私は

護武 倫太郎

私は

私は君のことを知っているよ。


君は今悩みを抱えているんじゃないかな?

えっ?特にない?

目をそらさないでよ。君の悩みはきっと無意識の奥底でくすぶっているんだろうね。

ほら、小説のことだよ。

今まさにこの文章を読みながら、君自身の物語について思い悩んでいるはずだよ。

胸に手を当てて考えてごらん。ほら、そこに何が渦巻いている?


私は君のことを知っているよ。


君は、本当はとても頑張り屋さんだ。そうだよね?

たまにさぼってしまう自分に苛立ちながらも、本当は人一倍ひたむきな努力家だということを、私は知っている。

今は、誰にも言えない孤独な高みへ、懸命に進んでいるところかな?

まだまだ道半ばにあると、足がすくむことだってあるだろう。

それでも、ここまで進んできたことに、どれほどの価値があるのか。君も知っているはずだよ。

誰も褒めてくれないかもしれない。君の家族でさえ、その苦労を理解していないかもしれない。

けれど、君がこれまでに成し遂げてきた、その密やかな偉業を私は知っているよ。


だけど、私は君のこんなことも知っているよ。


君は罪を犯している。

それは君にとっては取るに足らないことかも知れない。あるいは、夜も眠れないほどの巨大な罪悪感かも知れないね。

けど、安心していい。君が過去に犯した罪は誰にもバレてはいない。

・・・・・・私にバレているではないかって?

ふふふっ、それは大丈夫。だって私は口が堅いからね。

私は君のことを何でも知っている。君がこれまでについた言い訳じみた小さな嘘も、君が誰かにかけてしまった迷惑も、君が誰にも言えずに握りつぶした失敗も。


全部、全て、余すことなく、知っているよ。


けれど、私は君の秘密を誰にも漏らさなかっただろう?だから私を信用してほしいな。

私君のことを誰にも言わない。

けどずっと見てるよ。


私は君のことを何でも知っている。


それこそ、明日何があるのかもね。

明日、君は・・・・・・ふふふっ、これは今は聞かない方が、君にとっては良いのかもね。


私は君をずっと見てるよ。

ずーっと、見てるからね。

ディスプレイ越しに、ずーっと。

君が、終わるまで・・・・・・。

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私は 護武 倫太郎 @hirogobrin

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