも人のために頑張れるところを私はとても好きよ。だから私は未来の君に戻ってきて欲しいと思っているわ。もし、この後でばったり彼に会ったりしたらこう言っておいてちょうだいね」


「……わかりました」

 俺はこう答えた。それと同時に未来の俺を探し出して、未来の美玲の元に連れ戻さなくてはいけないと思った。


 俺たちは未来の家を出ることにした。時刻は午後二十時前である。玄関で靴を履いていると未来の美玲からこんなことを言われた。

「健太、今の君ももう少し勇気を出しなさいね」


 俺はこの言葉の意図を捉えきれなかった。それでも、なんとなく頷いて「はい」と答えた。玄関を出るて扉を閉める直前、未来の美玲は手を振ってくれた。俺と美玲はお辞儀をして扉を閉めた。



 マンションを出た俺たちは一旦ときの駅へと戻ることにした。その途中で美玲は俺に話しかけてきた。

「健太はこれからどうするつもり?」

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