武神?の弟子になることになった

 翌朝目が覚めるとシェスが食事を食べろと言ってきた。

 3人はもう食べ終わっているようで僕一人分だけ。

 テーブルの上にパンとシチューらしきものが置いてある。


 食べ終わるのを待ちウェイズが質問してきた。

「お前はこの後どうするのだ?」

 決めてないけど元の世界には戻りたいから方法を探してみようと思うと告げる。

 それなら力をつけないと危ないから武術の心得のあるものを紹介しようと言ってきた。

 今いる森から少し離れた山のふもとに一人で暮らしているらしくウェイズたちは丁度そこへ行く途中とのこと。


「お前にこれをやろう」とウェイズが変な形のポーチをくれた。

 スマホを横にしたくらいのサイズで上と左右の計3か所穴が開いている。

 {マリスのポーチ}という名前で7賢者の一人、空の賢者マリスが考案した物だそう。

 製作者の魔力値に応じた量が収納できるらしい。

 武器・防具数種類と30日分くらいの食料と水を入れてくれたそうだ。

 当面の費用に充てろと金貨9枚、銀貨9枚、銅貨10枚を差し出してきた。

 流石に初対面の人にお金は……と断ったら貨幣は無いと困るだろうしいつか返してくれれば良いと半ば無理やり押し付けてきた。

 よく考えると初対面の僕にここまで優しくしてくれる理由がわからない。

 道中で理由を聞いても「たまたま見つけたと言っても助けた命だ、異世界から来たから生きていく上で少し手助けしてやるだけ。どうせ暇だからな」としか言われなかった。


 1日ほど森の中を歩いた。翌朝森を抜け草原をしばらく歩くと湖がありその横あたりに小さな家が建っているのが見える。

 家に近づくと巻き割をしている人物がいた。

 アイゼンとシェスが「お久しぶりです、先生」と直立不動で挨拶している。

 アイゼンとシェスの態度を見るとかなり怖いか強いんだろう。


 ウェイズが彼を紹介してくれた。

 疾風 流妖斎はやて りゅうようさいというらしい、この世界で武神と言われる人だそうだ。

 立ち姿を見て威厳はあるけど身長は160センチほどで小柄で優しそうなのでとても武神とか信用できない。


「成長を見せてもらおうかな、二人でかかってきなさい」

 流妖斎がアイゼンとシェスに向かって言った。

「お願いします」

 二人が剣を抜き呪文を唱えるとアイゼンの刀身が白く染まり冷気が、シェスの刀身が赤く染まり熱風が起きる。

 二人同時に流妖斎に襲い掛かるがひらひらと避けられかすりもしない。

 目で見て避けているだけではなさそうで背後からの攻撃を目視せずに避けている。

 赤と白に染まった刀身は流妖斎に触れることは出来ず4-5分が過ぎた。


「次はこちらから行くぞ」

 ゆっくりと歩いて近づいて行ったと思った瞬間……その姿が消えた。

(え?消えた?)

 ヌハッ!というシェスのうめき声が聞こえ、その巨体が10メートル以上飛ばされピクピクと体が痙攣している。

 剣をふるうアイゼンの手首を持った瞬間に足払いをされ宙を舞うアイゼンの体。

 地面と体が平行になったとき顔面のグーで殴りそのまま地面にたたきつけられていた。

 二人とも死んだんじゃないか?

 

「二人が死なないからと言って、ちょっとやりすぎだぞ」

 ウェイズが流妖斎に近づきながら言った。

「申し訳ない、久しぶりの対人で力を入れすぎました、ところで今日はどのような用件で?」

「久しぶりに顔でも見ようかと思ってな、ついでに頼みたいことも1つ出来た」

「ウェイズ殿が頼み事とは珍しいですね」

「こいつを鍛えてほしくてな、異世界人なのだがグリアで生き抜く程度の力を持たせてやりたい。ちなみにこいつも特別なものだ」

 そんな会話が聞こえてきた。

 

 正直、鍛えてもらうのは助かるけどあの二人を一撃で殺しかける力ある人を相手にしてたら体がいくつあっても……。

「日本人か?同郷の人間に会うのは初めてだ」流妖斎が聞いてきた。

「え?あなたも日本人なんですか?」

「あぁ、20歳の時にこちらの世界に来た。妻も居たのだが亡くなってしまって今は一人で生活しているよ、この世界で旅をするなら私の下で戦い方を学んでからにしなさい」

 流妖斎は少し寂しそうにそう言った。


 ウェイズに介抱され立ち上がったシェスとアイゼンが口を揃えて言う。

 「教えを乞うべきだ、戦い方を学んで得はあっても損はないだろう」

 確かに日本に帰る方法を見つけるにしてもこの世界で生活するにしても頼るものがいない僕は戦闘の基本くらいは知っておかないとダメだろう。

 ここへ来る道中に角の生えたイノシシの魔物(ホーンボアと言うらしい)をシェスが倒して肉を食べたけど今の僕ではあれにも勝てないと思う。

 勝つとかの前に突進してくる魔物に対して足が震えた、戦う勇気すらない自分が情けなかった。

「戦い方を教えてください、後悔しないために」

 師匠と仰ぐことになる流妖斎の目を見て小さな勇気を振り絞って言った。

「良いだろう、私はアイゼンたちと少し話がある。この湖は周囲が5キロある、止まることなく自分のペースで一周回ってきなさい」

 僕が走り出すと流妖斎がアイゼンとシェスにさっきの手合わせの指導をしているのが聞こえた。

 

 中年太りで運動を最近していなかった僕は湖を回るのに1時間以上かかってしまった。

 戻ってくるとウェイズたちは既に旅立っていて流妖斎だけがそこにいた。

「弟子は取らないが同じ日本人でウェイズ殿の紹介ということもあるから、ここにいる間は私の弟子と名乗ることを許そう」

 日も落ちてきたし食事をしようと言われ家に案内された。

 

 遠目で見たときは小さい家……と思ったけど結構広い。 僕が住んでいた家が6畳だったから広く感じてしまう。

 小さくて悪いがここを使え、と言われて案内された部屋が10畳くらいある。

 

 パンと肉が出てきた。

 肉は(アグーラビット)と言うウサギの魔物の肉だそう。

 森や山にいる魔物を倒して肉を食べて皮などは町でお金にしてパンや野菜を買うそうだ。

 魔物の肉って聞くと最初はどうかと思ったけど普通においしいお肉だった。

 

 食べ終わると流妖斎が今後について話を開始した。

 基礎体力の強化、歩法及び身体操作の習得、相手の動きへの対処、武器訓練。

 ここまでが最低ラインで基礎基本だそうだ。

 

 明日から開始するとのことで今日は早く寝るようにと言われベッドで横になるといつのまにか寝ていた。

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