第17話
今、この屋敷にいる全員が、ロビーに集められた。
ロビーは緊張感を放っている。高い壁には、大小様々な時計が所狭しと並び、そのどれもが一風変わったデザインをしている。古びた木製の振り子時計は、まるで人の目のように不気味に揺れ動き、金属製の歯車が露出した機械式時計は、まるで生き物の血管のようだ。中央には、巨大なグランドファーザークロックが鎮座しており、その文字盤には不気味な顔が彫り込まれている。目の部分が時折動き、まるでこちらを見つめているかのようだ。壁の一角には、ガラスケースに収められたアンティークの懐中時計が並び、その中には、蜘蛛の巣が張り巡らされたものもある。
ロビー全体に漂うのは、古びた木材と金属の混ざり合った独特の匂い。時計の針が刻む音が不気味に響き渡る。時折、どこからともなく聞こえるかすかな笑い声や、足音のような音が、訪れる者の背筋を凍らせる。
この豪邸のロビーは、まるで時間そのものが狂ってしまったかのような異様な空間であり、その不気味な雰囲気が、訪れる者に一抹の恐怖を与えるのだった。
此処に来た時も通ったが、水樹は、その時から居心地の良さを感じられなかった。ましてや今は、壁一面に掛けられた無数の時計の圧迫感を、特に感じる。
「あの女探偵を殺害した犯人が、分かっただと?」
一条の声が、時計の音を掻き消すほどの声で響き渡った。水樹は小さく深呼吸し、杖で床を軽く叩いて、言葉を紡ぎ出す。
「――はい。明美子さんを殺害した犯人だけでなく、廣二さんを殺害した犯人も」
「廣二? ……嗚呼、女探偵の変態めいたファンの男か」
一条は、退官後もなお太い腕を組んで、顎を上げて水樹を見下ろすように言った。
「あの廣二って男は、女探偵を殺害したあと、自らドライヤーで感電死した。つまり、無理心中だな。丁度、直前に、ファンなら聞きたくないような話を、そっちの記者のお嬢ちゃんから聞いちゃったからよ」
「わ、わわ、私のせいですか。ごめんなさい!」
三千が首を竦める。水樹が見ていて、可哀想になる怯えっぷりだ。二人の間に立っている旭が小さく挙手した。
「誰のせいというならば、全て殺人を犯した人が悪い訳ですから。まぁ、水樹さんのお話を聞きましょう」
こうして水樹は、今一度、先ほど明美子の部屋で理人に解説して聞かせたような推理を、語って皆に聞かせた。やがて、話が一段落すると、杖で床をこんこんと突いて、
「――明美子さんを殺害した犯人は、廣二さんで間違いありません」
と、まとめた。
「でも、廣二さんは、亡くなってますよね」
旭が挙手してから、意見を静かに述べる。
「廣二さんが明美子さんを殺害したなら、もう明美子さんの部屋には、廣二さんを殺害できる人間はいなかったことになりませんか?」
「ええ、後からやって来たんです」
水樹が言うと、辺りは水を打ったように静かになった。水樹は、視線を一度床に落としてから、もう一度上げて、其処に立っている一人の人物を、じっと見つめた。
「――……そうですよね? 綺羽さん」
綺羽は、じっと胸に両手を当てたまま、眉一つ動かさなかった。
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