-3- 灯台
手紙の返事が気になって仕方ない日々が続いた。しきりに玄関を気にして、わずかな音でも玄関の郵便受けを確認した。
──過敏になっている。自覚はあった。どうしようもなく、あの手紙の主が気になるのだ。いまだかつて、これほどまでに他者を気にした記憶は私にはない。
そうだ、灯台の祠を見に行ってみよう。手紙を持たずに行くのは初めてだった。いそいそとコートを着込み防寒をする。
家を出る間際、自室を振り返る。殺風景な部屋。机の上にはノートパソコンと白いノート。調子に乗って買った万年筆と何も書いていない原稿用紙。実家から彩りにと無理やり持たされた陶器の花瓶には、花の一輪も刺さっていない。
その光景は、まさに灰色の生活だった。
その生活に目を背けるように家を出た。吐く息は白い。
灯台までは三十分もかからないで到着した。空は相変わらず重苦しい色を湛えている。海の色も反射もあってか黒く見えて不気味だった。
祠は相変わらずそこにあった。手紙が回収されているのか気になって、中を覗く。
ぽつん、と棒状のものがくの字に折れ曲がって置かれていた。
よくよく見れば、それは錆びた釘だった。子供のいたずらだろうか。
何気なく手に取り、空にかざした。赤茶色に変色した金属釘。表面はざらりとしていて、月日を感じさせた。
海風に錆びた何処かの釘だろうか。
なんとなく気になって、持ち帰ることにした。どうせ、祠に子供のいたずらで置かれた意味のないものだろう、と思いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます