第13話 悪夢の討伐

 「……次はナイトメアセンチネルだ!」


 和樹はジープから一人で降り立ち、目の前の巨大なナイトメアセンチネルと対峙する。


 プラズマブレードを強く握り、スイッチを押し込むと、辺りに鋭い高周波音が響き渡り、刃先から青白いスパークが激しくほとばしった。


 黒光りする二足歩行の巨大な機体が、腕に付いたプラズマカッターを構え、ゆっくりと接近してくる。


 ナノリンク・データーフィードを通じてノアが和樹に情報を送る。


 (和樹、シールドドローンが四機展開されました。通常の射撃は通らないので、接近戦に集中してください)


 「オッケー!」


 和樹は深呼吸して集中を高めると、シールドドローンが守るナイトメアセンチネルに一気に走り出した。


 ノアのサポートによって、シールドドローンの動きが数秒先まで残像のように和樹の視界に映し出される。ドローンがレーザーを発射するたび、ノアの解析により射線が赤くハイライトされ、危険な軌道が視界にリアルタイムで表示される。


 和樹はその赤いラインを読み取り、右に左に素早く身をかわしながら、すかさず跳躍して回避。


 プラズマブレードを振り下ろすと、青白いスパークが刃先から弧を描き、光の軌跡がシールドドローンに鋭く突き刺さった。


 シールドドローンが轟音とともに爆発し、灼熱の爆風が和樹に襲いかかる。全身に焼け付くような熱が走り、反射的に和樹は歯を食いしばる。


 「……ぐぅっ! 熱ッ!!」


 その瞬間、和樹の装備するアトモシールドスーツが微細なプラズマシールドを展開し、周囲に淡い光のベールが広がる。


 スーツの外側に組み込まれた極小プラズマ発生装置が起動し、シールドが形成されることで、ビームやプラズマの高熱を瞬時に遮断。


 灼熱の圧力を受けながらも、和樹は微動だにせず立ち続け、スーツの輝きが灼熱の爆風を遮る防壁となっていた。


 ドローンが一体破壊されたことによって、ナイトメアセンチネルの守りに隙間ができる。だが、すぐに二体目、三体目のドローンが新たな位置に展開され、和樹の動きを封じようとする。


 (二体目、来ます。ブレードで正面から突き破ってください)


 「分かってる!」


 和樹はノアから頭に直接響く指示に従い、正面からシールドドローンに突進する。


 視界には赤くハイライトされたレーザーの射線が頭部を狙うように表示される。瞬時に頭を低くすると、髪をかすめるようにレーザーが通り過ぎていった。そのまま勢いを保ち、プラズマブレードをシールドドローンに突き刺す。前に受けた灼熱の爆風が頭をよぎる。


 「——やばッ!」


 焦った和樹は転がりながら距離を取った。

瞬間、背後で轟音と共にドローンが爆発し、残骸が飛び散った。


 和樹は直ぐにナイトメアセンチネルの右側に滑り込み、三体目のドローンにプラズマブレードを突き刺した後、すぐに距離を取る。その動きの中で、和樹は自分の体が最初よりも軽く、力がみなぎるような奇妙な感覚を覚えた。


 「ノア…なんだか、動きが良くなってきた」


 (シンクロ率が、2%上昇しています)


 「…マジか……」


 その瞬間、ナイトメアセンチネルが両腕に装備されたデュアルプラズマ・カッターを展開し、凄まじい斬撃を放ってきた。


 プラズマカッターから放たれるエネルギーの熱で周囲の空気が揺らぎ、和樹のプラズマブレードをはるかに上回る高周波音が空間を震わせる。


 あまりの高周波に、和樹の鼓膜が耐えきれず、耳から血が滲み出した。


 だが、体内のナノマシンが即座に反応し、鼓膜をリアルタイムで修復し始める。さらに、ノアの通常補助により痛覚が緩和され、和樹が耐えられる範囲にまで調整されていく。回復が進むたびに、痛みも徐々に引いていく。


 「…ノ、ノア…思ってたより…強いぞ…!」


 「問題ありません。対処可能です」


 和樹はギリギリのところで回避しつつ、プラズマブレードで応戦。ノアがナイトメアセンチネルの攻撃軌道を瞬時に補正し、次々と和樹に最適な動きが伝わる。


 (和樹、最後のシールドドローンを突破すれば、ナイトメアセンチネル本体に直接攻撃できます!)


