第17話
千聖くんと駅に向かいながらぐんっと背伸びをする。
「今日は忙しかったね」
「そうだね。結愛が復活したのも理由の一つじゃない? 常連さんが戻ってきたって感じだったよね」
「そうかな…? だとしたら嬉しいな」
そんな話をしながらいつものように千聖くんと駅へと向かう。
だけどその先に待っていたのは〝いつも〟とは違っていた。
「じゃあ、またね。千聖くん」
駅にたどり着いて千聖くんと別れようとしたとき、千聖くんが私の腕を引いて背中へと隠した。
その視線の先には、見覚えのある人たちの顔がある。
何年も前に別れたきりの、私に借金を押し付けた二つの顔。
「………とうさま、かあさま」
「組の人呼んだほうがいい」
「で、でも…」
「はやく!」
「はい…!」
返事をして、震える手でスマホを取り出す。
組の人に発信したとき、隣に人の気配がした。
千聖くんは私の体をまた引き寄せて、その人から離す。
「え……?」
「っ……?」
千聖くんまでもが驚く理由。
それは私にそっくりな、瓜二つの女の子の姿があったからだ。
「お久しぶり。お姉ちゃん」
にっこりと笑う彼女にスマホが手から滑り落ちた。
ガシャンッとスマホが音をたて、私の表情は引きつる。
だって、なんで髪型まで一緒なの…?
「ねえ、お姉ちゃん」
悪魔のような少女は私のあごに手を添えて微笑んだ。
「お姉ちゃんの旦那様、私にちょーだい?」
「え…? なに、いって…」
返答した私の腕を千聖くんは勢いよく引っ張った。
「結愛、行くよ」
「ッ……千聖くん、走ったらダメ…!」
「いいから!」
千聖くんは私と手をつないで人込みへと紛れ込む。
振り向いたときには、彼女の姿も両親の姿もどこにもなかった。
千都さんをちょうだい?
なにをいわれてるのか、りかいができない。
言葉の通りなんだろうけど、でも。
そんなことぜったいにいやだ。
千都さんだけは絶対に奪われたくない。
……
それから数日後、仕事が終わって家に帰ると家の中が騒がしかった。
シグさんが玄関にいて、いつものように「おかえりなさい」と声がかかるのを待ってると、不審な目を向けられる。
「あんた誰?」
「……え?」
「なに人ん家に入ってきてんの?」
何がどうなってるのか。
首をかしげて家の中を見渡すと、みんながいつもの笑顔じゃなくて怖い目を向けてくる。
「あ、の…シグさん…?」
「勝手に人の名前呼ぶなよ」
「ッ……」
なに、なに?
なにが起きてるの?
夢…?
そう思って頬をつねると、痛みがある。つまり現実だ。
じゃあこれはいったいなに…?
「何騒いでんだよ」
廊下の奥から千都さんの声が聞こえ、期待に目を向けたとき
「は? おまえ、誰?」
姿を現した千都さんは私を見てそう言った。
「ゆき、とさん…こそ……なんで」
なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。
なんでよ。
なんで
「なんであなたがそこにいるのよ!!」
千都さんの隣にいる人物。
私とそっくりの女の子が千都さんと腕を組んでいた。
「え? 私のこと?」
「そこは私の、わたしのいばしょなのに!」
靴を脱ぎ捨て、家にあがると彼女を千都さんから引き離そうとする。
だけどその手を払われた。
ほかでもないゆきとさんに。
「何すんだよ。俺の女に触んな」
「ぇ……?」
「行くぞ、結愛」
「はぁーい」
彼女はぎゅっと千都さんの腕を組んで、通り過ぎるときにやりと笑う。
「ごめんね、お姉ちゃん。また奪っちゃって」
その残酷な声に私の目からは涙が流れた。
また奪われた。
また、奪われたんだ。
今度は千都さんを。大事な大事な千都さんを奪われちゃったんだ。
「うわぁぁぁぁぁぁん……!!!」
千都さんもどうして気づいてくれないの?
どうして彼女を『結愛』だなんて呼ぶの?
私はここにいるのに。
『結愛』はここなのに。
どうして……!
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