第32話 奮闘激走
がっつりステーキを食べて、翔太くんとも一戦を交えたおかげで、すっきり爽やかな目覚めでレース当日を迎えることができた。
沖縄の日差しは12月でもきつい。私たちは日焼け対策を兼ねてサングラスで変装し、周囲に気づかれることもなくスタートラインに並ぶことができたのだが…
「本日は、なんと弟宮陛下のご長女、雅姫≪みやび≫様が出走されます」
サプライズとかで、いきなりスターターに名前を呼ばれてしまった。
並んだランナーたちが騒然となったので、私はサングラスを外して手を振った。
「あっ、姫様だ!」
「本当だ! ここに雅姫が!」
周囲の視線が一斉に私に集まった。
冴島には「姫様!」とたしなめられたが、時すでに遅し、カミングアウトしてしまったものは仕方がない。
隣では、翔太が「あーあ、やっちゃったよ」という顔をしている。
いよいよカウントダウンが始まり、そしてスタートの号砲が鳴った。
最前列の私の周囲は、いかにもって感じの速い人ばかりで、その人たちが、「頑張って」とか「楽しんで」とか「マイペースでね」とか「絶対完走だよ」とか、声をかけながら、すごい勢いで私たちを置き去りにしていく。
私たち三人は、私の走力にあわせてマイペースで走り出した。会場を出てからも、私は追い抜いていくランナーからエールをいただき、それに手を振って応え続けた。 メインストリートの国際通りに至る最初の数キロで、私たちは、おそらく一万人以上に追い抜かれたと思う。
ランナーばかりではなく、沿道の応援もすごい。歌ったり、踊ったりしながらの応援もあって、とにかく沿道の人垣が途切れることはない。
私が走っているというニュースは沿道の人達にも伝わっているようで、私を見つける見つけると「姫様ー!」と応援のボルテージが一層あがる。
私も声援に応えてずっと手を振りっぱなしだ。
公設、私設を併せ、エイドステーションもたくさんあった。ここでも私を見つけると、「姫様!これ食べてって」「これ、飲んでって」と声がかかる。
日が高くなるにつれてさらに暑くなってきたので、冷たい飲み物のサービスはありがたかった。でも、そのたびにエイドステーションに立ち寄っていたので、なかなか前に進まない。
コースもアップダウンが小刻みに続く、なかなかの難コースだ。
それでもなんとか長い坂道を上り切り、3時間弱で中間地点の平和祈念公園に到着した。
ここでもボランティアの人たちにたくさん応援のエールをいただいた。
ここでかなりの人がリタイヤするらしく、それを収容し、スタート地点に搬送するためのバスがたくさん止まっている。
「姫様、どうします?」と、冴島に聞かれたけど、これだけ応援してもらって、ここでやめる手はない。
「気分がいい。このまま最後まで走る!」
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