心の壊れた死神は一人のために世界を潰す

メチル

覚醒 編

第1話 死神の誕生

 その日、この世界に超常の怪物が生まれた。

 実験によってその体に神のごとき力を宿し、そこにいた者たちを消し去った。

 その怪物は世界に解き放たれ、世界中のとある組織や国が次々と消されていく。

 後に人々はその怪物をこう呼んだ。


 ――“死神”、と



 ♢ ♢ ♢



 とある町外れの山奥の研究所にて。

 そこは外からならただの家に見えるが、中では絶えない悲鳴が響いていた。

 もちろん幽霊屋敷などではなく、ここの実験体にされている子供たちの悲鳴だ。

 そう、ここは公にされていない違法な人体実験を行っている研究室である。


 「また失敗か。よし、次だ」


 ここで行われている人体実験は、古来より伝えられている神話上の生物を、子どもたちを器として使って蘇らせるという試みだ。

 こんなことが公になれば、国際問題でこの国だけでなく外国からも消されることになるだろう。

 しかしそんな違法な研究所は、この世界に数多く存在する。

 そしてそんな研究所では、この地獄を乗り切ろうと支えあう2人の姿があった。


 「これは俺がやっておくから、少し休憩したほうがいい」


 「はい。ありがとうございます」


 「大丈夫。俺たちは絶対に生き延びれるよ」


 「はい」


 ここでは実験だけでなく、子どもを無理に働かせることもしていた。

 実験で死ぬものがほとんどだが、この過酷な労働環境で命を落とす者も多かった。

 この2人はここに連れて来られた時から、そんな過酷な生活でも支えあって何とか生き延びていたのだ。


 「おいっ157番!こっちへ来い」


 その2人の子供のうち、少年の方が呼ばれてしまった。


 「あ、呼ばれちゃった。ここでお別れだね」


 「そんなっ!生き残るって言ってたじゃないですか」


 「君はきっと生き残れるから。じゃあ、元気でね」


 そう言ってその少年は歩いていく。


 「待ってください、一緒に逃げないと」


 「だめだよ。みんな殺されちゃうし、なにより君が生きられない」


 目に涙を浮かべて必死に少年を止めようとするが、少年は微笑みながら振り返って言った。


 「おいっ早くしろ!」


 研究員がうるさく急かしている。


 「それじゃあね」


 「待って」


 そして今度は振り返らずに研究員の方へ歩いて行った。

 研究員はその男の子を乱暴につかんで別の部屋へと連れ去ってしまった。

 残された少女はその場で泣き崩れた。


 「私を1人にしないで. . . . . .」



 ♢ ♢ ♢



 少年はとある部屋に連れていかれ、手足を縛られた。

 何やら地面には謎の魔法陣のような模様が血で描かれ、少年はその上に投げ飛ばされた。

 周りには10人以上の研究員がよくわからない道具を持っている。


 「よし、始めるぞ」


 そうして全員が道具を掲げ、よくわからない言葉を唱え始めた。

 1分ほど唱え続けると、床の魔法陣が光りだした。

 やがて全員がピタッと唱え終わると、横たわっていた少年の身に異変が起きた。


 「っ!っ―――」


 少年は口をふさがれていたために声が出せなかったが、苦悶に顔を歪めていた。


 「おぉ、今回は発動までしたぞ」


 「ようやく成功するのか」


 「ついに研究が報われる. . . . . .」


 研究員たちは、少年の様子に期待を込めた眼差しを向けていた。


 そして、しばらくすると、その少年は動かなくなる。


 「どうだ? また失敗か?」


 「おい、誰かそいつを調べろ」


 研究員の1人が少年に近づき、様子をうかがう。


 「息はある。しかしこの状況からして、失敗した可能性が高いだろう。一応こいつが目覚めるまで様子を見る必要があるが、期待しない方がいい」


 全員の所へ戻ってそう言った。

 他の研究員も頷いたが、ほとんどが未だ期待の眼差しを少年に向けていた。


 すると、少年が動く。

 のっそりと手を使って・・・・・起き上がる。


 「っ!まさか実験は成功したのか?!」


 「ついにあの風神が復活するのか. . . . . .」


 「ようやく我らの悲願が達成される. . .!」


 研究員たちが歓声を上げ騒ぎ出した。


 「黙れ」


 そのとき、強烈な殺気がその部屋を支配し、騒ぎ立てていた研究員たちは息すらできずに固まる。


 声の主である少年はその男たちを一瞥すると、一薙ぎの風が吹いた。

 ただそれだけで研究員たちはバラバラに切り刻まれ、その場が血の海となる。

 少年はその者たちを振り返りもせず部屋を出て行った。


 ――出て行った後、その部屋に残されたのは研究員たちの無残な死体だけだった。





――――あとがき――――


 読んでくださりありがとうございます。

 今回は本当に、ただただ強すぎる主人公を書きたかったので苦戦も何もない作品になるかと思います。

 それでもご興味を持っていただけたなら、これからもこの作品をよろしくお願いします。

 最後に、他の作品もぜひお読みください。拙い作品かと思いますが、気に入っていただけたら嬉しいです。


 読んで下さり本当にありがとうございました。

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