第24話 「きっと、わざとなんだろうね」

「急にどうしてそうなるんだ?」

 俺は咄嗟に突っ込んだ。だが、冷静になって考えるとすっきりしないこの現状を良くするには、確かに未来へと向かった方が良いのかもしれない。俺はこう続けた。

「……それでもまあ、納得はできる。現状を何とかするには未来を何とかした方が良いってことは俺もわかってる」


 美玲は頷く。

「私は未来の事を聞いてすっきりしない気持ちを何とかしたくて過去を変えようとした。でも、それはどうかしてたって今は思う。まるで過去に八つ当たりしているみたいだった。だから、今度は未来に行ってちゃんと未来の私たちを何とかする。うん。そうすることにしよう」


 彼女は決めたようだ。彼女は決意をした目をしている。こうなったら、彼女を止めることはそう簡単にできない。

「改めて言うけど、健太、君もついて来なさい。今度はちゃんと二人で行くわよ」


 俺は頷いた。

「まあ、こうなったらついて行くよ。この問題が最終的に行き着く先は俺自身の問題だからな」

「ありがとう。まずは、未来の私の家に向かうわよ。色々と聞かなきゃいけないことがあるわ」

「ああ、俺も未来のあなたに聞きたいことは山ほどある」


「じゃあ、今からときの駅に向かうわよ」

「早速か。展開が早いな」

「ええ、善は急げよ」

 美玲が立ち上がる。俺もそれに合わせて立ち上がった。

「オッケー」

 俺たちはそれぞれの昼食の杯を返してから食堂を出て、大学からも出た。大学を出る直前に時計を見ると時刻は午後十三時半くらいだった。


 ときの駅がある辺りまで俺たちは歩いて向かっている。その道中で俺たちは二日前に俺が未来の美玲と会った辺りに着いた。俺は一旦立ち止まって景色を見る。

「どうしたの?」


 前を歩く美玲が立ち止まってこちらを見てきた。

「いや、ここなんだ。未来のあなたと会ったのが。二日前の夜中にこの辺りを歩いていたらぶつかった。そうしたら未来のあなたは時の切符を落としたままでどこかへと去って行った」


 俺は頭上を見上げた。木々が二日前よりも紅葉して葉が落ち始めている。冬が近づいている。美玲も俺につられてか同じように木々を眺めている。

「きっと、わざとなんだろうね、未来の私が切符を落としたのは。君に拾わせるために」


「だろうな。その後、俺が過去から帰ってきた時にちょうど入れ違いで未来のあなたは列車に乗っていった。多分、それで未来に帰ったんだと思う」

「そういうことね」

 美玲の方に顔を向けると美玲は何かを考えているようだった。それからすぐに俺の方を向いた。


「健太、急に振ってしまってごめんね」

「どうしたんだ、また急に」

「突然あんな事をしたから謝りたくなったの。でも、あなたの臆病なところはやっぱり許せない」

「……そうか」


「私は、君との関係をどうしたいかまだ判断がつかない。また、恋人として付き合うかどうか悩んでる。でも、友人として一応の仲直りはしておきたい」

 彼女は俺に向かって頭を下げた。俺も頭を下げる。

「こちらこそ、あなたの不満に気づけなくてすまなかったと思う。俺としても、あなたとは友人としてひとまず仲直りがしたい」


 俺たちは同時に頭を上げた。

「じゃあ、よろしく」

 彼女は微笑んでいる。俺も少しは笑っていたと思う。

「ああ、こちらこそ」


 俺たちはそれからときの駅に到着した。幸い、ときの駅はまだ同じ場所に存在していた。発券機で未来行きの切符を発券する。行き先は二〇二八年十二月二十四日午後十八時。美玲によると美玲が最初に向かった未来が二〇二八年十二月二十四日の午後十六時だったという。未来の美玲が時間鉄道に乗って二〇二四年十一月十一日の夜に時間移動したのは十六時以降ということになるからだという。未来の自分に事情を聞くにはその日が良いだろうということだった。


 切符を発券し俺たちは車掌を探した。車掌はすぐに現れた。

「未来へ行かれるのですね」

 車掌はこう言った。俺たちは切符を渡す。美玲が返事をした。

「そうです。お願いします」


「わかりました。念のためお聞きしますが、時間線は以前美玲さんが行った分岐前の時間線でよろしいのですよね? 美玲さんが健太さんに別れを告げた時点で時間線は分岐を始めていますので、あなた方の未来は違う未来へ進もうとしていますので」

「ええ。もとの時間線へ向かうということでお願いします」

 美玲が頷いた。 車掌はそれから俺たちの切符を切って返してくれた。


「わかりました。では二番線のホームでお待ちください。五分後に特急列車が参ります」

 駅の時計を見ると時刻は午後十三時五十五分だった。


 俺と美玲は二番線のホームで列車が来るのを待っている。相変わらず、この駅のホームにいるのは俺と美玲の二人だけである。待っている間、俺は未来の美玲とどう顔を合わせればいいのかがわからなくなっていた。俺の様子を見て美玲が話しかけてきた。

「どうしたの? 浮かない顔してさ」


「いや、いざ未来に行って未来のあなたと会うとなると、未来のあなたにどう顔を合わせればいいのかがわからなくなった。だって、未来の俺は失踪している訳だしさ。会うのに少しためらいがある」


 美玲は少し考えるとこう返事をした。

「あんまり気負わずに会うでいいんじゃない? きっと未来の私は過去の君と会うのを気にしてないよ。失踪したのはあくまで未来の君な訳だし。未来の君と今の君とは別だって思っているわよきっと」

 美玲の目線が俺に向けられている。彼女の目は優しかった。

「うん、わかった」


 俺はそれで納得した。こんなことで悩んでないでまずは、未来の彼女に直接会わなくては。頬を軽く叩いて気合を入れる。

「よし、覚悟はできた」


 その直後、ホームにアナウンスが流れだした。

「まもなく、二番線に特急二〇二八年十二月二十四日午後十八時行きが参ります。黄色い線の内側までお下がりください」

 すぐに特急列車がやって来て俺たちの前で停車した。ドアが開く。俺はもう一度頬を軽く叩いた。

「行こう未来へ」

 美玲は軽く屈伸をした。

「ええ。行きましょう」


 俺たちは車内へと乗り込んだ。すぐに発射メロディーが流れる。

「二番線、ドアが閉まります。ご注意ください」

 ドアが閉まった。車内が揺れる。列車は四年後の未来に向けて発車した。

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