 「よしッ!」


 和樹は最後のドローンに向かって滑り込み、レーザーの射線を巧みに右へ左へとかわしながら、全力で中央の目玉状のレーザー照射口にプラズマブレードを深く突き刺した。


 刃が根元まで刺さり、瞬時に引き抜くと、シールドドローンが轟音とともに爆発。巻き起こる灼熱の爆風が和樹を包み込むが、アトモシールドスーツが即座に微細なプラズマシールドを展開し、高熱から和樹を守り抜いた。


 ナイトメアセンチネルの防御が完全に崩れたその瞬間、ナイトメアセンチネルがEMPパルスを発生させる。空気が波のように揺らめき、地面の砂には放射状の波紋が刻まれていく。


 しかし、和樹の装備にはEMP耐性シールドがあり、影響を受けることなく突撃を開始する。


 「勝負だ!」


 和樹はプラズマブレードを振りかざし、ナイトメアセンチネルの胸部に向かって一直線に突き進んだ。


 しかし次の瞬間、ナイトメアセンチネルの両腕が不気味に持ち上がり、肩のジョイント部分から猛烈な高温のプラズマが噴流のごとく迸る。


 まるで空間そのものを焼き尽くそうとするかのように、周囲は赤い閃光に包まれ、熱の波が和樹に迫る。目に映るすべてが赤く染まり、肌に焼きつくような灼熱が襲いかかってくる。


 その圧倒的な光と熱の威圧感に、和樹は一瞬、息を呑んだ。


 「くっ…この威圧感、まるで要塞みたいだな!」


 ナイトメアセンチネルの両腕に装備されたデュアルプラズマ・カッターが猛烈な音を立てて発動し、和樹に迫ってくる。ブレードが交差するたびに、空気が歪み、火花が散り、激しい爆音が周囲に響き渡った。


 (和樹、右! 避けて!)


 ノアの声が頭に直接響いた瞬間、素早く横へ身をかわす。デュアルプラズマ・カッターが和樹の立っていた場所に突き刺さる。


 高熱によって地面が真っ赤に溶け、蒸気が立ち上る。和樹はその光景に一瞬焦りながらも、すかさず反撃の一撃を繰り出した。


 プラズマブレードがナイトメアセンチネルの外装をかすめると、金属が焼ける嫌な匂いが辺りに漂った。しかし、相手の装甲は分厚く、一撃ではまるで傷が入らない」


 「マジかよ…な、なんて頑丈なんだ…」


 和樹はプラズマブレードを握り直し、目の前の敵に向かって再び立ち向かった。


 ナイトメアセンチネルは嘲笑うかのように、再びシールドドローンを四機展開し、和樹を囲むように配置してきた。


 「…嘘だろ……どんだけ持ってんだよ!クソッ、ふざけやがって、絶対にぶっ壊してやる、このブリキ野郎が!」


四方からのシールドドローンの赤い射線が、ノアの通常補助によってハイライト表示され、和樹の視界に鮮明に浮かび上がる。次々と現れる射線の残像に合わせて、和樹は体を瞬時に移動させ、レーザーを巧みにかわしていく。


 ノアの誘導に従い、シールドドローンの間合いへと踏み込むと、和樹は渾身の力でプラズマブレードを振り下ろした。


 最初は手こずっていたシールドドローンも、今では難なく切り裂けるようになっている。


 その瞬間、ノアの声が和樹の意識に響いた。


 (シンクロ率がまた上がりました。)


 「よっしゃあ! 待ってろよ、ブリキ野郎!」


 予備のシールドドローンも尽きたのか、新たなドローンは現れず、ナイトメアセンチネルがデュアルプラズマ・カッターを振りかざしながら和樹に迫ってくる。


 しかし、シンクロ率の上昇により、和樹の動きには冷静さが増し、鋭い攻撃を落ち着いてかわしていく。


 和樹は凄まじいスピードでナイトメアセンチネルの懐に滑り込み、プラズマブレードを下から胸部へと深々と突き刺した。


 ブレードをそのまま頭部方向にスライドさせ、胸部装甲を切り裂く。切り裂かれた跡から青白いスパークがほとばしり、「ジージー」と内部機器が焼き切れる音が耳をつんざくように響き渡った。


 ナイトメアセンチネルは、炎と黒煙を激しく噴き出し、徐々にその動きを完全に停止させた。


 「お疲れさまでした、和樹。見事な戦いでした」


 「ふぅ……マジできつかった、これがオーバーマインドとリンクしたドローンか…複数体だったら無理だったな……」


 和樹は大きく息を整え、フォートレスジープへと歩みを戻していった。

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