第12話 戦闘前編
体制が整ったので、全軍と支援の州軍の士官を集めて作戦の概要を伝達した。
「まず、賊の潜伏が想定される地域の手前を目標地点として進軍し、到着後ただちに偵察隊を本隊から分離し左右に先行させ厳戒態勢で周囲の状況確認と索敵を行いつつ進み、本隊も一定の距離と逆三角の形態を維持しながら進軍する」
「そのままゆっくり進み、夜になったら偵察隊は本隊に光通信で報告する。情報を基に本隊が作戦と移動する方向を定め、各偵察隊に指示を出して揃って進軍する」
「これより、偵察隊の編成を決める」と指示を出し、士官に集合をかけた。
各偵察隊の構成は士官1名、軽装歩兵が15名、騎兵4名、通信は軽装歩兵が兼務。
指示に基づき兵の人選が終わり、偵察隊の任務はあくまでも偵察と報告で、極力戦闘は避けるよう重ねて指示した。
なお、夜間の光通信において光量を増やす意味で灯火器の灯芯は2本とし、油の消費も増えるので十分な量を所持せよと指示した。
また、通信に使うモールス信号表を配布したが、 今回は操作を簡略化するため濁点は使わないとした。読みにくいカタカナ電文になるとは思うが・・
指示に従い副官の洪有徳の号令「出発!」により、いよいよ作戦が始動した。
行軍はその後何事もなく目標地点に到着した。
偵察隊を送り出し、本隊の陣形と役割についても指示した。
先陣は重装歩兵が担い、軽装歩兵と弓兵が続く、騎兵は機動力が必要な作戦行動が出来るように後方に配し、輜重隊はある程度離れて進むよう指示を出した。
進攻は順調に進み夜になったので、本隊も偵察隊も野営することにした。
偵察隊からの光通信でそれぞれの通信が入り、左側の偵察隊から敵側の隠蔽された野営跡らしきものが発見されたとの重要な報告があった。
左側の通信隊にはその場に待機し監視を継続させ、右側の偵察隊には夜が明けたら本隊に合流するように指示を出した。
本隊は右の偵察隊と合流後に全軍で報告があった地点に向け進軍することになった。
「いよいよ、明日敵と遭遇して戦闘になるのだな」と呟き気持ちを引き締めた。
見上げれば空には月が浮かんでいて、おおよそ俺にその実感がない。
「上弦の月か」と独り言ちたが、ふと嫌な予感がした。
会敵地点は山間の左側に崖がある隘路で、陣形を保ったままの行軍が出来ず、縦に伸びてしまう厄介な場所である。
上弦の月は弓の弦が上、つまり敵は崖の上から隘路を進むわが軍を弓で襲うつもりと思い至った。上弦の月とふと感じた嫌な予感とが繋がったのである。
その予感を信じ、副官の洪有徳と軍師に作戦会議用の幕舎に集合せよとの伝言を俊宇に指示した。 作戦用幕舎に集合した面々に予感の内容と対応する作戦を告げた。
「騎兵による急襲を敵に気付かれないように重装歩兵を先頭に盾を装備させ通常どおり隘路を進ませる。騎兵は先行し迂回して背後から崖の上に布陣する敵の弓兵を殲滅し、取って返して本隊に戻る。そして弓により我が軍が動揺する筈と信じて待っている森に潜む敵軍の主力を一気に叩く」
「良い作戦だと思います。騎兵は私が率います」と洪有徳が発言した。
「いや、騎兵は俺が率いる」と言うと、「「なりませぬ」」と全員が声を揃えて反対。
「騎兵の扱いは得意だし、俊宇もいるし、精強な騎兵が60名もいれば危険はなく、
個々の能力を把握している洪有徳に軍の指揮を任せた方が無難だ」と押し切る。
こうして掃討作戦が決定した。
明け方に俺は騎乗し、迂回のために出発した。
近くに到着したので馬と兵に牧(バイ)をふくませ、静かに進むと予想通り敵の弓兵がいた。一気に攻撃を開始して殲滅したのち、即座に取って返し本隊に戻った。
さて、これから敵の本隊との交戦である。
右の森の奥を警戒しながら進むと、やはり怪しい気配と動きが感じられた。
どうやら、崖上の弓隊からの攻撃が開始されないことで動転しているようである。
元々、100名弱の寡兵で800名の軍に勝つには策略を用いるしかなく、その策が破綻した以上、まともに正面攻撃を受けたら全滅すると判断しているのであろう。
包囲される前に撤退する以外に選択肢はないが、その時期はと逡巡している様子が窺える。
「攻撃開始!」と浩然が命令し、総攻撃の鼓が打ち鳴らされ全軍攻撃に移った。
浩然は一気に敵の真っただ中に突進し、剣戟と怒号が飛び交う中で、無我夢中で剣を振るったが、肉や骨を断ち切る嫌な感覚が手に残り、心も荒んでしまった。
敵は総崩れになったが、森の木々が逃走を助けて敵は全滅を免れた。
前哨戦で勝利したが、全軍で深追いする愚は行わず、この日の戦闘は終わった。
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