第5話 1日目の終わり


「ただいま、っと」

 

 アパートに着いたのは午後9時前。いや、実に健康的だ。酔いもほどほどで、無駄な金を使わずに済んだのはいいことだ。

 歯を磨き、シャワーを浴びる。

 髪についた整髪剤を落とす程度にシャンプーをしただけなのでさほど時間も掛からなかった。

 髪を乾かし、寝巻きに着替えベッドへ。

 電気を消したあたりで、我ながら無趣味極まりない事実に気づいた。いや、パソコンでもつければ何かしか見るもんはあるかもしれないが長年の習慣とは消えないものなのだ。

 といっても、今日はいつもよりずっと早い就寝だ。

 普段ならば仕事終わりで午前様もざらだった。


「ん?」


 また携帯が鳴っている。

 飲んでる最中も支店やら上司からの着信が何度かあり、それを全て無視していた。支店長や副支店長からの着信はなかったので問題なし。隙をみて着信拒否にしていたので、こんな時間に誰だと思いながら液晶の画面を見た。

 

 知らない番号。

 

 普段ならその事実だけで瞼を閉じていただろう。

 全く関係ない事柄に関わる余裕もなかった。ただ、人間腹を括るとまるで気分が変わるのだ。こんなタイミングで鳴った電話を避けようとは思わなかった。

 

「はい、もしもし」


『あ、やっと出た。あれ、もしかして寝てた? 流石に早くない?』


 キンキン声に思考が停止する。そのまま通話を切ろうかと思ったが、思いとどまった。若い女の声。正直キャバクラやガールズバーなんて二十代に連れられて行ったくらいなので営業電話でもないはずだ。

 

 であれば。


「ああ、普段は寝れなくてね。ぐっすりだったんだ。それで、君はどこのどちら様ですか?」


『あたしはアオイ。キミさんの紹介で電話してる。あたしらみたいな新人を紹介してほしいって話だったよね?』


 さすが仕事が早い。

 キミさんのところを出たのは現時刻から三十分前程度。その間に話をつけて、おれに電話をさせる段階にまで持ってくるとは。

 しかも度胸は十分。言葉遣いはまだまだだが、それ以上に行動力があるのは気に入った。


「ああ、そうだ。おれは黒地銀一。ダンジョン初級者を探してる。君はダンジョンに潜って何年目?」


「まだ。今申請してるとこ」

 

 ビンゴ。

 今度キミさんにシャンパンの一本でもプレゼントしなければ。狙い通りの展開に年甲斐もなくガッツボース。歓喜の声を上げたいのを我慢して、言葉を続けた。


「その申請はいつ出したんだ?」


『…わかってて聞いてるでしょ。もう数ヶ月前から突っ返されてる』


「なるほど、それだとダンジョンに潜ることもできないわけだ」


 

『だから、電話したの。正直困ってて、すぐにでも。それに、って聞いたから』



 美味い話には裏がある。

 そんなことは百も承知だろうが、それでも彼女は電話してきた。

 キミさんへの信用もあるだろうが、それ以上に切羽詰まっているのだろう。なにせ、夜中に知らないおっさんに電話をかけてくるくらいなのだから。その気持ちに答えてやるのが大人ってもんじゃなかろうか。

 

 なにより、Dtuver

 

 おれは明日改めて面談する約束をして、そのまま通話を切った。

 



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