例え場所がゲームの世界であろうと、そのゲームがクソゲーであろうと転生前の世界と文化が違っていようと、人と人が関わったときは変わらず温かいのです。
この作品は長編小説『転生者ふたり、あるクソゲーの世界で』の短編集です。
キャラクター同士の会話や関わり方、距離感に寄り添って書かれているこの作品は、一話読み終わる毎に心がぽんわりと温かくなります。
それはコメディチックなやりとりであったり、本編には入りきらなかったキャラクターとの会話であったり。
温かいお茶と小さいお菓子を食べているような気分にさせてくれるこの作品は、本編である『転生者ふたり、あるクソゲーの世界で』を読み終えた後だと殊更美味しくいただけますので、本編の方も強くおすすめいたします!
追記:と、ここまでは前半の閑話集のレビューです。
閑話集の後に始まる番外編『転生者ふたり、あるクソゲーの残骸で』は、番外編というにはあまりに濃厚かつ大ボリュームのお話で、文字数が10万字を超えている事からも本編である『転生者ふたり、あるクソゲーの世界で 』の正統続編と銘打つのがふさわしいと思っております。
転生した先のBLゲームを無事にクリアできた氷山と雪村を襲う”想定外の出来事”の数々。
二人がこのゲームを終わらせたときから、世界はゲームのその先へ動き出していて――
封印された魔物、ゲーム内容に無い出来事、ゲームの支配から解き放たれた登場人物たち……。
ゲーム外の存在でいられなくなった主人公二人を打ちのめす”現実”の数々が立ちふさがります。
ゲーム転生のクリア後という設定を上手く生かし、ゲームの世界から解き放たれファンタジー世界へ変貌していく瞬間を捉えていくのが大変面白いと感じました。
本編で『ゲームに支配される恐怖』を描いていたことからも、こちらの作品は”ゲームに転生する”という設定を最大限に生かして書き上げられていると言えます。
このストーリーの作り方、本編から通してかなり上手いなと感じておりました。
設定を作るだけでなく生かす方法が本当に上手いです。
メインストーリーへの組み込みとそこからの展開の作り方にやられて夢中になってしまいました。
練り込まれた基本設定にプラスして、ゲームから解き放たれ魅力を増したキャラクターたちの織り成す”ゲームイベント”を超えた世界に引き込まれて行く事間違いなしです。
また、こちらの作品は各話終盤の”引き”に長けており、読み終わった傍から次の話へ向かわせる技術と計算が光っています。連載中まんまとひっかかり続けた私が言うのですから間違いありません。
私と違い、幸いにもこれから一気に読む事の出来る貴方は是非、ゲームの世界が本物のファンタジーになる瞬間を目撃してください。
そして転生してきた主人公たちだけでなく、もうゲームの登場人物ではなくなり"生きた心"を獲得した愛すべき彼らと共に、まだ見ぬ『先』の世界へ踏み出してみてください。
吹雪の先でお待ちしております。