30. 少年たちの事件簿 II
第二王子はアテナイ国から贈られた箱の中の、もうひとつの調書を手にとってみた。こちらの小冊子のほうが、ハミル達の調書よりも厚い。
「ジャミルとスピロサ‐寝台崩壊事件」
過激なタイトルがつけられている。
こちらのほうはほしいと頼んだわけではなかったから、事務の手違いかなにかで一緒に送られてきてしまったのだろうと王子は思っていた。よくあることだから、こちらの調書は読んだことがなかった。
しかし「ジャミル」という名前は、ハミルと玄関の会話の中に何度も出てきた。彼は玄関が慕っている飴細工で、今は西のほうにいるらしい。
そのジャミルという少年が、何をしたというのだろうか。
第二王子はページをめくった。
その事件も、ハミルの事件と同じ日に起きている。
記載にはこう書かれている。
*
ジャミルは何も語ろうとしない。
*
白いフクロウの証言
私が木の上でうつにうつらしていた午後、変な音が聞こえたんだ。ベッドがきしむような音だった。こんな時刻に、誰が何をやっているのだろうと思っていたら、突然家具が壊れたような大きな音が聞こえたので、飛んで行ったんだ。
その家はスピロナという女の家だった。家の前に着くと、上半身裸の少年が戸をあけて、シャツを片手に飛び出してきたところだった。そりゃ、驚いたさ。
ドアの向こうに半裸の女が見えて、「ジャミル」って名前を呼んでいた。
少年の唇は切れて血が流れ、頬と顎に血がついていたから、何があったかわかるじゃないですか。だから風紀ルールに違反している行為だと思って、逮捕したんだ。
*
スピロナについて
6ヶ月前に島に戻ってきたバツイチ女性 茶色の髪が豊かで、ふくよか、26歳、山の中腹に住み、1歳半の娘がひとりいる
*
スピロナの証言
この島に戻って、6ヶ月、あたしにまだ男友達はいませんよ。昔みたいに遊びに行きたいけど、乳飲み子がいるので出かけられません。
あの日の午後、あたしは子供を負ぶって、壺を抱えて、泉まで水を汲みに行ったんですよ。
遠くの泉まで行ったのは、最近、フクロウがたびたび来て、あっちの泉ではおもしろいものが見られると言っていたからさ。
おもしろいと言われたら、誰だって見たいじゃないですか。
泉のそばまでは行ったんだけど赤ん坊が腹をすかせて泣くから、座ってお乳を飲ませていたら、少年がやってきて、泉のそばの川で裸になって水浴びを始めたんです。
彼が何歳なのかは知らなかったし、わりとよい身体で悪くはなかったけど、タイプじゃないですよ。あたしには、若すぎる。
彼が川から上がってきた時、あたしがいるのを見て、すごくびっくりしていました。あたしのおっぱいを見ちゃったらしいです。男はこの大きな胸が好きよね。
「子供が寝ちゃったから、水を家まで運んでくれないか」って頼んだら、彼はあっさりと「いいよ」と言ったんです。
頼めば断ることをしない親切で純粋な少年だと思ったわ、その時は。
彼はジャミルという名前で、家に着くと、こんな高台に水を運ぶのは大変だから、時々、手伝いに来てあげると言ったんです。
もしかしたら、あたしのことが好きなのかと思ったわ。
あたしって、男が寄ってくるタイプなのよ。
彼が台所の大きなカメに水を移してくれたから、あたしはテーブルに焼き菓子を置いて食べなさいと言いました。水を運んでくれたお礼ですよ。
「子供をゆりかごにいれたら、ジュースをあげるから」と言って、あたしは子供部屋に行ったんです。
あたしが戻ってくるとですね、彼が頭の後ろをぽりぽり掻いていたので、虫かな、ヒルでもついたのかと見てやったんです。
その時、彼がびっくりして立ち上がったから、菓子が落ちて、ジャムがシャツについたんです。
「脱ぎなさい。洗ってやるから」と言って、シャツを脱がせました。
早く洗わないと、色が染みてしまうからですよ。
そしたらですね、彼があたしの手を無理矢理にひっぱって、奥の寝室に連れて行ったんです。もちろん、抵抗しましたよ。
でも彼は強くて、あたしを寝台の上に押し倒したんです。なんかあたしのこと、最初から狙っていたみたいです。
あたしはいやだって暴れたんですよ。そしたら、彼はあたしの顔をばんばんと殴って、襲いかかってきたんです。
あたしを誰だと思っているのよ、って腹がたったから、彼の唇にかみついたてやったんです。
その時、寝台の脚が壊れて、すごい音をたてて壊れたんです。
それで赤ん坊が泣きだしたから、彼は逃げ出し、入口を出たところで、フクロウに捕まったんです。
あたしは何も悪いことはしていない。悪いのはあっち、あたしはただの被害者ですよ。
*
検察側の見解
フクロウとスピロナの証言、それに、ジャミルの唇から血が出ていたこと、その血が頬と顎にもついていたという決定的な証拠があるから、99.9%いや100%の勝利が確信される。
*
第二王子はその裁判記録を開いた。
弁護人はエヴァンネリ。
この件も、弁護をしたのはあの玄関だったのだ。
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