第6話 雅姫独白

 ガキんちょと侮っていた五歳年下の男に図星を突かれてしまった。


 彼の言う通り、私には、山室圭介≪やまむろけいすけ≫という、彼と呼べる存在がいる、というか、もう、いたと言った方が正確かもしれない。


 彼は法科大学院を卒業し、現在司法試験に挑戦中だ。

 司法試験の受験は、受験資格の取得から五年間という制限がある。試験は年一回、法科大学院卒業から五回の挑戦が可能だが、彼はもう三回失敗している。


「司法試験に受かったら結婚してください」

 大学院在学中に付き合い始めた彼は、最初の司法試験受験着前に、自信満々に私にそう言った。

 その時は、王族という地位を棄て、一人の市井の女性として彼と共に歩む人生もありかなと思った。


 それが、不合格を重ねるたびに、彼は追い詰められ、寡黙になり、それに伴って私たちの関係も冷えていった。

 

 私は王族の娘、王宮から離れ、自立して、働いて司法試験に挑戦する彼を支えていくなんてことはできるはずもない。それでも彼が強引に決断を迫ってくれれば、私も少しは迷わなくもいのだけど、彼にそんな勇気があるはずもない。

 

 煮え切らない彼、この一年は時折お座なりな連絡はあるものの、以前のように人目を忍んで会うこともない。二人の関係は風前の灯火、彼があと二回不合格を重ねれば自然消滅ということになるに違いない。


 そんな時に突然私の間に降ってわいてきたのが、この王位継承者、綾小路翔太くんの一件だ。


「私には彼がいるから」と傍観者を貫けば、おそらく彼は葵姫と婚約という運びになるのだろう。

 国王の一人娘という優位な立場に胡坐をかいて、何にもしなくとも将来を約束された男を手に入れてしまうだろう、三つ年下の従姉の存在に、反骨心がむくむくと湧いてきた。


 会うこともままならない彼を一途に待つよりも、ここはひとつ二股をかけてやろうではないか、その翔太くんとやらを誘惑してやろうじゃないか。そういう気になった。


 両親に伴って、彼との会食に臨んだ。

 初めて見た翔太くんは180㎝を超す長身、なかなかのイケメンで、背丈が私と同じくらいで眼鏡男子の圭介とは真逆の容姿をしていた。


 緊張はしているのだろうが、それでも真摯に父の話に受け答えをしながら、旺盛な食欲を見せる翔太くん。第一印象は「合格」だ。


 五歳の年の差、若さ溢れる彼の様子に少し怯んだが、なんの、彼より年上なことは葵姫だって同じだ。

 それに、葵姫より私の方が美人だし、胸も大きい。


 花の命は短いのだ。26歳と言えば女盛りなのに、私は男性は彼しか知らない。しかもここ一年ほどは全くのご無沙汰。

 若くて、見るからにエネルギッシュな翔太くん、脳内で彼を裸にし、その逞しい彼の胸に抱かれる自分を妄想してしまった。


 会食が終わると事前の打ち合わせ通り両親が退席、私たちは二人きりになった。

 かなり緊張した様子の翔太くんに、ここは年上ぶって、上から目線で畳みかけてみた。


「それで、葵姫とは、もうしちゃったのかな」

「私、なんか、葵姫、気に入らないのよね。」

「私があなたを楽しませてあげるわ。どうせ年上貰うんなら、私の方が良いわよ」


 でも、彼に、私が二股をかけてるのを見透かされてしまったようで、私はすっかり動揺してしまった。

 純朴そうでいて、結構女性には慣れているのかも、一人しか男を知らない私より、ずっと経験豊富かもしれない。


 こんな上玉をみすみす葵姫に渡す手はない。両親もきっと全面的に協力してくれるだろう。二人の間に割って入って、ついでに身体の方も満足させてもらっちゃおう。 


 五個も年下の男に主導権を取られてはいけない。戦略的撤退、今日のところはいったん引き下がろう。

 「彼のことで相談に乗ってほしい」とか言えば、きっと結構親身になってくれそうなタイプだ。相談をするふりをして、勢いで押し倒しちゃおうかな。




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