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「え? まだ食べていいんだよ」

「これだけで、いい。おなかいっぱい」

「そんな、もっといっぱい食べなきゃ……」


 ずっと食べてないのだから、腹は減っていたはずだが。

 いや、食べていなかったからこそこれ以上は体が受け付けないのだろう。

 アイの体は、長い間、まともな食事を摂ってこなかったかのように痩せている。足りていない栄養を摂取させる必要があるが、急に摂らせてはむしろ体を壊してしまうかもしれない。徐々に慣らしてかなければいけないようだ。


「わかった。食べられるだけでいいよ。無理に食べるのも大変だしね」


 果物の山から実を取って、マンゴーに似た形の物を皮ごと音を立てて齧る。こちらも味はマンゴーとまったく違っていたが、甘くて美味しい果実だった。


「でもね、少しずつでもいいからたくさん食べるようにしなくちゃ。今のうちにいっぱい食べておかないと、大きくなれないから」

「大きく?」

「そうだよ。いっぱい食べたらいっぱい大きくなれるんだから」

「コトコよりも?」

「当たり前だよ。アイは男の子だからね、そのうちにょきにょき背が伸びて、わたしよりもずっと大きくなるよ」


 ね、と問いかけると、アイの緑色の瞳が徐々に橙に変わっていった。

 おや、と思っていると、アイの表情も、瞳と同じくふわりと変わっていく。


「がんばる」


 白い陶器のような肌に、小さく弧を描いた薄桃の唇と、琥珀の瞳が綺麗に映えた。


(魔法みたいだ)


 この色は、どのような感情を表しているのだろうか。

 楽しいという気持ちであるのなら、これから何度だって浮かべさせてあげたい。


「楽しみにしてるね。アイが大きくなるの」

「うん。アイ、いっぱい食べる。コトコよりも、大きくなる」

「えへへ、そっか」


 満面の笑みとはいかないが、それでも確かに笑ったアイの顔を見ながら、琴子は自分の胸にあたたかみが広がるのを感じていた。


「アイが大きくなったら、どんなふうになるのかなあ」


 アイは、とても可愛い子だ。外見も中身も。素直で無垢で愛らしく、まるで天使のようだとさえ思う。

 いつかこの子が大人になったら、一体どのような人に育つのだろう。

 陽を知らないような白い肌と、同じく雲から紡いだような真白の髪。そして虹の瞳。

 この美しい外見が、きっと大人になっても変わらないように、心も今と変わらずに育ってくれれば。

 そのためには、どうしたらいいのだろう。

 この場所で、どう生きていけばいいのだろう。

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