過去 新野白滝の場合

新野白滝は至って平凡だった。

特段優秀という訳でもなく、ただそこに存在しているだけの人間。テストの点も低くも高くもなく、運動神経も良くも悪くもない。表情の変化も人並みであり、友人に白滝の良いところは?と聞くと97%が『優しいところ』と返答されるほど平凡だった。休み時間に友達に囲まれ談笑したり、本を読んだり、特筆すべきことも無い14年を白滝は過ごしてきた。

中学2年生にと出会うまでは─────

夏頃、交通事故で車に撥ねられそのまま帰らぬ人となった親戚がいた。葬式など初めてのことで、ココと白滝はいささか気が気じゃなく過ごしていたのだが、死体を目にした瞬間、白滝は時間が止まったかのように動かなくなった。青白く血色が感じられない肌に、それを助長させるかのように着させられた白装束、閉じた瞳にエンゼルメイクが施された顔は白滝に美しい西洋絵画のような印象を与えた。目の前のものに目を奪われ、顔から噴き出す汗にも気付かぬ程、家族が動かぬ白滝に声をかけても気付かぬ程、自分が震えているという事実に気付かぬ程、新野白滝は興奮していた。それまでその親戚とは何の接点もなく、ただ正月にお年玉を貰う貰われるだけの関係であったのだが、今ではその親戚の声すらも忘れるほど目の前の無機物遺体に夢中になっていた。ココは、そんな表情をただ1人だけ目の当たりにし──大好きな兄が浮かべる顔に恐怖を抱き、尊敬していた感情が崩れ去る音を聞いた。

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葬儀が終わった数日後から、白滝は漫画を好むようになった。不思議に思ったココが理由を尋ねると、友達が勧めてきたから、と以前と変わらぬ笑顔で答えが返ってきた。葬儀が終わった後も、白滝は普通の少年ノーマルとして過ごしていた。友人に勧められたならだがココは知っていた、兄が漫画のページをめくる度に興奮しているということを。興奮したその表情が、あの日見た顔と同じだったことを。どうしてかは知らない、知りたくもない。1ヶ月、1年と月日が経っていくにつれ、自然と兄への興味も無くなっていった。

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ココが中学1年生へ上がった年、白滝の姿が見えない日があった。翌日には帰ってきたものの、白滝のような青年が帰るにしては少しばかり遅い時刻であった。片手には黒いゴミ袋が握られており、どうしたのかと訊ねると

ただ一言「そそられなかった」と、まるで独りごとのように答えを返した。自分を見る冷たい目線、黒い袋からする鉄分のような臭い、そして兄から放たれた言葉。ココは全てを察したが知りたくはなかった。

─────────


19:00 新野家にて


今日もココは誰もいないリビングに向かって「ただいま」と声を上げる。の周期はココには分からないが、この時間に玄関に白滝の靴がないということは今日はその日なのだろう。いつの間にか実の兄の異常さに慣れてしまった心を抱えながら、ココはふらふらと自分の部屋へ行き、眠りにつくのだった。

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日常に花を添えて 羊谷光尾 @wooooooaini831

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