第8話

「下がれ」


 俺は後ろにいるアスモデウスにそう短く告げる。

 彼女は悔しそうに唇を噛み締めながら、去っていく。彼女の背中を見送ってから正面に目線を戻すと――。


 バシッ。


「油断も隙もあったものではないな」


 俺がアスモデウスに視線を向けた僅かな刹那に槍を投擲してきたわけだ。仮面をつけているから、視線を読まれることはないと思っていたが……こいつなかなかできるな。


「やっぱり先生も中々やるみたいだけど……楽しませてよねッ!」


 そう言いながら、メスオスガキは突っ込んでくる。

 俺の手からは槍が光となって消え、メスオスガキの手に光と共に再出現する。


 メスオスガキは、俺の目の前まで迫ると一歩を踏み込み、強烈な突きを頭部に目掛けて放ってくる。

 こいつ……まさか俺の仮面を破壊しようとしたのか?


「惜しかったなぁ~!」


 俺達の模擬戦を周囲の人は興味深そうに眺めている。

 もちろんその中には、最愛の妹も見ているわけで……。

 この仮面の耐久値も分からないし、被弾は避けるしかない。


「まだまだいくよ~!」


 そう言って今度は高速の突きを何度も繰り返す。

 迫りくる穂先をしっかりと見つめ、躱していく。

 やはり……口だけというわけではなく、あの態度には裏付けされた実力があるってことか。この若さにしては突出しているのは認めざるを得ないな。


「ふふっ。僕の連撃に驚いて避けるだけで精一杯みたいだね?」

「あぁ……実際驚いてるよ」

「ッ!?」


 メスオスガキの表情が僅かに歪む。

 シンプルに感想を伝えたつもりなんだけどね……ご自慢の連撃を避けられてどこか焦っていたのだろう。こっちの隙を突こうと挑発したみたいだけど……。


 俺は後ろに大きく跳躍して距離を取る。


「あれれ? 距離を取っても良いの? そっちは拳でこっちは槍だよ?」


 リーチで言えば、確かに槍のほうが有利だ。


「構わんさ。さて、始めるとするか」

「なにを――」


 少しばかり前傾気味になりながら、足に力を入れ地を縮める。

 槍の間合いの更に内側。目の前に迫った俺にメスオスガキは驚いた表情を浮かべる。


「これで終わりだ」


 拳を振り上げる。


 バシッ。


 もちろん力を加減してのことだったが、拳に衝撃が加えられ照準がズレた。

 見れば、メスオスガキは必至の表情で膝で蹴り上げ俺の拳を逸らした。そして槍を横に振るう。俺は再度後ろに跳躍する。

 驚いたな……。接近されたときの対処法も備えているとは。

 よほど親の教育が良かったのか実戦的だ。

 そして、気になることがもう一つ。


「軽口が減ったようだが?」

「うる……さいっ!」


 メスオスガキの表情には余裕がなさそうだ。

 思った以上に実力はあるし、もう少し模擬戦を行い経験値を積ませてやってもいいけど……どうしようかなと悩んでいるとメスオスガキの槍が光だす。


「……これで終わりにしてやる! ショットガンスピア!」


 メスオスガキは槍を何度も突き出す。スキルか。

 高速で繰り出された槍は本来なら届かない距離だ……だが、スキルならば可能だ。

 刺突は穂先をかたどる光となり、こちらに向かってくる。


 後ろには……最愛の妹や生徒たちもいるしな。


 地面を勢いよく殴る。

 ゴゴンッ! 訓練場の地面が震え、俺の拳を中心に土と岩が盛り上がる。まるで壁のような障壁が一瞬で出現し、メスオスガキのショットガンスピアの光の刺突をバババッと派手な音を立て受け止める。光と岩がぶつかり合い、土煙がドワッと舞い上がり、訓練場を覆う。


 土煙の中、気付かれぬように跳躍を行い上空へと躍り出る。

 生徒たちも何が起こったのか分からず戸惑っている中、二人が俺のことを見上げていた。

 一人は朝比奈さん。そして、もう一人が……最愛の妹だ。お兄ちゃん驚いたよ。まさか、今のを目で追いかけられるとは。もしかしてお兄ちゃんよりセンスある?

 だけど、そんなことを考えている間に上昇するエネルギーは失われ、ぐんぐんと落下していく。

 気配を察知したのか、メスオスガキは上空を見上げ俺と目線が交差する。


 上空からの強襲に焦ったのか、槍を投擲してくる。


 それを待っていた。


 空中で体勢を変え、迫って来た穂先を踏みしめる。槍を土台に距離を一気に詰める。

 再出現するには多少のラグがあるみたいだしな。

 拳を振り上げ、衝突の瞬間に振りぬく。


 着地した瞬間、派手な土煙が舞い衝撃音が広がる。

 メスオスガキは仰向けに倒れ、俺は覆いかぶさるように片膝たちだ。

 そして、俺の拳は……メスオスガキの顔スレスレで横をぶち抜いていた。

 流石に顔面を落下ダメージ込みの威力で殴るわけにもいかないしね。


「我輩には届かなかったが……見事だったぞ」


 実際実力的には年代で頭一つ抜けていると思う。

 この結果を機に、より精進して欲しいものだ。


「か」

「か?」


 まさか、負けたけどまだ負け惜しみを言うつもりだろうか……?

 何を言うのかと待っていると……。


「かっこいい……」

「は?」


 メスオスガキは頬を赤らめながらそう言った。

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ダンジョン攻略者学校の仮面教師 灰紡流 @highvall

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