第10話 状況把握と立案

 流石に精鋭部隊であったので、徐々に進軍スピードが上がり、予定の10日より早く8日で現地に到着した。


 到着後すぐにこの地を任されている四大貴族の楊家の当主である楊 憲徳(ヤン シエンドーァ )が出迎えてくれた。ちなみに皇后の兄でもある。

 楊 憲徳により州軍の駐屯している砦に隣接している司令部を兼ねた舘の応接間に案内された。


 「浩然様、平西将軍としてこの地に遠征して下さり、恐悦至極にございます。

  臣がお力添え出来るならば誉にございますゆえ、何なりとお申し付けください」


 「感謝する。よろしく頼む。まずは、進軍で疲れている全軍をひとまず休めるため

  に駐留の手配と物資の補充を頼む」


 「かしこまりました。すぐに手配いたします」


 挨拶と依頼が済んだので、楊 憲徳から地勢の説明と経緯の報告がされた。


 この地は我が国・青龍国の中で突出していて、西の隣国・魏と東の隣国・魯に挟まれて接し三つ巴になっている特殊なエリアとのこと。

 そもそも、青龍国にこのような状況の地が生まれたのは、かって滅亡してしまった西側の涼国が侵攻してきて、熾烈な戦いの末に勝利し、その涼から戦後補償としてこの地が割譲され青龍国の領土になったという経緯があったようである。


 この地は山や森林が多く農作には適してはいないが、木材や地下資源も豊富であるから、我が国では重要な地に位置付けられ、皇后の実家でもある四大貴族の楊家の領地になっている。


 一方、勢力が絡み合っているこの地が王都よりさほど離れていないのは、いざという時に精強な禁軍を速やかに派兵できるようにという防衛上の観点から、皇都そのものを遷都したとのこと。


 なお、隣接している二国と相互不可侵条約を結んでいるが、どうも西の魏国の動向に怪しい気配があることが報告された。

 魏国の先王が身罷られて先ごろ新王が即位したのだが、意気軒高のようで富国強兵路線をとって軍備を拡張しているらしいという噂が流れているとのこと。

 この度、盗賊が頻繁に出没するようになったのは新王即位後で、その噂に何らかの関係があり、きな臭いと思えるとのこと。

 となれば、盗賊ではなく魏国兵が潜入して事をおこしているかもしれないと楊 憲徳も浩然達と同じ見解を示した。

 村々の襲撃は短時間で被害は糧秣などで甚大なものではなく、州軍が向かっても事後という状況であったので、敵の実態が掴めていないとのこと。

 また、州軍は賊と小規模な小競り合いをしたが、賊は応戦せず、軍のように速やかに撤退したとのこと。

 この地の防衛上の観点から砦の守備兵を多く割く訳にいかず、州軍が深追いや大規模な討伐行動は出来ずに警護に徹しているというとのこと。


「以上、念のために地勢とこれまでの経緯の概略をご説明させて頂きました」


「ご苦労、状況は理解した。こちらも実態は盗賊ではなく、他国の軍の威力偵察であると推測していて、そのための禁軍の派兵となっている」

「作戦行動は禁軍が主体となり、州軍は物資の補充や警護や治安を担当してほしい」

「作戦の詳細が決まり次第、おって伝える」


「ご指示、承りました。ご命令を州軍に伝達いたします」


 説明を聞きながら、この時代における戦時の命令伝達方法や遠距離の情報伝達方法テレグラフについて何とかならないかと考えていた。

 会敵の際に、攻撃開始や陣形変更などの命令を鼓を打つ回数や調子で、撤退は鐘で伝えているが、剣戟や怒号の中では心もとない。ならば船員が使っている手旗信号が可能性があるが、訓練しなければならず、今回は使えない。


 また、部隊と司令部との情報伝達は早馬や伝書鳩や狼煙を使って行っているが、早馬や鳩は襲われる可能性もあり、狼煙も万全ではない。

 定番の狼煙は砦から砦へは事前準備もできて敵の来襲を伝えるのに有効だが、戦場では火をおこすのに時間がかかり、雨で消えたり、風で流されてしまうし、意味を持たせるために本数を増やせども場所が近い場合は合体したり、色を変えても日中では判別しにくい、見える距離も限られ、戦闘中では敵に拠点を教えてしまうというデメリットが多い。

 この狼煙・烽火通信法式は改良の余地があり、試してみたい案が浮かんだ。

(さて、高校物理の応用を試してみるか)


「ところで、今回試したい事があり、欲しいものがある。用意できるか?」


「何なりと、何でございましょう?」と快諾を得たので、薄い大き目の銅板と木の薄板、灯火器、塩、銅の粉、骨粉、鉄の粉を頼んだ。


「よろしく頼む。 出来上がったら説明と実演する」と約束して、本日は辞した。




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